<④のつづき>
… 少し話がそれる。
男は毎日仕事して、酒を飲んで帰る。
それが「あたりまえ」だった時代があった。
20代の頃、小さな会社で社長のパシリとして営業まわりを
していた僕は、格好のターゲットだった。
§
夕方、取引先に行くと、そこの社長が手招きする。
「もう仕事はいいから、行くぞ!」
取引先の社長と、うちの社長とで話はできている。
ぼくの予定などお構いなしだ。
海沿いのゴルフ打ちっぱなしで2時間、その後は、ひとりではまず入りづらい小料理屋や料亭、ビルの一室のスナックやクラブ、さらにサウナやカプセルホテルまで、フルコースである。
楽しそうだと思われるかもしれないが、どの店でも放置が基本だった。どこへ行っても、その社長と店のマスターやママが楽しそうに話していて、それを横で聞いているだけなのだ、なかなかつらい。
そしてどの店でも、散々食わされ、飲まされた。これも基本だ。
§
ぼくはまるでゴルフに興味が無い。2時間ひたすら打っても、まともに当たりもしないのだ。隣でその社長が気持ちよさそうに飛ばしている。そして帰り際に必ず言われる。
「へたくそ!」
またある時、スナックでその社長に何気なく仕事の話をしてみた。
「そんなことはいいんだ!飲め!ママー、いつもの入れて~!」
まだ高価だったカラオケ、石原裕次郎がながれてくる。
僕は当初、その社長から文句や説教を言われるものだと思っていた。もしくは、僕の仕事上の不満や疑問を諭してくれたりするのかと。
ところが、いつまでたっても、そんな話は出なかった。
§
しばらくした頃だ、いつものように社長はスナックでママとべったりだった。僕は思い切って近くに居た女性を呼んで、横に座ってもらい、話をしてみることにした。
初めてその社長と「別行動」に出たのだ。
話は意外と盛り上がってしまい、勢いでその女性とデュエットすることになった。今と違って、店でカラオケを歌うには相当の度胸がいる。その女性に連れられて、びびりながら店内のステージに出た。
そのステージ上から見ると、社長はにんまりしていた。
僕に対して何がしか不機嫌そうだった社長、
そんな顔を見たのは初めてだった。
カラオケ自体は、ぎりぎりセーフぐらいの歌と、酔った勢いで話したアドリブがうけて、違う席の知らないおじさんに拉致られてビールを散々飲まされ、もうすっかり酔っ払いだった。
その後、僕はさっきの女性とべったりだった…、
社長のマネだった。
§
上機嫌で店を出ると、社長は僕のお尻をひっぱたいた。
「おまえもなかなかやるじゃねーか!」
にんまりとした表情、それがすぐに神妙な顔になる。
「でもなっ、ヤッたらダメなんだよ!ヤッたら台無しだからな!」
「ヤる女は、それはそれで、また別なんだよ。じゃなきゃダメだ!」
僕はきょとんとしてしまった。初めてうけた説教がこれなの…???
酔った勢いで僕は社長にちょっとだけ言い返してみる。
「でも、社長とさっきのママさんと、なんか怪しいっスよ…」
「バカ!、それはまた話が別なんだよ、おまえと一緒にすんな!」
その時の僕にはまだ訳がわからなかった。
<⑥につづく>