婚活をするとき、誰もが“これだけは譲れない”という条件があるはずだ。 それは年代によっても違うのだが、アラフォー女性の場合は、“最後のチャンスに子どもを授かりたい”、40代以上の男性も、“子どもを授かるための婚活”をしている人が多い。男性の場合は、50代、60代になっても、子どもを授かることを婚活の第1条件に掲げている人がいる。 仲人として婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく当連載。今回は、“子どもを授かりたい”という気持ちが結婚を難しくしている事例をご紹介する。 【グラフでわかる】結婚離れ加速?「一生結婚するつもりはない」男女が急増するわが国の実態

■結婚して子どもを授りたい  婚活アプリや結婚相談所のサイトを利用して、結婚相手を見つけることは、近年ポピュラーになってきた。婚活の出会いは、生活圏内の自然な出会いと違い、出会う相手に“これだけは譲れない条件”を決めている人が多い。  この掲げる条件は、年代によって変わっていく。  20代のときは、見た目や会話、フィーリングを重要視するだろう。しかし、30代後半になると、男女ともに“結婚して、子どもを授りたい”という気持ちが強くなっていく人が多い。

 女性の場合、個人差もあるのだが、出産可能な年齢は40代前半くらいまでだろうか。  みきえ(40歳、仮名)も、“1日も早く結婚して、子どもを授かりたい”という気持ちから、37歳のときに婚活アプリに登録した。最初はアプリに登録すれば、簡単に結婚相手が見つかると思っていたのだが、その考えが甘かったと気がついた。  「アプリで2年活動しましたが、結婚相手に出会うことはできませんでした。話が面白くて“素敵だな”と思う人ほど、結婚を真剣に考えていなかった。年収や学歴などもウソの情報を入れている人がいたし、お付き合いしてみたら、実は結婚していたという人もいました。なんだか時間を無駄にしてしまいました」

 そこで、筆者の結婚相談所で婚活をすることにした。  結婚相談所の場合、入会時に身分証明書や独身証明書、収入証明書、学歴証明書、資格を有する職業についている場合は資格証明書の提出が義務付けられている。  既婚者は登録できないし、恋人や遊び相手ではなく、結婚相手を探すのが結婚相談所だからだ。  入会面談のときに、「最後のチャンスに子どもを授かりたいので、時間を無駄にすることなく、できるだけ早く結婚をしたい」と言っていた。

 

希望は、なるべく年齢の近い男性との結婚だった。子どもが生まれて大学を卒業するまでには、22年かかる。50代の男性と結婚をしたら、子どもがまだ小学生、中学生のときに父親が定年を迎えてしまう。  ところが、みきえと同世代で子どもを望んでいる男性は、1歳でも若い女性との結婚を望んでいた。女性も歳を重ねるほどに、出産をするときのリスクが高くなるので、男性側としてはそれを避けたいと思っているからだ。  20代なら同世代同士の結婚が可能なのだが、アラフォーになると、相手を求める年齢のベクトルが、男女ですれ違う。

 

 

 

■ひと回り上でも定年のない自営業なら  “年の近い男性”にこだわっていたみきえだったが、あるとき、52歳のさだお(仮名)からの申し込みがかかり、それを受けることにした。ひと回り上だったが、自営業者だったので、定年がない。  しかも、年収が2000万円という高額所得者だった。  また、さだおの趣味が野球観戦で、ひいきのチームが同じだったことや、プロフィール写真が大好きな俳優に似ていたことも、気持ちを前に進ませた。

 

 

 お見合いを終えたみきえが、交際希望を出してきた。  「思い切ってお会いしてよかったです。今までお見合いしてきた中で、一番話が合ったし、1時間があっという間に過ぎました」  仮交際に入り、何度かデートを重ねて2カ月が過ぎ、結婚を前提とした真剣交際に入ることになった。  そこからは「いつ成婚退会をしようか」「親へのあいさつはどうしようか」と、結婚に向けての具体的な話をするようにもなっていた。  ところが、結婚が現実味を帯びていくと、みきえの気持ちに迷いが出てきた。あるとき「相談があります」と、筆者のところに連絡が来た。

 

 

■子どもを絶対に授かる保証はない 

 

「2人で近々、『ブライダルチェックに行こう』と言われました。私も、もうすぐ41歳になる。結婚前に自分の体を調べることは、大事なことだと思っています。ただ、さだおさんの、“子どもがほしい”という気持ちがあまりにも強すぎるので、それがだんだん重荷になってきました」  みきえ自身、年齢的にも子どもを授かるのは最後のチャンスかもしれないと思い、そのための婚活だった。  ただ、結婚が現実のものとなると、“本当に子どもは授かれるのか”という気持ちも出てくる。年齢的に自然妊娠を待つ時間の余裕は、みきえとさだおにはないから、不妊治療になるだろう。

 

 不妊治療をしてきた友達をたくさん見てきたが、子どもを授かった人もいれば、授からなかった人もいる。また、不妊治療が思っている以上に精神的にも肉体的にも女性に負担をかけるというのも、友達を見ていて知っていた。  そこで先日、さだおに「不妊治療をしても、子どもを授からなかったらどうする?」と聞いてみた。すると、さだおが言った。  「そんなマイナスな気持ちでいたら、うまくいくものもいかなくなるよ。自分にとっての結婚は、子どもを授かることが最優先。みきちゃんだってそうでしょう?  とにかく2人で頑張ってみようよ。子どもを授からないなら、結婚する意味はないでしょう?」

 みきえは、筆者に言った。「よくよく考えてみると、不妊治療ってすごく不平等ですよね」。  「男性は精子を病院に渡せば、それで任務完了。それを卵子と受精させ、受精した卵子を女性の体に戻すけれど、着床するとは限らない。もし着床してもそこから育つとは限らない。戻してからの過程は、すべて女性が背負うことになる」  そう考えると、だんだん苦しくなってきたという。  「彼との結婚、イコール不妊治療のスタート。そして、もしも子どもを授からなかったとしたら、そのときには2人の気持ちがすれ違って、関係が終わる気がするんです」

 

 

 その気持ちをさだおに正直に告げたようだ。しかし、彼からは「もしも頑張って授からなかったら、そのときは2人で仲よく暮らしていけばいいよ」という言葉は出てこなかった。  彼にとって、結婚イコール子ども。これが絶対条件だった。不妊治療に後ろ向きになってきたみきえに、不信感すら抱くようになった。  話し合いを重ねた結果、「この結婚はやめよう」という結論に2人で至った。

 

 

■婚活より妊活のほうがつらい  

 

「(さだおとの)結婚はなくなりました」と、電話で伝えてきたみきえは、声を詰まらせていた。

 「“子どもを授かりたい。だから、結婚しなきゃ”という思いで婚活をしていたのですが、そこが絶対になってしまうと、自分の首を絞めるというのが、今回のことでわかりました。結局、私には結婚をする覚悟ができていなかったのかもしれません」 

 

 

 これまで筆者の相談所を成婚退会していった元女性会員のなかは、不妊治療をしていた人たちも多い。現在、している人たちもいる。  つらい不妊治療を経て、子どもを授かった人もいれば、年齢的なタイムリミットや、これ以上治療費をかけられないという金銭面から、授からずに治療をあきらめた人たちもいる。

 

 

 不妊治療をした女性たちが、筆者に言っていた言葉は共通していた。  「婚活は大変だったけれど、妊活はもっと大変でした」  子どもを授かりたいがために、婚活をしている人は多いと思うのだが、まず大切なのは、子どもを授かることよりも2人の関係を築くこと。それを念頭において、婚活をしていくことが大事なのではないだろうか