希望と現実の差

結婚における女性の「上方婚志向」というものがある。

上方婚とは、女性が結婚相手に対して自分より収入が上の相手を求めるという志向を指す。

とはいえ、圧倒的なお金持ちの男性を希望するという非現実的な「玉の輿」願望ではない。結婚後の経済生活や子育て等を考えた際に、「せめて自分の年収よりも高い男性と結婚しておかないと…」というリスクを考えての希望である。

これ自体を私はまったく否定しない。むしろ当然の希望だと思う。

 

実際、昭和の皆婚時代も、大正時代の第一次恋愛至上主義旋風の時代も、「相手の稼ぎ」は優先順位の高い条件として存在していた。

しかし、残念ながら、結婚を希望するすべての女性の上方婚を満足させられるほど、現代の結婚適齢期の男性は稼げていない。

 

「いえいえ、高望みはしません。500万円くらいでいいです」と言う婚活女性がいるかもしれないが、それが十分すぎるほど高望みなのである。

2022年の就業構造基本調査によれば、年収500万円ある20-30代の未婚男性は、たったの16.8%、2割にも満たない。ちなみに、男性の結婚は年収の高い方から決まっていくので、これら2割の「若き高年収層」はあっという間に完売してしまう。婚活の現場に出ることすらなく、青田買いされてしまうのだ。

そして、それら上位2割層を射止めるのは、恋愛強者3割の女性のうちの2割なのである。

 

年収条件を下げなさい?

そうした現実をふまえて、結婚相談所などは「500万ではなく、300-400万円の相手を選んでみては?」などと提案する。なぜなら、20-30代未婚男性の51%がこの年収帯であり、ここがボリュームゾーンだからである。

しかし、提案された女性側は納得しない。

「冗談ではない。300-400万円台では自分と同じか、それよりも低いではないか」と思うのだ。同時に、全体の統計上はそれが過半数を占める大多数であっても、人間というものは世界を自分基準で判断する。よって、自分の年収が400万円ある場合に、同額ならまだしも、自分より低い300万円台の結婚相手を紹介されてしまうと「自分の価値が低い」とみなされた気分になる。

 

昨今、「同類婚が増えている」などという言説がある。年収同類婚という点でいえば、「年収の高い者同士が結婚して、パワーカップルとなり、タワマンに住まう」などと言われる。そうした事例がないとはいえないが、だからといってそれが全体を底上げするほど増えているかというとそうではない。

正確にいえば、そうした高年収同士の夫婦の数は別に増えてはいないが、全体の婚姻数が激減しているために、その割合が増えているに過ぎない。

 

上方婚率最新版

では、実態として、夫の年収を基準とした場合に、「上方婚(年収が夫>妻)」「同類婚」「下方婚(年収が夫<妻)」の割合がどうかを見てみたい。

2022年の就業構造基本調査から、妻の年齢29歳までで、子どものいない夫婦を便宜的に「結婚したばかりの夫婦」と仮定し、夫の年収を基準として、妻の年収別組み合わせから計算する。

結果としては、上方婚70%、同類婚20%、下方婚10%である。

現在結婚している妻が29歳までの夫婦に限れば、少なくとも妻と同年収か妻より年収が高い夫という組み合わせで全体の9割を占める。

夫の年収別にそれぞれの割合を示したのが以下のグラフである。

 

 

当然ながら、夫の年収が高ければ高いほど上方婚率も高くなる。夫の年収500万台でも87%が上方婚である。

20代での婚姻がもっとも多い年収帯300-400万円台においても、300万円台で63%、400万円台で75%が上方婚となる。同類婚は、それぞれ24%、21%にすぎない。

 

マッチングできない問題

「これはそもそも男女の賃金格差があるからそうなるだけだ」などと判断してはいけない。男女の賃金格差が出るのは、既婚男性と既婚女性(無業やパートも含む)とを合算していることによる。未婚男女だけに限定して、20-30代の年収を比べてもそれほど大きな差はない。

 

机上の空論でいえば、未婚男女の年収格差がないのだから、それぞれが年収同類婚をすれば皆婚できるのではないか、と思うかもしれないが、現実はそううまくはいかない。逆にいえば、年収同類婚で満足する割合はせいぜい2割程度に過ぎず、7割の女性は「自分より上の収入男を狙う」のだ。

 

結果、男は順番に年収の高い方から売れていくが、女の場合は、必ずしも年収基準で男が選ぶわけではないので、バラツキが出る。わかりやすく言えば、年収500万以上の男性はほぼ完売しても、同額以上の女性は余る可能性がある。

そうした組み合わせのいたずらによって、気付けば「自分より稼ぐ男が婚活市場にいない」ということになる。婚活の現場で「適当な相手がいない」と女性が嘆くのはそういうことである。

 

提供:イメージマート

 

「相手がいない」の正体

問題はここからである。上方婚する相手がいないとわかった婚活女性は、下方婚を選択することはしない。自分より稼げない相手と結婚するくらいなら、自分で経済的に自立してたくましく一人で生きようと選択しがちである。

 

このようにして、本来結婚のボリューム層を構築するはずの(皆婚時代はまさにそこが婚姻数のメインだった)300-400万円台の年収層が軒並み「結婚相手がいない」と途方にくれることになる。

同じ「相手がいない」でも、女性は文字通り「希望する年収の相手がいない」なのだが、男性は「こっちが好きになっても相手から好きになってもらえない」がゆえの「相手がいない」になる。婚姻激減するのは当然である。

 

 

参照→「好きにならない女」と「好きになってもらえない男」という結婚が増えない根本的な理由

 

政府の「結婚滅亡計画」

繰り返すが、「女性は上方婚志向をやめるべきだ」などとは言わない。

それでなくても、出産や子育て期に、どうしても夫の一馬力にならざるを得ない場合もある。実際、1980年代から、フルタイム就業の妻割合は大体3割でまったく変わっていない。

 

 

そもそも専業主婦世帯が減ったのも、夫の稼ぎでは回らなくなって、妻がパートに出ざるを得ないようになったからでもある。

そうしたことを考えた時、今現在の結婚相手の収入に固執してしまうのは、将来の収入の見通しがあまりにも立たない不安があるからではないか。

その不安の元になっていることこそ若者の手取りが30年間も増えていないという「失われた30年」であり、「新しい資本主義」だの「異次元の少子化対策」などの名のもとに繰り返されている社会保険料負担の増加である。

 

政府の政策は、まるで「結婚滅亡計画」なのではないかとすら最近思う。