現在は、皆婚社会ではなくなり、多様な生き方が見られるようになった。ただ、東京に住むシングルにインタビューしたところ、自由を謳歌しつつも彼らは病気や老後を不安視している。彼らシングルの本音に迫る。本稿は宮本みち子・大江守之編著 丸山洋平・松本奈何・酒井計史著『東京ミドル期シングルの衝撃 「ひとり」社会のゆくえ』(東洋経済新報社)を一部抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● シングルという利点を最大に生かし 自由に生活を楽しめる場所=東京  シングルたちの中には、趣味の世界を楽しみ、新しい場所に出かけ、知り合いもできる、というように、活発な社会関係を持つ人が多いようにみえます。むしろ、シングルである利点、自由であることを活かして誰に遠慮することなく様々な場所に出かけていく、そしてその拠点としての便利な東京に住む、という選択をしているのだ、という様子が見受けられます。  彼らはシングルである、という利点を最大限に活かしながら、自由に生活を楽しもうとしています。そんな彼らのライフスタイルには東京という大都会、つまり便利な交通網や、簡単にアクセスできるお店が多い場所で暮らすことは重要です。  「そうですね、やっぱり交通の便だったり生活しやすさっていうと漠然としてますけれども、別に毎日毎日デパート行きたいわけじゃないんだけれども、例えば家の近所だってドラッグストアみたいな5、6軒あったり、でも地方に行くと車で10分行かないとなかったりしますけれども、そういうものが当たり前にそろっている。例えば家の近くにスーパーも5、6軒あったりして、別に5、6軒なくてもいいんだけれども、いつだって自分の好きなところを選べる。  電車でちょっとどっか行きたいと思ったら電車は常に5分に1本来るみたいな、地方に行くと1時間待たないと電車が来ないみたいな。そういう違いですね。もうやっぱり利便性が圧倒的に高いです」(Sさん、女性、40代前半)  「車を使わずに、車、別に持ってるわけじゃないけど、車使わずにどこでも行けるっていうのはやっぱり23区だけだと思う。あと、同じ1つのとこ住んでても、私鉄、JR含めていろいろありますから、1つの場所から。だから、結構どこ行くにも便利ですよね、早くて」 (Jさん、男性、50代後半) ● シングルにとってのサードプレイス 「相手の内情は聞かない」という紳士協定も  アメリカのオルデンバーグという社会学者が提唱した「サードプレイス」という概念があります。サードプレイスとは人々が自宅(ファーストプレイス)や仕事の場所(セカンドプレイス)以外で、社会的なつながりを築き、リラックスや交流を楽しむ場を指します。  このサードプレイスとして代表的なものがコーヒーショップであったり、図書館、公園などです。一方でミドル期シングルたちが語っているのはそこにとどまらない、地域を超えた場所、例えばツーリングに出かける先、コンサート会場やスポーツ観戦の場所など地域コミュニティには存在しない「イベント的」サードプレイスです。

 

 

 そしてそこでの社会関係は現在のミドル期シングルにとって重要な場でありますが、同時に、そこは居住する地域にはない、ということがわかります。  一方でその社会関係は、“その場を楽しむ”ということに限定されており、必ずしも、何かあったときに支え合う、家族の代替になるものではなさそうです。このような友人とは、多くの場合話題はその趣味についてであって、仕事や家族の悩み、困ったことなどについてはあまり話さないようです。  「私が入ってるサークルの中では、相手の何ですか、勤めてるところとか、そういう情報は詮索しないというほうが、何かおきてじゃないですけど、紳士協定で結ばれてる。みんな、相手がどこに勤めてるか大体知らない。どういう業界かは知ってるんですけど。そういう内情はあんまり聞かないことにしてる、というのがお互いのためか、趣味でやってるだけだから、それでいいだろうという話ですね」(Mさん、男性、50代前半)  イベント的であるが故にそこには深刻な話題を持ち込まない、その場を楽しむということが重要になってくることがわかります。  もちろん、友人たちとではなく、ひとりで趣味を楽しむミドル期シングルたちもいます。Cさんは仕事を優先させながら空いた時間に音楽を楽しむために、友人とスケジュールを合わせることに煩わされないよう、ひとりで行動することを選んでいます。  「別に集中したいからというわけじゃないんですけど、人とスケジュールを合わせるのが大変というか、人と一緒に約束をすると、ある程度前に約束してチケットを押さえてとかっていうことに結構なりがちだと思うんですけど、私仕事柄、いつ休みになるかとか、あとは急にぽっと仕事が入ることも、間近になって仕事が入ることもあるので、できれば仕事入ったらそっちを優先したいなというのが本心なんですね。  なので、自分ひとりで取る場合には1週間切ったチケットしか取らなくて、なのでぎりぎりだと何か本当に例えば2枚連番で取るのは難しかったりとかというのもあるんですけど、ひとりだとあんまり気にすることなく取れたりするんで、本当に3日前にぽっと取って行くとか」(Cさん、女性、40代前半)

 

● 「病気の際に頼れる人がいない」が6割超 孤独死への不安も半数に上る  他にも干渉されたり、他の人に気を遣うことなく暮らせる東京の生活を肯定的に捉えている人が多くいます。  「もうひとり暮らしが非常に長いので、ひとりでいることの自由さのほうが勝ってるといいますか。あまり不便は日常は感じていないです。(心配なのは)その体調が悪くなったときぐらいですね」(Oさん、男性、50代前半)  「はい、自分の好き勝手な時間に寝て、やろうと思えば寝て起きてお風呂も入れて食事もできてという、そういう干渉も全くないんで、もう自分からするとありがたいことこの上ないですね」(Mさん、男性、50代前半)  ここにみられるのは、人間関係に深入りしない、軽やかな友人との社会関係を楽しんだり、ひとりで気ままに過ごす自由や利便性を大事にする東京のミドル期シングルの様子です。  このような様子と同時に、一方でミドル期シングルたちは自分たちの将来に不安も感じています。アンケート調査からも、ミドル期シングルたちの中で高齢期(65歳以上)になったときの生活に不安のない人は全体の3.7%しかおらず、ミドル期シングルは孤独感や将来への不安を抱いている人が多いことが明らかになっています。  例えば病気になったときに身の回りの世話をしてくれる人がいない、という不安は64%にも上ります。さらに自分が「孤独死」をする不安を多少でも持っている人は半数に上ります。これらの問題は、身近な家族、配偶者やパートナー、子どもといった血縁や法的に結ばれた人々に頼ることができないシングルたちが高齢化していくにあたって避けて通れない問題です。