ウチヤマがサキを精液便所という本来の立ち位置に戻して以来、



当然というか必然、店には店長の役割を演じきるモノはいない。



よく立場が人を作るというが、それは自分の立場を、




よく理解した者にしか言えない言葉だ。




そうすると、ここからが必然という事なのだが、



ウチヤマが店長の立ち位置に立つ事になる。




後は、業績という結果を数字にして本社に叩きつければ、



ウチヤマの立場は、それなりの事には成る。





そんな事を考えながら、


ウチヤマは、ビールを片手にソファに横になっていた。




一瞬、寝てしまったのかも知れない。



悪夢を見た。



シャツが汗で濡れている。



日頃、恐怖に支配されない精神力を持つウチヤマだが、



自分の抱える空虚感を無視してきた訳ではない。



ウチヤマは今一度、目を閉じた。




警察の検問だ。



完遂する為には、ここで停滞する訳にはいかない。




前の車を見れば解る事だが、かなり入念なガサだ。



突破する為には・・・ウチヤマは、思わず微笑んでいた。




プロレスで培ったモノが、何処で役に立つか、解らないモンだ。




ただ、保険は掛けなくてはいけない。




ウチヤマは目を閉じ、ショルダーホルスターの拳銃を目指した。




ウチヤマの意識から派生した感受性という名の触覚は、



ウチヤマの皮膚を伝い、拳銃を包み込む。




違う。リボルバーじゃない。



ウチヤマの感受性の手の中で、リボルバーはオートマティックに変化した。




よし。だがウチヤマは注意深く観察する事を怠らなかった。



するとハンマーが起きていない。



それが何かと言うと、おそらくチェンバーに



'Bread'が装填されていない可能性が高い。




近接した銃撃戦に於いては、初弾を外す=死、を意味する。




感受性の触覚が、スライドを引いた。



そして拳銃の角度を変えると、案の定、チェンバーの中には、



装填されていない。




感受性の触覚は、スライドを手放した。




カシャン!と音を立て、初弾が装填される。




しかし、まだ気を抜く訳にはいかない。



撃鉄が起きている。



セーフティを掛けると、撃鉄はカツンッと乾いた音を立て、落ちた。




そしてウチヤマは目を閉じたまま、感受性の触覚は、全てを伝う。



すると、ここからでは死角になっているが、



背後には機動隊のバスが、控えている。




身体が硬直してゆく・・・。




アメリカ。




10万人入ったアリーナで、チャンピオンと試合をした時と同じ感覚だ。




ウチヤマは俯瞰した。




俺は、負ける。ケツは決まっているのに、




なぜ身体は頭が考えるように、動かない?




普段、練習してきた事を、再現するだけ。




アメリカの郊外で、飽きる位、何度も、そのブックをWorkしてきた。




固まってゆくのは、恐怖を感じているから。




すると、恐怖の本質は、何処にある?




ウチヤマの意識が鮮明になりだした。



そう、試される、自分の其れまで取り組んできた事、




それを、恐れている。




ウチヤマは心の中で呟いた。




落ちつけ。





自分を信じろ。




今まで、してきた事を疑うんじゃない。




している事に、本当も嘘もない。





ただ、してきたのか、してこなかったのか、




それだけだ。





心が静まると、歓声が聞こえる。




歓声。




元は、ただの声だ。




それが、ここまで地獄への入り口のような、うねりを体感させるのか?





そう、音は、物質だ。





小鳥のさえずりでさえ・・・。






ウチヤマはカッと目を見開いた。




もう、恐怖に支配されていない。





大丈夫だ。すべて、うまくいく。















続く。