きょとんとした視線を放つ大きな瞳が、

俺に向けられたものだと感じたのは車をコンビニの入り口前につけて降りようとしたときだった。


ふぎゃ、とでもいうのだろうか猫が驚いたような声を出して、アイツは慌てて恥ずかしそうにおろおろしていた。


『コータローくんだよね。ひさしぶり。』

『えと。士朗さんですよね。こ、こんばんわ。な、何しに?はっ、買い物?だよね。。。。買い物ですよね?』


相変わらずの一人三段活用と見つかった気恥ずかしさでどうしたらいいのか分からなくなってる姿が可笑しくて、ついクスクスと笑いそうになる。だけど、ここでからかって嫌われるのもしのびないなと思い直して努めて紳士に徹することにした。


『仕事帰りだよ。お得意様がこの近くなんだ。喉が渇いてたし、煙草も切れてたからね。

コータロウくんは?』


『オレも煙草が切れたのと、アイスでも食べようかなって。』


そう言ったコータローの手には雨上がりの蒸し暑さに溶け出したアイスの雫が落ちていた。

ダッシュボードの中からウェットティッシュを取り出し差し出す。


『手ベタベタするから、これで拭きなよ。』


オレに言われて、はたと右手のアイスを見つめなおして

『あー。ホントだ。』といいつつ残念そうな、

悪いことを見咎めれてしまった子供のように目の前のおじさんにどう対処するのか決めかねてそうな目がまた可笑しかった。



『大丈夫だよ。そんな目で見なくても。』

そういって、ウェットティッシュを左手に掴ませると、へらと安心したように笑ってコクリ頭を下げた。


そんな骨太の程よく筋肉の付いた体がが気恥ずかしそうに、モゾモゾと動くさまが似ていると思った。

あのひともこんなふうにとても体育会所属の大学生とは思えない、朴訥とした子供のようなひとだったな。

そして、オレはやっぱりこういう手のかかる人に弱いんだろう。

流石はママだと。あの日俺の心を見透かしたように笑った顔に、完敗だよと心の中で手をあげた。


ありがとうございます、と礼を返そうとするコータローの言葉を遮ったのは惹かれたからに違いはなかった。


『なあ。ココで少し待っててくれないか?』


そういうとコータロウは目を大きく丸めて、驚いた表情を見せた。

その拍子に手に持ったアイスが芯棒だけを残して滑り落ちた。


その様子が出会ってまだ間もない二人だったけれど、あまりにもこの子らしいなと思えて堪えていた笑いを吐き出して笑ってしまっていた。


『捕って食ったりしないから、少し話したいなと思ってさ。』


ほら、この前花火大会がとか言ってただろ?

そう言うと、やっと気恥ずかしそうにしていた顔が緩んだんだ。


『えっと、じゃぁ。ちょっとだけ。』

そういって満面の笑顔で笑った。


『ヨシ。じゃぁ、すぐ戻ってくるから。』

そう声を掛けて、店内へといそいそと入った。









in 1's free。




あの雨上がりの夕方に出会ったことを、僕らは運命のように思ったけれど。
でも、それは今だから言える事なのかもしれないね。

きっと運命だとか恋だとかが始まった瞬間っていうのは過ぎてしまった、
そのときを振り返ることで思える"理由"なんだ。





in 1's free。


                



夕方になっても、昼間に火照った体がいまだ熱を溜め込んでいる気がした。

夏が遅れてる遅れてると言っても、やっぱり季節は着実に動いてる。

こんな仕事をしていれば体がそれを教えてくれるもんだと思う。


いつまでも放熱しない体をもてあましてベッドからフローリングへと転がる。

一日中柱に上に乗って安全靴越しにとはいっても熱気を浴びせられていた足は浮腫みきっていて

ジンっと鈍い痛みがしていた。


床から伝わる冷たさが気持ちいい。


ーきっと、すごく単純なことで。

 いつまでも雨が降り続けているから、夏がやって来ていないわけじゃなくて。

 本当はどんな夏でも、夏は夏だ。


でも、ひとはやっぱり期待しちゃうから夏が遅れてるって思いたくなるんだ。

それはなんていうか、ひとっていう生き物だからなんだろうなって気がする。


子どもの頃に選んだ天井の青空の壁紙を見ながらなんとなくそう思った。

夜の帳が差し迫ろうとしているこの部屋ではだいぶ翳った空に見えるけど。


どのぐらいそうしていたんだろう。

フローリングの冷たさも、体の熱を全て吸い取ってくれるには役不足だ。

少し温く感じてはゴロンと転がりなおす。

そんなことを繰り返してたけどむくりと起き上がる。


『そだ。アイスっ。』


コンビニにアイスを買いに行こう。

一番痛い踵を刺激しないように階段を駆け下りる。


『母さーん。オレ、アイス買ってくるねー。』


それだけリビングにいる母親に言い残して、玄関を飛び出して車に乗り込で

コンビニへと向かってアクセルを踏み込みハンドルを切る。



こんなに天気に見放されても、毎日頑張ってんだから。

自分で自分にご褒美だっ。

少し緩くなってきてる腹肉はこの際見ないふりを決め込もう。


さっきまでダラダラしてたのに我ながらすごい変わりようだと思うけど、

それはそれ・これはこれだ。


車を駐車場に停めていそいそと店内へと入ってく。

アイスとコーラを持ってレジへの急ぐ。

それから煙草をついでに店員に頼む。


『ありがとうございますー。』

そう言う店員の声を聞いたのは、もう出入り口の自動ドアが開いたあとだった。


自動ドアが閉まる独特の開閉音を後ろに聞いて

アイスをの包装を破って、一口齧る。


ーん。やっぱりコレだな。この夏はコンビニアイスで乗り切ろう。

なんてわけの分からないことを気分のままに思ってみた。


そのとき。


『×××。


どこかで見覚えのある雰囲気をまとった人影が目にとまって。

どうしてとか、なんでと思うよりさきに声が漏れていた。




それは多分、驚きとか疑問とかじゃなくて。

ごくごく単純な。


単純な感情だったと思う。