ニューヨークにある大学病院の米国老年医学専門医として、患者の十人十色の生き方を踏まえたうえで診療に携わっている山田悠史医師。このたび上梓した『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』では、運動の知られざる効能についても詳しく伝える。 【写真】名医20人が自分で買って飲んでいる「市販薬」実名リストを公開! 生きがいを損ねる制約や、好きでないことを押し付けることは、患者にとってマイナスになりかねない、とも考える山田医師。人々が運動しないわけ、そして「本当に続けられる運動」について、特別に解説してもらった。 ----------

運動ほど多くの効能を持った薬はない

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 運動は「最高の良薬」であることに間違いありません。これまで実に多くの研究が行われた結果、運動は死亡、心血管疾患、高血圧などのリスク低下に関連することが報告されています。さらに、肺がん、乳がん、膵臓がんなど、少なくとも8種類のがんのリスク低下と関連することも示唆されています。  これらは必ずしも「因果関係」まで示されたものではないかもしれませんが、これだけバラエティに富んだ疾患のリスク低下と関連が知られているというだけでも素晴らしい知見だと思います。  それだけではありません。認知機能や生活の質、睡眠の質を改善してくれる効果も期待できます。私はこれほど様々な効能を持った薬を他に知りません。この多岐に渡る効果こそが、運動が「最高の良薬」と言われる所以です(参考文献1~5)。

運動が続かないのは「予防」だから

 一方、三日坊主の代名詞といえば、夏休みの宿題、ダイエット、そして健康のための運動ではないでしょうか。  医師として患者さんを診ていると、中でも「健康のための運動」は多くの人が挫折しがちです。その大きな理由には「効果を実感しづらい」ことが挙げられます。宿題のように提出すれば終わりだったり、ダイエットのように見た目の変化が皆に現れたりするわけでもありません。  人は病気になると薬を飲みますが、なぜでしょうか。もちろん「治療」が前提ですが、第一には「悪かった体調が良くなるのを実感できるから」だと思います。  片や健康のための運動は、そもそも体調が悪くない状況から始めて、将来的な体調を悪くする可能性に備えて行う「予防」です。となると、体が検出する効果の実感レベルは極めてゼロに近いものになります。これは医療領域における「予防」に関すること全般に共通することです。「予防」の効果は過小評価されやすいものなのです。  例として今もっともわかりやすいのが、新型コロナウイルスのワクチンかもしれません。同ワクチンは感染しても重症化リスクを防ぐ「予防接種」ですが、接種後すぐに実感できることといえばつらい副反応くらいです。体の中では実際に「重症化していたかもしれないものを、軽症にとどめる働き」をしてくれていても、自分ではさっぱりわかりません。  「運動は体に良い」とわかっているのに運動習慣が根付かない背景には、こうした「予防」効果の見えづらさがあると考えています。

 

 

運動の種類より大切なこと

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 突然ですがここで質問です。あなたが好きな運動、続けられそうな運動はなんですか? 実はこれ、私が病院で患者さんに運動をすすめる際に投げかける問いでもあります。運動はぜひともしていただきたいのですが、負荷の高い運動や苦手な運動を、無理に行う必要はありません。  大切なのはまず「0を1にする」こと。犬の散歩が好き、なるべく階段を使う習慣がある、歩くのは嫌いだけど軽い筋トレは好き、などなど。負荷の低い運動を数分でもいいので「継続させる」ことが肝要です。  毎日が難しければ、週1回だって構いません。健康の維持に関して言えば、運動の種類によって効果の優劣を示す研究データはほとんどないのが現状。ですからあまり難しく考えず、好きなものから始めてみましょう。  なお、最近は「3分の体操で○○を守る!」といった特定の臓器や、特定の機能を回復するための運動を紹介した本もたくさんあります。前述したように、運動の種類によって効果の優劣を示す研究データはほとんどありません。健康維持のための運動は、特定の効果を期待して運動するよりも、小さくこつこつ、積み重ねることが大切です。

紫外線には注意し、夏は屋内で

 運動を行う場所も、屋内・屋外どちらでも結構ですが、近年ではオゾン層の破壊が進行し、紫外線の種類も比較的人体への害が少ないとされるUVA(紫外線A波)から、人体への害が懸念されるUVB(紫外線B波)、UVC(紫外線C波)が増えつつあると言われています。  健やかな骨を作るビタミンDの活性化プロセスには日光浴が有効とされますが、日差しが強い季節の運動は、熱中症のリスクなども加味すると、無理して屋外でやるよりは、屋内で行うのがいいかもしれません。

好きな運動を選ぶのがコツ

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 運動を始めるうえで一番重視してもらいたいのは、「その運動が好きで続けられるかどうか」です。  イギリスで行われた、40歳以上の約6万3000人を対象とした研究では、(1)まったく運動をしない人、(2)週に150分未満の運動をしている人、(3)週末にだけ、合計最低150分程度の運動をしている人、(4)そして週に3回以上の頻度で合計150分以上の運動をしている人に分け、調査が行われました。ここで言う運動とは、ウォーキングや軽い水泳、芝刈りといった程度のものも含まれます。  すると、(1)のまったく運動をしていない人と比較したときに、(4)の運動頻度が高い人たちだけでなく、(2)の週に150分未満の運動をしている人や、(3)の週末にだけ運動をしている人でも死亡リスクが約6~7割に減少するという相関が見られることがわかりました(参考文献6)。  たとえ週1だってノープロブレムなのです。週末だけでも頑張る甲斐があると考えれば、普段忙しくて腰が重い方も少しやる気が湧いてきませんか? 手始めは、好きな動画を観ながらの寝ながらストレッチからでも構いません。ぜひご自分が好きな運動を継続して、最高の老後を手に入れましょう。