マッチングアプリや結婚相談所など「婚活」が一般化する一方で、婚活そのものが「結婚を遠ざけてしまっている」という問題が提起されています。実際、婚活という用語が提唱された2006年以後、婚姻数は減少を続けています。 本稿では、東京都立大学の高橋勅徳准教授著『婚活との付き合いかた:婚活市場でこじらせないための行為戦略』より、婚活により結婚が遠ざかるといいう「ねじれ現象」が起こる理由を解説します。 ■婚活に臨むほど、結婚から遠のく
婚活という概念が提唱されてから15年程の時間が経ちました。今やマッチングアプリを利用して理想の異性と出会い、結婚した人たちが全体の3割近くを占めるようになり、もはや「婚活」は日常風景の一部であると思います。 男女それぞれが理想とする家庭像と求める配偶者の条件を描き、さながら就職活動のように出会いと交際の中で互いの条件をすり合わせて、結婚に至る――地縁・血縁・職場縁が後退し、出会いの機会が少なくなった現代で結婚するためには、さながら就職活動のように配偶者探索に望まねばなりません。
2007年に社会学者の山田昌弘先生が、そのような願いを込めて提唱した概念は、皮肉なことに「婚活に望むほど、結婚から遠のいていく」という逆説を生み出したと指摘されています。 なぜ、婚活に臨むほど、結婚から遠のいてしまうのでしょうか? 2023年時点の、学術・婚活支援サービスの現場双方に一致しているのは、「女性の選り好み」にその原因があり、「自分の身の丈に合った配偶者選び」をすべきというものです。婚活女性は耳にタコができるほど、さまざまな人々から「現実を見て、選り好みするのはやめなさい」とお説教を繰り返されていると思います。
とはいえ、この「女性による選り好み説」に基づいた「お説教」には、1つ大きな問題点があります。婚活女性も含めて、なぜ「選り好みが生じてしまうのか?」「選り好みをやめられない」のかについて学術・現場双方で指摘しないまま、「あなたの考え方が悪い!」と一方的に責めていることです。 もし、婚活市場という状況が、「選り好み」することが女性にとって極めて合理的な判断を導いているとしたら、どうなるでしょうか? 「お説教」はたちまち、「余計なお世話」に化けて、婚活女性にとって迷惑でしかなくなります。
■なぜ女性は「選り好み」をするのか それでは、なぜ女性の「選り好み」が合理的な選択になってしまうのか、その前提条件となっている婚活市場の仕組みと、その仕組みを有効活用する婚活男性の特徴的な行動に注目していきたいと思います。 マッチングアプリ、婚活パーティー、結婚相談所という現在主流となっている婚活支援サービスは、共通した機能を有しています。具体的には、①地縁・血縁・職場縁に関係のないコンテクストフリーの出会いの場を提供すること、②学歴・年収・職業・年齢・趣味といった属性で異性を条件検索できるという2つの機能になります。
それぞれ機能をどのようにサービスとして実装していくのかに違いはありますが、基本的に現在の婚活支援サービスのほとんどが、この2つの機能を軸にサービスを展開しています。 婚活支援サービスがこの2つの機能を軸にサービスを展開しているのは、①婚姻数の低下=出会いの機会の低下であり、まずは出会いの機会を増やすべきであること、②配偶者に求める条件や価値観・趣味趣向が一致したほうが、交際から結婚にスムーズに到達するはずであること、という認識前提に基づいていると考えられます。この認識前提そのものは、「婚活」という言葉を生み出した山田昌弘先生の「未婚化・晩婚化」に至った原因と婚活というソリューションに忠実なものです。
とはいえ、問題となるのは、そのサービスが提供された時に男女がどのように考え、行動してしまうのかということです。 ■手当たり次第にマッチングを申し込む男性たち まず、マッチングアプリを利用しはじめた男性側の視点に立ってみましょう。アプリを利用し始めた当初は、自分が理想とする女性の条件にあわせて検索機能を利用し、マッチングの申し込みをしていくでしょう。しかし、時間の差はあれども、「じっくり選ぶ」ことそのものが無意味であることに、いずれ男性は気づいてしまうと思います。
女性がマッチングの申し込みを受ける/受けないという判断は、その女性の判断に依存しています。アプリ上でどんなに検索機能を駆使し、女性のプロフィールを読み込んだとしても、スマホの画面に映る女性の「本当に求める理想の男性像」を読み取ることなんて、絶対にできません。 だとすれば男性側は、とりあえずざっくりとした自分が求める条件(例えば自分の年齢の前後5歳まで)を決めたうえで、自分の行動圏内に居住する女性すべてに機械的にマッチングの申し込みを仕掛けていく、ショットガン・アプローチが最も合理的な選択になってしまいます。
何もしなくても、女性から大量のマッチング申し込みが届くくらい、見た目も経済条件も優れている人は別の戦略があると思いますが、大多数の男性にとって、とりあえず機械的にマッチングを申し込み、マッチングが成立した女性とメッセージのやり取りを繰り返し、仲良くなっていくのが、唯一といっても過言ではない最善手になってしまうわけです。 さて、大多数の男性が「最善手」としてショットガン・アプローチを繰り出している中で、アプリの利用を初めた女性は、どうなってしまうでしょうか?
アプリをインストールして会員登録を済ませた時は、「理想の恋人・結婚相手」の条件を生まれて初めて具体的に考え、検索機能を利用してさまざまな男性のプロフィールを読み始めた頃は、将来への夢と同時に、「こんな私でも選んでもらえるだろうか」という不安を抱くと思います。 ■アプリで経験する「強烈なモテ体験」 しかし、利用し始めて1週間もすれば、そのような「夢」も「不安」もどこかに吹き飛んでしまうことでしょう。年齢や容姿によって程度の差こそありますが、毎日のように男性から大量のマッチング申し込みが届いてしまうからです。
このアプリで多くの女性が経験する大量のマッチング申込み=「強烈なモテ体験」は、日常生活での「モテ体験」とは大きく異なります。アプリは「自分が望む属性で異性を検索」し、「日常生活とは無関係のコンテクストフリーの出会いを提供する」機能を有しています。大量のマッチング申込者の中から、年齢・収入・学歴・職業に適合する男性をピックアップし、プロフィール写真から好みの男性をさらに選別してマッチングするという行動が可能です。
しかも、「コンテクストフリー」の出会いですので、複数の気に入った男性と同時にマッチングして交際を進めても、少しでも気に入らない側面が見えてしまった男性とのマッチングを即座に解消しても、誰にもとがめられることはありません。 仮に、結婚相手に求める条件が整っていて、容姿も好みな男性とマッチングしたとしても、「つねに誰かからマッチングの申し込みがある」状態ですので、少しでも気にいらない点が男性にあるなら次の機会を狙って交際を解消することができます。
女性が少しでも不本意な交際や結婚を避けることは、誰かにとがめられる筋合いはないことです。しかも、アプリ上では男性のショットガン・アプローチによって、女性はつねに「次」の交際の機会が準備されている状況なのですから、眼の前の出会いに少しでも疑問や違和感を抱いたのであれば、よりよい男性を求めて次の機会を探索するのは、極めて合理的な行動といえるのではないでしょうか? ここまで、アプリを例に婚活で女性が「選り好み」してしまう仕組みを考察してきました。1人でも多くの人に、素敵な出会いと幸せな結婚を! という善意から設計されたさまざまな婚活支援サービスは、当事者である婚活男性・婚活女性がそのサービスの仕組みに適応し、120%活用していくことで、「婚活するほどに結婚から遠ざかる」という逆説を生み出しているわけです。
■「こじらせ方」に寄り添ったサポートが必要 しかし、婚活女性が合理的選択として実行する「選り好み」について、少し解像度を上げて考えてみましょう。 大量のマッチング申し込みの波に飲み込まれ、「いつでも結婚相手を選べる」と認識した婚活女性は、たんに「よりよい条件を求めて眼の前のチャンスを自ら放棄」しているだけでなく、「経済的条件だけで結婚相手を選ぶことへの違和感(一目出会ったた瞬間に、両思いになるくらいの出会いがほしい)」「誰を選べばよいかわからなくなり、男性の悪い点をあら探しして振る理由を探してしまう」「出会いを繰り返す中で、自分が男性に求めている条件を見失ってしまう」など、「選り好み」と一纏めに批判してはならない現実に直面しています。
今、婚活女性が本当に求めているのは、「現実を見ろ」というお説教ではなく、1人ひとりの「こじらせ方」に寄り添ったうえでのサポートであるかもしれません。そのためには、アプリを含めて、婚活支援サービスを利用して交際・結婚相手を探すのが一般化した現代において、婚活でいかに「こじらせる」のかに注目し、その「こじらせ方」にあわせた解決策を考えていく必要があるのではないかと、考えられます。