2018年1月 大阪交響楽団第215回定期演奏会 | youtubeで楽しむクラシックと吹奏楽

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2018年1月12日(金)ザ・シンフォニーホール

<指揮>

寺岡 清高(常任指揮者)

<曲目>

ハンス・ロット: 「ハムレット序曲」(日本初演)
ハンス・ロット:「管弦楽のための組曲 変ロ長調」からの二章(日本初演)
ハンス・ロット:「管弦楽のための組曲 ホ長調」からの二章
マーラー:交響形式による二部の音詩「巨人」1893年ハンブルク稿(国際マーラー協会新校訂全集版)

 

演奏に先立つ指揮者によるプレトークでは、寺岡さんが開口一番に「今日のプログラムを目当てにお越しになられた方は相当な物好きと思います」とお話になられた。「その物好きの一人が自分なんですが・・・」とつい苦笑してしまったが、前半が近年再評価の進むハンス・ロットの日本初演を含む初期の作品、そして後半がこちらもこれを逃すといつ聴けるかわからない「巨人」のハンブルク稿とあらば食指を動かさぬわけにはいかない。まんまと作戦にハメられたと気がしなくもないが、こういう曲目は日本国中探してもこのオーケストラ以外にやってくれそうなところはないのではないだろうか。もちろん、第一義的には地道に良い演奏を続けることがオーケストラの経営をより良いものにする最大の方法には違いないだろうが、このオーケストラに関して言えば、その部分も満たしつつ、さらに他のプロオーケストラでは満たすことができない需要を丁寧に拾い上げてこうして具現化してくれる。このオーケストラを聴くために東京を初め他の地方からわざわざ駆け付けるファンがいるというのも頷ける。

 

前半はロマン派の青年群像を地で行くハンス・ロットの作品。前世紀末の交響曲のリヴァイヴァルによりようやく日の目を見るようになったのをきっかけに、「こんなに良い曲を書くのだから、他にも彼の作品を聴いてみたい」と思う人が現れるのは当然だろう。作曲家としての彼の活動期間は実質4年。その非常に短い期間の中で完成されないまま書き残された手稿を補筆し、演奏できるようにしたものの一つが今回披露された「ハムレット」と「組曲」である。まず、「ハムレット」は1876年というから彼が18歳の時の作品。年号を聞くと勘の良い人ならピンと来るだろうが、この年には第1回のバイロイト音楽祭が開催されている。ロットは大いに感銘を受けて帰ってきてこの曲を作曲したというだけあり、分厚い金管楽器のハーモニーを多用するなどワーグナーの影響が濃厚だ。「交響曲」と比べるとまだまだオーケストレーションが未熟で、前述の金管楽器のハーモニーももっと効果的に鳴る音運びがありそうな気がしたが、習作としては上出来ではないだろうか。

 

続いては変ロ長調とホ長調のともに未完の組曲からそれぞれ2曲ずつ。変ロ長調(実際に聴いた感じは変ロ短調)の方は「ハムレット」の翌年の19歳の時のもの。こちらはメンデルスゾーンからブラームスやブルックナー、そしてマーラーへと続くバッハのリヴァイヴァルの流れを組んだバロック音楽を模した作品。何も知らずに聴かされると新古典主義の作品と勘違いしそうなくらい響きが意外とモダンでなかなか楽しめた。続いて演奏されたホ長調(なぜか彼の作品の大半は交響曲を初めホ長調が多いが、よほど好きなのだろうか)の組曲は前の組曲の1年後の作品。こちらは同じ調性ということもあってか、後にあの交響曲へとつながっていくものを感じさせる。最初の「ハムレット」からわずか2年だが、楽器の使い方に熟達してきていることが伝わってくる佳作である。寺岡&大響は作品のありのままの姿を過不足なく描き出す好演だった。

 

そして後半は「巨人」のハンブルク稿・・・と思いながら聴き進めると、どうやら筆者が知っているそれとかなりの部分異なることに気付く。特に顕著なのはホルン。ステージに4名座っているのに、さらに舞台裏から別働隊のホルンが聞こえてきて、後からステージに入ってきて合計7名となる。確かハンブルク稿はホルン4本だったはずでは・・・と慌ててプログラムノートを開くと、クービクによる校訂版とのことで、実は第2稿であるハンブル稿と現在の交響曲の形を取るベルリン稿の間には1894年に演奏されたヴァイマル稿というものがあり、ほぼそちらに近いものなのだそうだ。トランペット4本、ホルン7本という編成は決定稿と同じであり、我々が通常のハンブルク稿を聴くときに感じる金管パートの弱さはなく、いわば一時流行した「花の章」付きで交響曲を聴くのとほぼ同じと言えるだろう。とはいえ、ブルックナーのハース版とノヴァーク版くらいの(初稿と改訂版ほどの差はない)差異はあるので、通常我々が知る「巨人」とは異なる音響が時折聴こえてきて、なかなか楽しめた。特に印象に残っているのは、第3楽章(交響曲版では第2楽章)の冒頭は、一般のハンブルク稿では低弦にティンパニが加わるのに対し、今回の版では低弦のみ。また第4楽章(同第3楽章)冒頭のフレール・ジャックのテーマはチェロの合奏ではなくコントラバスの独奏など、交響曲版にかなり近寄っていた。

 

演奏については、ホルンとトランペットにやや力みが見られ、それに伴ってのミス・トーンが散見されたのがやや残念だったが、このオーケストラの持ち味である熱量の高さが否が応にも客席を引き込んでいく。もちろん大フィルにも大阪のオーケストラらしいノリの良さというものはあるが、こちらはすでに創立から40年近くになろうというのに今も若々しい熱気を保ち続けているのは何と素晴らしいことか。近年はそれに加えて演奏も安定してきている。次シーズンも意欲的なプログラムが並び、さらに期待が高まろうというものだ。