short×2 Vol.2 『MとAの真実』
いつもの高い声で「おかえり」と、美奈子が私の帰りを出迎えてくれた。
美奈子とはもう5年になる。華奢な体ではあるが、ずっと体育会系であるせいか足腰はしっかりしている。今日はバレンタインデーだからなのか、いつもより化粧が濃い。
部屋の中にハンバーグの匂いが満ちている。30平米位の部屋にパイプベッド、小さなテーブルとソファーが置いてある。ソファーは真っ赤な革張りで美奈子の一番のお気に入りだ。小さなテーブルに二人分の食事が載ると、もう定員オーバーだ。
世間ではバレンタインデーの夕食に何を食べるのだろうか。そんなことを考えつつ、ハンバーグを口に放り込む。美奈子の得意料理はハンバーグとトマトスープ、それと柚子アイスだったと思うが、週に3回はこれらが食卓に登場する。食べるものに関して言えば、慣れることは重要な事だ。
ふと気づくと美奈子が私の顔を見つめている。その瞬間口の中に強烈な甘い刺激が走った。刺激の主がチョコレートだと気づくのに随分時間がかかった。その間、行き場のない口の中のモノを吐き出すべきか飲み込むべきか、何度も部屋の中を行ったり来たりした。
美奈子はチョコレート入りのハンバーグを指差し、声をあげて笑っている。普通なら頭にきてテーブルをひっくり返すところかもしれないが、そうしないのは私がフェミニストだからではない。美奈子の笑い声はすべてを許せるからだ。美奈子のそんなユニークなところが大好きだった。私は美奈子を愛している。
彼女の特徴は、はっきり言ってわがままなところだ。いつも会う度に何かせがまれている気がする。
テレビを見ながらいつもの話が始まったのだが今回のそれは、また格別だった。
「ねえタカ、今度はあれが欲しいな。」
「えっ、また?」
「だめ?」
「だ、だめじゃないけどさー。この前も買ったじゃん?」
「これも欲しいの!」
「お金がないよー。」
「よく話してるお金持ちのサラリーマン兄弟に借りたらいいじゃん!」
「でもあんまり借りると何が起こるかわからないからさ。ちょっと恐いじゃん。外資だし。」
「もう!タカの弱虫!」
「でも普通じゃ買えないんだけど・・・」
「だったら普通じゃない方法で買って!」
彼女に押し切られ、しかたなく800を用立ててもらう。今回は人生かけての大勝負になってしまった。
こんな私だが、会社を経営している。多くは無いが社員だって抱えているのだ。
「じゃあ会見があるから。俺行くね。」
ジル・サンダーのジャケットを羽織って六本木の会社に戻る。彼女が「超似合うー♪」と勧めるので買ったが、友だちとかぶっていて少しへこんだ。
「明日は忙しいから、朝一の時間外に注文しとくよ。」
「わーい。やったー。タカありがとう!きっかけはー♪」
翌日、テレビ各局はこのニュースで大賑わいだ。
こうなる事はわかっていたが、彼女を止めることはできない。人生が終わるかもしれない。
それでも私は買いつづける。彼女を愛しているから。
『ライブドア ニッポン放送株35%取得!CB発行でリーマンブラザーズより800億円調達!』
これからも私は戦いつづける。美奈子と愛(M&A)のために。
ホリエタカフミ
美奈子とはもう5年になる。華奢な体ではあるが、ずっと体育会系であるせいか足腰はしっかりしている。今日はバレンタインデーだからなのか、いつもより化粧が濃い。
部屋の中にハンバーグの匂いが満ちている。30平米位の部屋にパイプベッド、小さなテーブルとソファーが置いてある。ソファーは真っ赤な革張りで美奈子の一番のお気に入りだ。小さなテーブルに二人分の食事が載ると、もう定員オーバーだ。
世間ではバレンタインデーの夕食に何を食べるのだろうか。そんなことを考えつつ、ハンバーグを口に放り込む。美奈子の得意料理はハンバーグとトマトスープ、それと柚子アイスだったと思うが、週に3回はこれらが食卓に登場する。食べるものに関して言えば、慣れることは重要な事だ。
ふと気づくと美奈子が私の顔を見つめている。その瞬間口の中に強烈な甘い刺激が走った。刺激の主がチョコレートだと気づくのに随分時間がかかった。その間、行き場のない口の中のモノを吐き出すべきか飲み込むべきか、何度も部屋の中を行ったり来たりした。
美奈子はチョコレート入りのハンバーグを指差し、声をあげて笑っている。普通なら頭にきてテーブルをひっくり返すところかもしれないが、そうしないのは私がフェミニストだからではない。美奈子の笑い声はすべてを許せるからだ。美奈子のそんなユニークなところが大好きだった。私は美奈子を愛している。
彼女の特徴は、はっきり言ってわがままなところだ。いつも会う度に何かせがまれている気がする。
テレビを見ながらいつもの話が始まったのだが今回のそれは、また格別だった。
「ねえタカ、今度はあれが欲しいな。」
「えっ、また?」
「だめ?」
「だ、だめじゃないけどさー。この前も買ったじゃん?」
「これも欲しいの!」
「お金がないよー。」
「よく話してるお金持ちのサラリーマン兄弟に借りたらいいじゃん!」
「でもあんまり借りると何が起こるかわからないからさ。ちょっと恐いじゃん。外資だし。」
「もう!タカの弱虫!」
「でも普通じゃ買えないんだけど・・・」
「だったら普通じゃない方法で買って!」
彼女に押し切られ、しかたなく800を用立ててもらう。今回は人生かけての大勝負になってしまった。
こんな私だが、会社を経営している。多くは無いが社員だって抱えているのだ。
「じゃあ会見があるから。俺行くね。」
ジル・サンダーのジャケットを羽織って六本木の会社に戻る。彼女が「超似合うー♪」と勧めるので買ったが、友だちとかぶっていて少しへこんだ。
「明日は忙しいから、朝一の時間外に注文しとくよ。」
「わーい。やったー。タカありがとう!きっかけはー♪」
翌日、テレビ各局はこのニュースで大賑わいだ。
こうなる事はわかっていたが、彼女を止めることはできない。人生が終わるかもしれない。
それでも私は買いつづける。彼女を愛しているから。
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これからも私は戦いつづける。美奈子と愛(M&A)のために。
ホリエタカフミ