「約束の場所
思い出の場所
写真を撮ってきたので送ります。
このアドレスも変わってるかもしれないのですが、送ります。この写真に、見覚えが無ければ、すいません。」


知らないアドレスのメールが届いた。
いつもなら見たりしないのに、ましてや添付ファイル付きのメールなんて、すぐゴミ箱入りなのに、
そのメールを開いた。

綺麗な風景の写真が二枚送られてきた。
中央に木がある。

霧がかかった様に見えた。

「すいません。見覚えがないみたいです。」
そう返信してみる。

「すいません。
以前、このメールアドレスを使っていた人に送るつもりでしたが、やはり変わってしまった様ですね。すいません。」

「いえ、大丈夫です。
こちらこそ、知らないのに、写真見てしまいました。すいません。」

「メール捨ててください。ご迷惑かけてしまいました。」

少し悩んで、
「添付の写真を、頂いてもいいでしょうか?」
そうメールを送る。


中々返信が 無かった。
当たり前か。
スゴく大事な思い出の場所を、これ以上触られたくは無いよな。
既に、「捨ててください。」と言っている。
写真に想いが感じられて、息苦しささえ覚えるのに、手元においておきたくなった。

少し早い時間だったから、もう一度布団被り直して、眠った。

次に目覚めた時、メールの事は、すっかり忘れていた。

12月にしては暖かで晴れたこの休日をどう過ごそう。
久しぶりに、遠出して美術館でも行ってみようか。
以前から気になっていた、庭園の綺麗な美術館には、お似合いの日かもしれない。
ランチも美術館近くに行けば、何かあるだろう。
大学のキャンパスも近い場所だから、お手軽ランチも期待出来そうだ。

それに、先週購入したワンピースを着ていく先が見つかった事も嬉しかった。

美術館の場所は、ここより少し寒そうだから、上にカーディガンを羽織って行こう。
コートやブーツをどれにしようかと考えながら、珈琲を入れる。

美術館までの所要時間を検索する。
ついでに美術館のホームページも覗いて今の展示内容を確認したが、
常設展示以外特別なものはなさそうだった。

今日は庭を中心にまわってみればいい、そんな計画をして、さっと用意をして家を出る。

駅までは少しの距離なのに、歩くスピードがのらない。足も休日モードの様だ。
駅に着くとタイミングよく電車か到着した。
美術館まで電車を2回乗り換えるが、微妙な時間帯なのか、乗客はまばらで、ゆっくり座っていられた。

美術館近くの駅に到着した時、とてもお腹が空いていることにきずく。

そういえば、昨日の昼食からたいして食べ物を口にしていない。
仕事で遅く帰って、何か作るのも面倒だったから、ビールを飲んで、サラダを少し食べたくらい。
たくさん飲んでいないのに、とても眠くてベッドへ倒れ込む様に眠ったんだった。

美術館の途中で、軽く食事をしよう。

少し遠回りだけど、大学のキャンパスの方向から美術館へと向かう。
その方がお店もたくさんありそうだし。

途中何度か外国人に道を尋ねられて、英語も中国語も話せないので、その度に横道にそれながら、美術館へと向かう。

大学近くの可愛いカフェでクラブサンドと珈琲を頂いて、やっと美術館の前にたどり着く。
かなり歩いたな。
建物の写真を数枚撮って中に入る。

久しぶりに感じる空気感に呼吸を合わせて、ゆっくり常設展示を観ながら、美術館を楽しむ。
そして、庭へと向かう。


建物の中に、庭を眺められるソファーが置いてあった。
よく歩いたので、ゆっくりソファーに腰を下ろして庭を眺めた。

美しい庭だ。遠くの山を背景にしている。
スゴく静かで、暖かなものを感じる。

のんびりと何も考えない時間。こういう時間と空間がとても好きだ。
見えているものは常に不確かで、心に問いかけなければ、折れてしまいそうになる。

こういう時間をまた少しづつ増やしていこう。心を空っぽにして、新しいものをたくさん吸い込める心にしよう。

ずいぶんそこに座っていたような、さして時間が経っていないような、穏やかに庭を眺めていた、
そんな時、そっと空から白いものが落ちてきた。
ちらちらと、ゆっくりと落ちてきた。

思わず、
小さく「あっ」と声が出て、
そして急に涙が出てきた。
涙があふれてきた。

そうだ。
知っている。

この庭ではなく、
あの「木」を知っている。

確かに知っている。

急にたくさんの事が頭にあふれてきて、
涙が止まらない。