なぜ、年を重ねるほどに、夫は妻に怒られる機会が増えていくのか――。夫にとっては永遠の謎であるこの問いに対して、脳科学的に説明するのが脳科学者の黒川伊保子氏だ。その最大の理由は、「60代頃になると、人間は『気づきの天才になるものの、自分ではその事実に気づかない』から」だと黒川氏は続ける。  そんな黒川氏が、60代以降が自分の脳の仕組みと向き合いながら、最高の人生を送る秘訣をまとめた『60歳のトリセツ』(黒川伊保子著)。本書から、定年前後の夫婦が平和に暮らすためのメソッドを紹介したい(以下、同書より一部編集のうえ抜粋)。

60代になると、自分がデキすぎて、35歳以下が怠慢で指示待ち人間に見える

 60代のベテラン主婦の気づき力は、人生最高! 当然、家族の誰もついて来れやしない。  でもね、本人は、自分が変わったなんて思ってもいないので、家族を恨んでしまうことがある。気づいてるくせに、してくれない、と。自分ばかりがコマネズミのように働くことになる上に、誰もねぎらいや感謝を口にしないので、「私ばっかり。みんな、家事をバカにしてるんでしょう。私がやればいいって思ってるんだよね。ひどすぎる」ように感じてしまうわけ。  いやいや、違う。気がつかないのである。言われても、若き日の私のように、心に届きもしないってこともある。母の言うことを軽んじていたわけじゃない。脳が処理しきれなかっただけだ。  仕事の現場だって同じことだ。56歳以上のベテランから見たら、35歳以下なんて、みんな半人前に見える。気が利かない、勘が働かない、言ってもわからない、発想力が乏しい「指示待ち人間」。だから、「最近の若者は」と言いたくなってしまうわけだけど、実は、自分の脳が秀逸になってしまったのが原因なのだ……!  60代の創業社長に30代の跡取り、なんていうケース、だから、けっこう厳しい。誰も自分の脳が変わっているとは思わないから、社長は、30代の自分も、今のように勘の鋭い実業家だったと信じている。自分に較べて、跡取りが、ぬるくて甘くて、やる気が足りないと感じられて、先が案じられたり、イライラしたりしがちだからだ。

 

 

年を重ねるごとに、家族や部下に対して寛容な気持ちを持とう

 60になったら、周囲を大目に見よう。  誰かが愚かに見えたら、「あ~、自分が優秀になりすぎちゃったんだな」と思って、まずはイライラを止めること。次に、口を出すか、手を出すか、はたまた本人が自ら失敗して学んで成熟するのを見守るかを、冷静に選択すること。  私は、仕事では基本3番目だけど、家事では、2番目と3番目のハイブリッド。遺言のように「これはこうしないとだめだけど、私が生きてるうちは、私がやるね」と言いつつ、やっちゃうことが多いかな。

定年した夫たちが知っておくべきこと

 ちなみに、定年退職して間もない夫の皆さまへ。  家事を担当してこなかった夫は、残念ながら「家の新人」として、妻から、「ぬるい指示待ち人間」に見えているのである。  どんなに頭がよくても、どんなに頑張っても、妻の30年越えの経験値には絶対にかなわない。なのに、妻は自分がスーパーエクセレントな家政のプロだということに気づいていない。「誰でも気づけることでしょうに、この人、気づかないふりをするなんて、怠慢だし卑怯だし、ひどすぎる」と思い込んでいるのである。  この誤解は、早めに解いたほうがいい。定年退職したら早めに「きみの家事能力は賞賛に値する。さまざまなことに気づき、並列処理で片づけていく能力は、会社の仕事に置き換えて考えたら、かなり尊敬されていいベテランの凄技だ。きみに支えられて、今日まで安心して外で働いてこれたんだなぁと、心から感謝している」と讃辞と謝辞を述べよう。こんな長いセリフ覚えられないという人は、メールでもいい。

定年後、妻にお願いしておくべき3つのこと

 そして、3つのお願いをしておくといい。 お願い(1)「そこで、わかっておいてほしいことがある。僕には、きみに隙なんか無いように見えるから、手伝うポイントがわからないんだ。手伝ってほしいときは、そう指示してほしい。黙って期待してくれても、きっと何もできない。いきなり、なんでやってくれないの!とか怒らないでほしい」 お願い(2)「それとね、最初は出来が悪くても、イラつかないで、根気よく説明してほしい」 お願い(3)「きみの手際を見ていると、家事を一緒にするのはきっと無理だよ。縄跳びの達人の、高速二重交差とびの中に、いきなり入れって言われても無理だろう? だから、何かの当番になろうと思う。洗濯当番とか、お風呂掃除当番とか、単独で何かの専門家になるね。それにしたって、最初は、いろいろ教えてほしい」  ――と、ここまで手を打っておけば、妻だって、自分の家事能力が“縄跳びのアクロバティックな高速二重交差とび”だと納得して、初心者の夫に、優しい気持ちになれるに違いない。  60歳といえども、女心は永遠の14歳なので、自分がお花畑で、ひらりひらりと跳んでいる女の子くらいにしか思っていないのである。その勘違いが、60代の「家の新人」である夫や嫁への怒りを生んでしまうわけ。  というわけで、逆に60代のベテラン主婦の皆さま、ほんっと、家族を大目に見てあげてほしい。あなたは、優秀すぎる。