逆行電車 | 餅セロリのブログ

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ブログを記することによって、日常に少しの彩りができたらいいなと思います。気ままに更新します。

それは蚊ではなく、下の階から聞こえてきた演歌歌手のビブラートだった。

雨音と扇風機の音が心地よく、ベッドの上でタオルケットをかけ10分ほどうとうととしていると、蚊のぷぅ~んという音で目が覚めた。だけど違った。

祖母が見ていたテレビの音だった。

暑さのせいなのか、夏休みで皆出ているのか、街はいつもより静か。家の生活音だけが聞こえ、まるでこの街にこの家族しかいないかのように響く。

寝ぼけた意識のなか、何年か前の夏を思い出していた。

その年の東京は今年のように記録的な暑さで、お盆を迎えた街は、やはりどこか静かで寂しげだった。
いつものように赤い電車のホームに立っていた私は、いつものように駅ビルで買い物をして、スタバで本を読んで帰ろうと考えていたが、なんだか急に逆方向の電車に乗りたくなった。

かかとを軸にして後ろにターンすると、ちょうど逆行電車がホームに入ってきたところだった。
さもさも、初めからこの電車に乗るはずだったかのように空いている車内に入る。

電車内のいつも気になっていた広告を見つける。
あの場所へ行こうとその時に思った。
馬堀海岸で降りて、そのあとはどうやって行ったのか覚えていないが、あるホテルに着いた。

当日の宿泊予約は、ばか高い料金だったが、なぜかあっさりとその部屋をとってもらった。多分、かなり仕事の疲れがあったのだろう。
海が見えるお風呂に入って、マッサージを受けて、部屋に入り、エアコンの音だけが聞こえるベッドの上でまた海を見た。

そして、今やっている仕事を辞めようと思った。

あのとき、逆行電車の到着がもう少し遅かったら、まだ仕事を続けていたのかも知れない。今頃暑さに疲弊しながらあの駅のホームに立っていたのかも知れない。

夏の静寂が訪れると、この静けさと共にあの8月を思い出す。