不妊の検査・治療を受けたことがある夫婦は、4.4組に1組(国立社会保障・人口問題研究所『第16回(2021年)出生動向基本調査』より)。不妊が身近な問題となり、妊娠を目指す「妊活」という言葉も広く使われるようになった。 妊活は女性だけではなく、男性も積極的に取り組むことが不可欠。というのも、原因は男性にある場合もあるからだ。日常生活でできる対策について、男性不妊を専門とする山口大学医学部附属病院泌尿器科教授の白石晃司医師に聞いた。 【図表で見る】男性不妊の原因は大きく3つに分かれる

 不妊の原因の約半数は、男性側にあるといわれている。このため子どもが欲しいと思ったら、男性も体づくりを意識することが大切だ。  そもそも男性にとって子どもができやすい体とは、どういう状態を指すのだろうか。それを理解するにはまず、男性不妊の原因について知っておくことが大切だ。 ■精子のクオリティーは30代がピーク  不妊は「妊娠を望む健康な男女が、避妊をしないで夫婦生活を送っているにもかかわらず、1年間妊娠しないこと」と定義されている。男性側の原因としては、大きく分けると造精機能障害、精路通過障害、性機能障害の3つになる。

 この3つのなかで圧倒的に多いのが、造精機能障害だ。  精子に問題がないことが、子どもができやすい体の1つの条件となるわけだが、正常な精子とはどのような状態か。よく知られているのは、精子の濃度(精液中の精子の数)や運動率が正常値であることだ。さらに白石医師はこう話す。  「近年重視されているのは、精子の“クオリティー”、つまり中身です。精子の濃度や運動率は、精子の外見だけを表している指標のようなもの。中身は未知のものも多いですが、現在評価できる1つの方法として、精子DNAの断片化率を調べる方法が普及しています。精子DNAが損傷(断片化)していると、人工授精や体外受精をしても妊娠にいたりにくいのです」

 精子DNAの断片化は誰にでも起きているが、その割合が高くなるほど、精子の濃度や運動率は低下し、妊娠率は下がる。実は、白石医師によると「精子のクオリティー、濃度、運動率は30代がピーク。それ以降は女性と同様に、加齢によって妊娠の可能性は低くなっていく」という。  「精子DNAは突然、断片化するわけではありません。徐々にクオリティーが落ちていき、最終形態として断片化しています。いかにクオリティーを保つかということが、妊娠率を上げることにつながるのです」

 

 

 この検査は「精子DNA断片化指数(DFI)検査」という。自費(自由診療)となるが、心配な人は一度、検査を受けてもいいかもしれない。 ■生活習慣病は不妊のリスク?   さて、精子のクオリティーを低下させる要因は年齢だけではない。生活習慣も大事なポイントだ。というのも、近年は欧米の研究報告などから、精子のクオリティーに問題がある状態、つまり造精機能障害と生活習慣病が関連することがわかってきたからだ。  白石医師は、同院の不妊症検査で造精機能障害があった男性と、ブライダルチェック(結婚前などに子どもを作る力を調べること)などで精子が正常だった男性、合計約3000人を比較したところ、高血圧糖尿病、脂質代謝異常などの生活習慣病を発症している割合が、不妊症患者のほうが倍以上高かったという。

 「対象者の平均年齢は35歳だったので、健康診断を受けていない人が多く、この調査によって初めて生活習慣病が見つかった方も少なくありませんでした。特に多かったのが高血圧の患者さんで、降圧剤を服用してもらったところ、半年後には精子の状態が改善していました」(白石医師)  この研究を報告した論文は、2018年にアメリカ生殖医学会発行の雑誌に掲載されている。  ところで、なぜ造精機能障害と生活習慣病が関連するのか。

 「それぞれ単独の問題ではないということです。精子を作る精巣(陰嚢)も体の一部ですから、高血圧や糖尿病が悪影響を及ぼしているのでしょう。“生活習慣病の症状の1つが不妊”だと考えることもできるわけです」(白石医師)  高血圧、糖尿病、脂質異常症……。心当たりがある人は、まずは生活習慣の見直しから始めてみてはどうだろうか。  妊娠に支障をきたすのは生活習慣病だけでない。日々の生活が造精機能に影響を及ぼすこともある。

 ■サウナ  精巣の温度は通常34~35℃に保たれているが、37℃以上になると精子の形成に影響を及ぼす。だからこそ精巣は体の外に出ているので、なるべく熱にさらさないことが望ましい。例えば、今ブームのサウナ。「週に2回、1回15分のサウナに入ることを3カ月間続けると、精子濃度が低下した」という海外の研究報告がある。  白石医師は、「日本人のデータがあるわけではないので、頻度や時間をどの程度にとどめるべきかを示すのが難しい」としつつ、こう話す

 

 

 「少なくとも妊活中の男性は、サウナに頻繁に行くのは控えたほうがいいでしょう。サウナの習慣をやめれば、精子の状態は元に戻ります。特に精巣が発達段階にある子どもは、サウナなど精巣が頻繁に高温にさらされるような環境にいくのは、控えたほうがいいでしょう」  ■インフルエンザやコロナなどの感染症  インフルエンザや新型コロナなどに感染して、高熱が出た場合も同様だ。だが、これについても一時的に精子の状態が悪くなるが、数週間から2カ月で正常に戻るようだ。

 ■ノートパソコン  ノートパソコンを自分の太ももの上に置いて長時間作業することも避けたい。パソコンから発生する熱が精巣にも伝わるため、といった説がある。  ■ブリーフ  また、ブリーフよりもトランクスのほうが、精子の状態がよくなるという研究報告もある。トランクスのほうが下半身の風通しがよくなり、精巣の温度が上がりにくくなるためだ。  ■長時間の運転  精巣を圧迫する姿勢を日常的に長時間続けることも、精子の状態に悪影響を及ぼすと考えられている。例えば長時間頻繁に自転車に乗る人、長距離ドライバーなどは要注意だ。

 「骨盤内の血流が悪くならないように、1~2時間ごとに立ったり、ストレッチをしたりして休憩を入れることをお勧めします。長時間座ったままでいるデスクワークの人も、同じ姿勢でいるのは避けたほうがいいでしょう」(白石医師)  ■ストレス  さらに、強いストレスは性欲の低下や勃起障害(ED)の原因となるほか、精子の形成を促す男性ホルモンの分泌を抑制する。造精機能障害の約4割は原因不明だが、ストレスや生活習慣が複合的にからみあった結果とも考えられる。

■取り入れたい生活習慣は?   ここまではNGポイント紹介してきたが、妊活中に取り入れたい生活習慣はあるのだろうか。  まず、ドラッグストアなどで売られている男性向けの妊活サプリについては、「酸化ストレスが造精機能に影響を及ぼすことが指摘されています。このため、抗酸化作用のあるサプリメントが有効だったという人のデータもあります。サプリメントは適切に飲む限り副作用がないので、取り入れてみるものいいと思います」と白石医師。

 

 

 ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化ビタミン、L-カルニチン、コエンザイムQ10などが、抗酸化作用のあるサプリメントとして知られている。  定期的な射精も大事だという。  「最近は射精をしないことで、精液の状態が悪くなっているケースも増えています。基本的なことですが、ある程度射精をしなければ古い精子が溜まって精子のクオリティーが低下します。週に2回くらいの射精が望ましいです」(白石医師)  最後に、「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」という病気について取り上げたい。

 精索静脈瘤は精巣の静脈にコブができた状態で、原因は不明。白石医師によると男性の5人に1人に存在しているという。精索静脈瘤が不妊の原因となるのは、静脈瘤によって精巣の血流が悪くなることで精巣の温度が上昇するためだ。  放置しても健康上には問題ないが、不妊の原因の可能性がある場合は手術が必要で、治療をすれば精子の状態が改善する。 ■特に「左の精巣」に注意を  精索静脈瘤があると痛みが出ることもあり、その場合は受診につながりやすいが、自覚症状がないことも多い。

 精索静脈瘤は重症度によって、次の3つに分けられる。グレード1の場合、医師の触診でも見つからないことがあるが、グレード2以上だと自分で見てわかることもある。  「精索静脈瘤はほとんどが左側の精巣にできます。右側に比べて明らかに左側の精巣にある血管がデコボコしていたり、膨れたりしていたら、泌尿器科を受診してください」(白石医師)  精索静脈瘤は多くは中学生くらいで発症するそうだ。  「精巣が発達途中の時期に精索静脈瘤ができると、精巣の発達に影響を及ぼす可能性があります。将来、子どもをもつことを考えると、早期発見、早期治療をお勧めします」

 なお、治療は静脈瘤ができている血管をしばる手術が基本となる。