彼女のONE NIGHT STAND ⑤ | 追憶の骨 (bones)

追憶の骨 (bones)

音楽や映像だけでは残せない、あの時の僕たち。


のつづき>


… 少し話がそれる。

男は毎日仕事して、酒を飲んで帰る。
それが「あたりまえ」だった時代があった。

20代の頃、小さな会社で社長のパシリとして営業まわりを
していた僕は、格好のターゲットだった。

 §

夕方、取引先に行くと、そこの社長が手招きする。

「もう仕事はいいから、行くぞ!」

取引先の社長と、うちの社長とで話はできている。
ぼくの予定などお構いなしだ。

海沿いのゴルフ打ちっぱなしで2時間、その後は、ひとりではまず入りづらい小料理屋や料亭、ビルの一室のスナックやクラブ、さらにサウナやカプセルホテルまで、フルコースである。

楽しそうだと思われるかもしれないが、どの店でも放置が基本だった。どこへ行っても、その社長と店のマスターやママが楽しそうに話していて、それを横で聞いているだけなのだ、なかなかつらい。

そしてどの店でも、散々食わされ、飲まされた。これも基本だ。

 §

ぼくはまるでゴルフに興味が無い。2時間ひたすら打っても、まともに当たりもしないのだ。隣でその社長が気持ちよさそうに飛ばしている。そして帰り際に必ず言われる。

「へたくそ!」

またある時、スナックでその社長に何気なく仕事の話をしてみた。

「そんなことはいいんだ!飲め!ママー、いつもの入れて~!」

まだ高価だったカラオケ、石原裕次郎がながれてくる。

僕は当初、その社長から文句や説教を言われるものだと思っていた。もしくは、僕の仕事上の不満や疑問を諭してくれたりするのかと。

ところが、いつまでたっても、そんな話は出なかった。

 §

しばらくした頃だ、いつものように社長はスナックでママとべったりだった。僕は思い切って近くに居た女性を呼んで、横に座ってもらい、話をしてみることにした。

初めてその社長と「別行動」に出たのだ。

話は意外と盛り上がってしまい、勢いでその女性とデュエットすることになった。今と違って、店でカラオケを歌うには相当の度胸がいる。その女性に連れられて、びびりながら店内のステージに出た。

そのステージ上から見ると、社長はにんまりしていた。

僕に対して何がしか不機嫌そうだった社長、
そんな顔を見たのは初めてだった。

カラオケ自体は、ぎりぎりセーフぐらいの歌と、酔った勢いで話したアドリブがうけて、違う席の知らないおじさんに拉致られてビールを散々飲まされ、もうすっかり酔っ払いだった。

その後、僕はさっきの女性とべったりだった…、

社長のマネだった。

 §

上機嫌で店を出ると、社長は僕のお尻をひっぱたいた。
「おまえもなかなかやるじゃねーか!」
にんまりとした表情、それがすぐに神妙な顔になる。

「でもなっ、ヤッたらダメなんだよ!ヤッたら台無しだからな!」

「ヤる女は、それはそれで、また別なんだよ。じゃなきゃダメだ!」

僕はきょとんとしてしまった。初めてうけた説教がこれなの…???
酔った勢いで僕は社長にちょっとだけ言い返してみる。

「でも、社長とさっきのママさんと、なんか怪しいっスよ…」

「バカ!、それはまた話が別なんだよ、おまえと一緒にすんな!」

その時の僕にはまだ訳がわからなかった。


につづく>