少子化対策の強化が叫ばれているのに、なぜ旧態依然とした「結婚」はこんなに変わらないのか。選択的夫婦別姓制度は導入されておらず、約500年後には日本人全員の名字が「佐藤」になるという調査結果も。AERA 2024年5月27日号より。 【表】夫が気を付けるべき離婚しそうな妻の行動はこちら *  *  * 

 

 

「正直なところ、結婚する意義が理解できないんですよね」  東京都の会社員の女性(28)はつきあって5年になる男性がいるが、いまのところ結婚するつもりはまったくないと話す。 

 

「結婚って何のためにするんですかね? 結婚に断固反対ではないですが、メリットを感じません。彼氏と会いたいときに会う生活に満足しています」 「結婚」に否定的なイメージや反発があるわけでもない。母親は元バリバリのキャリアウーマン。「男は仕事、女は家事」という家庭で育ったわけでもない。しかし、たとえ対等な夫婦関係であっても法律に縛られる意味がわからない。周囲の既婚女性たちを見ていても、結婚がそこまでいいものには思えない。 

 

「何年かつき合ったら何となく結婚して、そしてときどき夫の不満を言う。そんな生き方しかないんだろうかと。そこは思考停止するのではなく、自分の人生を生きたいです」  

 

 

東京都の会社員の独身男性(49)はこう話す。 「独身でいることのメリットは自由。リスクは孤独。自由と孤独は背中合わせではなく、隣り合わせだと思います」  

既婚者など周囲から「なぜ結婚しないのか」と言われることもあるが「本当に大きなお世話。自分の生活のリズムを他人に理解してもらおうと思うのがバカバカしいので、説明しようとも思わない」と言う。 「そんなの『なんとなく』としか答えようがない。友だちや他人の結婚を羨ましいと思えたことがないのに、日本では結婚していないとどこか社会不適合者のように言われる。ただ社会的な結婚観の変化で『なぜ』とは以前ほど聞かれなくなりました」

 

 

 これまで結婚のチャンスがなかったわけでもなく、あえて「独身を選んだ」つもりはない

 

。ただ就職氷河期を経験したことで「結婚なんて、とても」という思い込みが尾を引いているかもしれない、と思う。そんな男性がいま気になるのが、子どもを持つ親を揶揄する「子持ち様」という言葉だ。「正直、納得してしまうところも」と話す。

 

 「『どうして私があなたの子どものために』という気持ちになってしまうのは、学費無償化や子育て支援などのニュースを見た独身者や子どものいない既婚者に多いのではないでしょうか。そこが不公平感につながってしまうなら、結婚や出産の機会がさらに遠のいてしまうようにも思えます」

 

 

 

 ■50歳時未婚率の増加 

 

 もし自分が結婚するときに選択的夫婦別姓が導入されていたら使いたかった──。

 

東京都に住む教員の女性(48)はそう話す。女性は28歳のときに結婚した。 「そんなもんかなと深く考えずに結婚したし、夫の姓にしたのも同様です。以前ある資格取得の申請で大学院卒業時の姓といまの姓が違うので同一人物であることを証明するために戸籍抄本を提出しろと言われ、本当に面倒な思いをしました」  

 

 

近年、日本における未婚率は高まる傾向にあり、国立社会保障・人口問題研究所の統計によると2020年の50歳時未婚率は男性28.25%、女性17.81%。一方で22年の内閣府の調査によると、結婚して姓を変えるのは女性が圧倒的に多く全体の約95%を占める中、「積極的に結婚したいと思わない理由」として「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」を選んだ独身女性の割合は20代から30代で25.6%、40代から60代の35.3%を占めた。 

 

 世界で唯一、結婚した夫婦は「どちらかの姓」を名乗ることが義務付けられている日本。婚姻時に夫婦が同姓か別姓かを選べる「選択的夫婦別姓」の導入を求める声も強いが、遅々として進んでいない。

 

 

 

 

 

■日本人全員「佐藤」に  約500年後の2531年、日本人全員の名字が「佐藤」になる──。

 

 

こんな調査結果が、今年4月に公表された。 「いま、日本で最も多い名字は『佐藤』さんで、全体の約1.5%。このまま選択的夫婦別姓が導入されずに結婚が繰り返されていくと名字の多様性が失われ、将来は佐藤姓だけになるのでは、という仮説のもと調査を始めました」  こう話すのは、東北大学高齢経済社会研究センターの吉田浩教授。公表データなどを元にみた国内の人口における佐藤姓の占める割合の変化は2022年から23年の1年間で0.83%増加。

 

このまま夫婦同姓のルールが続き、毎年この割合で佐藤姓の占有率が伸びると仮定すると、2531年には100%が「佐藤」になるという。 「逆に選択的夫婦別姓なら、どうなるか。22年に連合が実施した意向調査をもとに『同姓にする夫婦が約4割』と仮定すると、佐藤姓の1年の増加率は0.325%に鈍化。2531年時点でも佐藤姓の占有率は7.96%にとどまるという結果でした」  

 

 

少子高齢化の経済学(加齢経済学)が専門の吉田教授。選択的夫婦別姓問題が少子化におよぼす影響を「見える化」したいと調査を実施したという。 「選択的夫婦別姓の実現によって結婚がしやすくなり、また結婚後に姓を変える不便さがなくなることで女性の働きやすさも進み、その結果、共働きが増えて世帯収入が上がるなど個人行動の変容が進めば、次世代以降の出生率も改善されるのではと期待します」  

なぜいまだに選択的夫婦別姓が認められないのか。前出の教員の女性は日本社会、特に政治家や昭和オヤジ世代にはびこる固定観念も一因だと考えている。 

 

「男性と女性の結婚が『正常』だとか、女性は男性の『家』に入って姓を変えるべきとか。でも日本では婚姻数が着実に減り、離婚数は増加している。選択的夫婦別姓や同性婚に反発する保守派のこだわりって、『家制度の維持』だけじゃないかと」