結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回は、40代の高収入女性のケースを軸に、2022年ごろから少しずつ増え始めてきた年収1000万円超えのパワーカップルについてご紹介します。 ■「互いの仕事を尊重する」が鉄則 パワーカップルとは、高収入の共働き夫婦のこと。基準としては、夫婦とも年収1000万円以上を指すことが多いようです。40代半ばの女性・すみれさん(仮名)は外資系企業にお勤めで、年収1000万円以上。1年半ほど前に弊社の結婚相談所に入会しました。お相手男性の条件は、「年収1000万円以上で5歳年下から4歳年上まで」。
年齢的に子どもは「運がよければ産みます」と言い、「お互いの仕事を尊重する」をキーワードに婚活をスタートしました。一般に40代以上の女性の婚活は厳しく、一部データでは5%程度と言われています。当社では40代女性の成婚率は55~60%です。 高収入女性は途中で退会する人も多くいます。最初の2~3カ月で「ろくな男いないじゃない」と投げ出してしまうのです。自分中心で「私が男性を選んであげているのに」という感覚なんですね。
しかし、20代、30代の高収入男性の多くは20代女性、それ以上の世代の高収入男性でも30代女性を希望します。「ろくな男いないじゃない」とは、それを認めたくない女性が言う言葉。 真実は「条件に合う高収入男性はたくさんいますが、その人たちはあなたを見ていないんですよ」ということなんです。それを理解してくれないことには婚活は進みません。すみれさんは理解しました。 ただやはり、最初の半年間は顔の好みで選んでいたこともあって苦戦。1年ほど経って、仕事で巨大プロジェクトをまかされたこともあり、「休日返上で働くので活動が難しい。いったんお休みしたい」と言っていたことがありました。しかし、一度休会してまた復帰する人は当社では3割未満しかいません。
私はすみれさんから、結婚したいという強い想いを聞いていたので、 「ここでやめたらこの1年間の婚活を棒に振ることになりますよ」「重い腰が上がらなくなってしまい、また婚活しようと思わなくなりますよ」「これから先も1人で70歳近くまで働いて、その後も長く1人で生きていかなければいけない自分と、結婚して2人で生きていく自分を想像して比較してみましょう」という話をさせていただきました。すみれさんは私のアドバイスを聞き入れ、忙しい2カ月間は私にお見合い相手の選択を一任され、復活後にまとめてお見合いをすることになりました。
■お見合いで「好きになるかどうかわからない」 お見合い相手の涼さん(仮名)は、40代後半で金融会社勤務、年収1000万円以上です。数カ月前に入会し、すみれさんは3人目のお見合い相手でした。 週末、ホテルのカフェはお見合いでどこも満席。彼は1時間も早く来て並んだのですが、「待っていてもこれは無理だ」と思い、隣のホテルに行って席を押さえ、すみれさんを迎えに行ったそうです。とても気が利く人ですね。 そんな涼さんにすみれさんは好感を持ったものの、「好きになるかどうかはわからない」と言っていました。これは世代を問わず皆さんがよく心配されることです。「お見合いをしてから3カ月程度、何回かデートしたくらいで結婚を決めるなんてできないのではないか。好きになれないのではないか」と。すみれさんも同じでした。
私は「たくさん会いましょう。会えばいいところが見えてくると思います」と助言。すみれさんと涼さんは、仮交際から成婚までの間にトータルで33回もデートを重ねました。 通常これほど会うことはありません。すみれさんは「時間が限られてる中でも、自分にできることはなんでもやりきりたい。自分が納得するまで、彼との距離を縮めたい」と考えたそうです。 仮交際期間は4カ月以上に及びました。その間、ほかの男性にも会ってみましたが、ある男性は、2回目のデートで「すみれ」と呼び捨てにしてきたそうです。
そのうえ、酔っぱらって街中でハグしてきて、「気持ち悪い、すごく嫌だった」と憤っていました。この男性のように、まじめに婚活するのではなく、ただお酒に付き合ってくれる女性を探しているような男性も少なくありません。 すみれさんと涼さんは、忙しい中でも時間を作って会いました。すみれさんは何度も自宅に招き、手料理をふるまったそうです。もし2人が結婚したらどちらも忙しいので手の空いているほうが料理を作ることになります。
涼さんは「コンビニ弁当でいい」と言いますが、定期的にジムに通い食事に気を使っているすみれさんはそういうわけにはいかないので、涼さんに料理を、玉ねぎを切るところから教えたそうです。途中からは外ではデートせず、キッチンデートになったそうです。そこで距離が一気に縮まっていきました。 ■恋愛感情が芽生えてきた ところがある日、いつもの自宅デートで涼さんが彼女に合わせて無理をして食べていることに気がついたそうです。「彼が無理に食べているようだ。5キロも太ったらしい」「気づけなかった自分が恥ずかしい。もうふられてしまうかもしれない」とすみれさんは悩みました。
この頃から恋愛感情が芽生えてきたのでしょう。私は、「きっとあなたが食べているときに幸せそうだから、うれしくて食べたのでしょう」「『無理させてしまっていたらごめんね』と謝ればいいのではないでしょうか」という話をしました。 あとになって涼さんに話を聞いたところ、すみれさんが忙しい中でも、自分のために手料理を用意し、さらにお惣菜なども買ってきてたくさん準備してくれたことがうれしくて、「もういらない」と言えなかったそうです。
真剣交際は男性から申し込むことが多いのですが、すみれさんから申し出ました。振り返ると、2回目のデートで彼と一緒に歩いているときから、自分が取り繕っていなかったことに気づいたそうです。 それまで会った人の前では取り繕ってストレスがたまった。涼さんの前では気取らずに素でいられる。そこがとても落ち着いたと言います。またお付き合いしていくうちに「彼がとっても優しくて、私を大切にしてくれると思えた」と。 涼さんはほかの女性とも仮交際をしていましたが、すみれさんの申し込みを受けました。理由は「居心地がいい」。「ほかの女性は会話がみんな同じでつかみどころがない。一方、すみれさんは話しやすく、デートのお店選びも含めて、自分が思っていることをハキハキと伝えてくれる」ということでした。男性まかせではなく女性主導の婚活が功を奏したわけです。
■「しっかり話し合った」ことがプラスに 結婚相談所では、交際期間は3カ月、延長しても6カ月までと期限が決められています。4カ月以上も仮交際をした2人は、真剣交際に入ってからは1カ月半ほどで成婚が決まりました。 仮交際中に、新居の場所や生活費について、親の介護についてなど、本来、真剣交際で話し合うようなこともしっかり話し合って、双方納得したうえでの成婚でした。 「しっかり話し合いなさい」と言っても、なかなかできずに結婚に踏み切れないカップルが多い中、やるべきことをやりきりました。だからこそ、当初口にしていた「好きになれないかもしれない」という心配事も杞憂でした。
「お見合いでは好きになれないかもしれない」というのは、形だけのデートを続けて、互いに中身をよく知ろうとしないから起こることなのだと思います。 結婚するためには、自分と相手の色を絵の具のように混ぜ合わせていかなければなりません。それができないと、結局相手が何を考えているのかよくわからなくて破談になってしまう。すみれさんと涼さんは互いにしっかりと向き合いました。 高収入女性は、婚活においても仕事モードを持ち込んでしまうせいか、厳しい口調に怖がってしまう男性も少なくありません。しかし、「仕事帰りでもデート中は“自分”になりましょう」と私が言い続けたせいか、すみれさんはオンオフの切り替えができていました。その点も婚活成功のカギだと思います。
例えば、デートで2人で作ったおかずを、帰り際に容器に入れて「今日の晩御飯に加えてね」と持たせたり、メッセージカードに「温めて食べてね」と書いてくれたり。涼さんはその家庭的なあたたかさがうれしかったと言います。やはり、40代以上は40代以上ならではの成熟した魅力がないと結婚することは難しいと感じます。 ■パワーカップルが増えている背景 すみれさんも涼さんも初婚同士。パワーカップルはこれまで仕事が忙しかったせいか、初婚同士が多いようです。また、これまでは女性が年上で、男性は年下で甘えたいタイプのパワーカップルが多かったのですが、すみれさんのように同世代のパワーカップルも増えてきました。
かつては、男性側が「子どもがほしい」「若い女性がいい」と言うことが圧倒的に多かったのですが、2022年夏あたりからそういう要望は減ってきたように思います。 女性側も、以前は自分が高収入でも「これまで一生懸命働いてきたんだから、もう仕事は辞めたい」と言って、相手男性に1500万円、2000万円とさらに上の年収を求めがちでした。すみれさんはそういったことはいっさい言わず、最初から自分も働き続けると決めていました。
社会の背景が影響しているのかもしれません。コロナ禍やウクライナ戦争、物価高と社会的にも経済的にも不安定な状況が続き、自分の生活と健康を維持することが精いっぱい。主婦になって子どもを産み育てようという精神的な余裕がないのかもしれません。 実際、パワーカップルも簡単に稼いでいるわけではありません。夜遅くまで働いてやっと年収1000万円。今の時代、都心では1000万円あってもそれほどラクな生活はできません。こうした苦しい状況が、互いにずっと働き続けて高収入を維持することを約束したカップルを生み出しているのです。