short×2 Vol.3 『恋人以上、友だち、以上・・・。』 | ■Short×2■ Loveletter From ・・・

short×2 Vol.3 『恋人以上、友だち、以上・・・。』

 電車は大きな音を立てて夏の風を切る。窓の外を懐かしい風景が通り過ぎていく。
まだ何ヶ月も離れてはいないのに、もう何年も経ったような懐かしさを感じる。


 私の肩にもたれるように、幸恵が寝ている。窓から入る日差しに時折まぶしそうに顔をしかめる様子が愛らしい。
電車が少し揺れ、彼女が目を覚ます。

「見てたの?」

彼女がほっぺたを膨らませて怒ったふりをしてみせる。

「うん。あまりにも可愛らしいんでね。よだれ出てたよ。」

「もう!」

こんなたわいも無いやり取りだが、生まれて一番の幸せを感じる。



私は彼女のおかげで成長できた。

 幸恵とは東京で知り合い、すぐに意気投合した。きっかけはたわいも無い事だが、好きな食べ物や趣味の話で盛り上がった。
友だちでいる期間もほとんど無く、急速に惹かれていく私たちは、幼すぎて、愛だとか恋だとか語ることもできず、肌を見せ合う関係になった。
それでも二人には早すぎるなんて気持ちは無かったし、後悔もしていない。

 世間で言う、付き合うということはどういうことなのだろうか。私たちはどちらもそれを求めない。
不思議な関係だ。



電車は、よりいっそう故郷の臭いの濃くなる空気を裂いて進んでいく。


 今回の私の帰郷に、幸恵もついて来た。幸恵は東京に友だちもいないし、一時も離れる事が許されないような、恋人以上のつながりを感じていて、たった2日のことではあるが離れる理由がないので一緒に来た。
 両親にこの関係を説明するのはわずらわしいが、たまにはこのくらいの刺激が必要だろう。


 幼さというのは、たまに恐ろしい。力強くその幹を太くする分、その力がお互いを傷つける。
何度涙を拭き合っただろうか。たったひと月の間に、私たちは傷つけあい、慰めあい、己を学び、異性を学び、そして大人へ少しだけ近くなった。



夏が終わる。私たちが呼吸を共にした夏が。

来週からは、幸恵は東京に戻り私は残る、また低俗な生活が待ち受けている。
決まった時間に机に向かい、決まった時間に休み、決まった時間に決まったものを食べ、決まった時間に帰る。なんとも退屈な生活だ。

 今の社会のシステムがどうも肌に合わないと感じはじめてから、一年以上になる。少なくとも後4年、いや七年はこの制圧が続くと考えると、ため息をつくのさえ億劫に感じる。

 幸恵と一緒にいられるのはあと2日。離れる事の許されない関係も、社会が決めたカレンダーというものには逆らえない。



車輪が軋む音が耳に障り、電車の到着を知らせる。


決めた。
この想いを書きとめよう。
そしてぶつけてやろう。

夏休みの思い出として。




・・・2日後。


幸恵との思い出を書き留めたノートを抱え、私は家を出る。
軽い社会復帰だ。
すこしだけ大人になった私を見て、皆はどう思うのだろうか。
幸恵は東京で、さみしくしてないだろうか。
そんなことを考えながら、通い慣れた道を行く。


 太陽だけが私を見透かすように、影を色濃く道に焼き付ける。
ノートをもつ手に汗がにじんでいた。


「なつやすみのおもいで とうきょうでさちえちゃんという子とお友だちになりました。いっしょにプールに行ったり、おすもうしたり、ごはんをたべたりしてたのしかったです。
けんかをしたときはかなしかったです。でもでんしゃにのっておもしろかったです。さちえちゃんはとうきょうにもどっちゃってさみしいけど、またあそびたいです!がっこうはおもしろくないけど、がんばってべんきょうしようかなとおもいました。

○○しょうがっこう 2ねん3くみ いしだじゅんいち」



おしまい