久しぶりに音楽の記事を書きたくなった。
晴天が続く東京郊外、今年は時折寒い日もあったせいか、開花のバカ騒ぎから2週間以上たった今でも、まだ、あちこちで桜が残っている。
少しホワイトアウトした桜並木の風景は、僕の遠近感を混乱させる。日常の風景がいつもより遠く、なにか捉えどころのない空間に入り込んでしまったかのようだ。
そんな僕の頭に、懐かしいメロディが浮かぶ。
シニード・オコナーの「Nothing compares 2 U」だ。
80年代にプリンスが作ったこの曲は、1990年、坊主頭の女性シンガー、シニード・オコナーがリメイクして大ヒット曲となった。覚えている方も多いだろう。
歌詞の内容は、ボロボロの失恋ソングだ。
"compare to" は中学生あたり?で習った単語で、「~と比較して」とか「~に匹敵する」という意味。タイトルを訳すと「あなたにかわるものなんてない」って感じだろうか。
あくまで僕の印象だけど、ポップスやロックの歌詞で、この "compare to" という単語を、あまり聞いたことがない。
「2U = to you」や「4 U = for you」なんかも、当時プリンスがよく使っていて、こんな語感の新しさが、いかにも80年代って感じがしたよね。
”Nothig compares to you” = ”You are everything”
「あなたがすべて…」
そんな愛情を失ってしまった…、という曲だ。
Nothing compares to you / Sinead O'Connor 1990
1フレーズからぐっと感情を掴まれる、この感じ。
It's been seven hours + fifteen days
Since U took your love away
I go out every night + sleep all day
Since U took your love away
Since U been gone I can do whatever I want
I can see whomever I choose
I can eat my dinner in a fancy restaurant
But nothing, I said nothing can take away these blues
'Cos nothing compares,Nothing compares 2 U
7時間と15日が過ぎたわ
あなたが恋人(私)を捨ててから
私は毎晩出歩いて、昼中寝てるような日々よ
あなたが恋人を捨ててから
あなたがいなくなって、やりたいことは何でもできるわ
会いたい人にも、誰だって会える
すてきなレストランで食事もできる
でも、この悲しみを消すことなんてできない
だって、あなたにかわるものなんてないから
§§§
人気の少ないベンチに座って、スマートフォンで動画にアクセスする。
歌声が僕の感情を覚醒させる。
視線の先には、陽に当たる桜の風景。
少し冷たい風が心地いい。
もう、ここがどこかなんて、どうでもいい…。
宴会が苦手な僕は、花見をしたことがない。桜を見れば「ああ、きれいだな」とは思うけれど、でも、それほど花や木や自然が好き…、というワケでもない。
本当に花や木が好きな人は、例えば、時たま通る通りでも、どこどこに、何の木が植えられていて、どこどこに、何の花が咲いているか、そんなことをよく知っている。
「あそこのね、○○の花が咲いて、すごいいい匂いなの!」
そんな話を嬉しそうに話している…
”Nothing compares to you”
… あなたにかわるものなんてない…。
僕が、そう思えた彼女は、そんな女性だった。
それは、この曲がヒットしていた頃のこと。
… 彼女も、花見が大嫌いだったよなぁ…。
僕は空を見上げた。
もう、それしかできなかったからだ。
<おわり>