■ 日本食はここでも人気 ■

 たとえば、10年前であったら、シンガポールで日本食を食べるとしたら、一流ホテルの中にある、日本食レストランなどでしか食べることが出来なかったものだ。
 もちろん、街を歩いてみてもそういう日本食レストランを見かけることも無かった。
 ところが、最近は事情が違ってきている。
 日本人観光客などあまり見かけない、それよりも、地元人が好んで行くようなショッピングセンターの中などで、日本食の店を何件も見かけるようになった。
 若い人を中心に広がりを見せており、更には年配に至るまで日本食がブームのようである。
 ローカルな通りを歩いていても、至るところに日本食を掲げる店をみかけ、中には幕の内弁当なるものを売りにする店まで登場している。
 種類としては寿司屋が一番多く、次にラーメン店などが続く。しかし、その多くに日本人スタッフはあまり見られない。
 そんなわけで、私は足を踏み入れたことが無いのだが、どの店も満員御礼で店の前に行列をなしている店もあり、驚きである。

 地元の人に聞くと、寿司が人気なのは、やはりノンオイルでヘルシーということが一番のようだが、とてもスパイシーな料理が多いシンガポールで、"WASABI"がダメだという話を聞き、何ともおもしろいものだな、と思った。

 そして以外なところではコンビニで普通に、日本で飲むウーロン茶を売っているということだ。以外と思われるかもしれないのだが、数年前のシンガポールではありえないことで、冷たい飲料水は全て甘いものと決まっていた。こんなさりげないところにも、日本の文化が浸透してきている。




 空港へ向かうタクシーに乗った時のことだ。私が日本から来たことを話すと、タクシーの運転手が片言ながらも ”こんにちは” と、ぴかぴかの笑顔で挨拶をしてくれた。
 ここで一つ断っておくが、私は良くチャイニーズと勘違いされ、下手すると、しばらく福建語の相手をしなくてはならなくなるからだ。
 しばらくすると、タクシーの運転手が「今日はスペシャルにいいものがあるよ」と言い、日本のポップスミュージックが入ったMD聴かせてくれた。
 どうやら彼も日本の曲が好きなようで、彼ご自慢の編集MDのようである。

「とても良い曲だね、どうもありがとう」
「日本の曲を良く聴くんですか?」
 私が聞くと、
「そうさ、でも何言っているか意味がわからないんだけれど、好きでね」
 運転手、これはそうとう好きなようだ。
「でもいくつかの日本の言葉を知っているんじゃあないの?」
 私が聞くと、運転手は、
「こんにちはとか、ありがとうとか・・・」
「一つ一つの単語だけ勉強するんだけれど、やっぱり難しくて、一つ覚えると、すぐに頭をす通りして忘れちゃうよ」
「文章なんて、無理無理!」

 と、とてもご機嫌な様子だ。
「ところで、飛行機はシンガポールエアーかい?」
 という運転手の問い掛けに、私は、
「そうだよ」
 すると運転手は、
「日本人なのに、JALじゃあないんだね」
「でもシンガポールエアーのサービスが一番だね」
 ちゃっかり自分の国の航空会社をアピールすることは忘れないところが、何だか憎めない。

 空港までの20分の旅に、とても気持ちよく過ごすことができた。
 日本食や日本の曲などがブームになることともに、日本語もオシャレ感覚にシンガポーリアン達に使われているのを見ると、自分としても嬉しいものだ。



2006. 4.29