付き合っていた異性との関係をどう終わらせるかは、そのときの状況や事情、人それぞれの性格によって違うだろう。結婚相談所で出会ったカップルも然り。特に婚約間近のカップルが別れるとなると、その別れ方にも人間性が出てくる。 仲人として婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声とともお届けしていく連載。今回は、カップルたちの破局のシーンを見ていきながら、別れの美学について考えてみよう。 【漫画】「夫婦2人の写真を飾る家」にあった驚くべき効果

 結婚相談所には、仮交際と真剣交際の区分がある。お見合い後、まず入るのが “仮交際”。この期間は、何人と仮交際をしてもいいし、仮交際している相手がいても新たなお見合いをしていい。  「それでは、二股三股の付き合いではないか」と言う人もいるのだが、そこは解釈の仕方が違う。  生活圏内の出会いは、まずは人柄を知ってから恋愛感情が芽生える。ところが婚活での出会いは、結婚を目的とした男女が、サイトの登録されたプロフィールを見て、人柄は知らないままに出会う。

■音信不通にして“逃げの一手”  条件は、結婚する相手としてクリアしている。だが、人柄はまだわからない。そんな相手と1時間程度の見合いをして交際に入るので、仮交際というのは、いわばお互いの人柄を見る期間なのだ。  そこで、“この相手となら、結婚が考えられる”という気持ちが育ったら、結婚を前提にした真剣交際に入る。このときは他に仮交際している相手がいたらお断りして、1人と向き合う。新しいお見合いもできない。

 真剣交際に入ると、結婚に向けて仕事のこと、お金のこと、家のことなどをすり合わせていくのだが、恋愛感情が育ってきているからこそ、そこには感情の行き違いや考え方のすれ違いが生まれてくる。  ゆみこ(32歳、仮名)は、婚活を始めて1年になるが、なかなか“結婚したい!”と思える相手に出会えずにいた。そんなとき、ともあき(31歳、仮名)とお見合いをした。  「今までしてきたお見合いの中で、一番楽しかったし、一番盛り上がったと思います。ぜひ、交際希望でお願いします」

 

 

 

お見合いを終えて、声を弾ませて連絡を入れてきた。ともあきからも交際希望が来て、交際が成立。そこから、週末デートを3回重ねたところで、真剣交際に入った。  「今までの婚活は一進一退で、まったくうまくいかなかったけれど、進むときって、トントントンと進むものなんですね」  真剣交際に入ってからのデートでは、一緒に指輪を見に行ったり、家を見に行ったり、結婚に向かって順調に進んでいる様子だった。ところがあるときから、ともあきの様子がおかしくなった。「仕事が忙しい」と言って、週末会おうとしないのだ。以前は、LINEを送ればすぐに既読になったのに、朝のLINEが既読になるのは夜。そのうち、2、3日経たないとLINEの既読がつかなくなった。

■仲人のLINEも既読にならず  「毎週末会っていたのに、もう3週間会えていません」  あるとき、ゆみこから連絡が入ってきた。そこで、現状をともあきの相談室に連絡した。ともあきの仲人は「彼に様子を聞いてみます」とのことだった。  その4日後に、ともあきの仲人から連絡がきた。「私が入れたLINEも既読にならないんです。電話をかけても出ない。まったく連絡がつかない状態です」。  この状況をゆみこに伝えると、彼女は深いため息をつきながら言った。

 「わかりました。あと1週間待ちますが、それでも連絡がつかなかったら、交際終了にします。時間は有限です。怖いくらいスムーズに進んでいたので、“運命の相手って、こういう人なのかな”と思っていたけれど、思わぬ落とし穴が最後に待っていたんですね」  恋愛でも、こういうタイプはいる。関係を終わりにしたいときに、連絡を取る間隔を徐々に空けていき、相手がだんだんとあきめるように仕向けていく。自然の出会いやアプリなどでは、そこから自然消滅に持ち込む。

 「仕事が忙しい」というのは、男女ともに別れたいときに使う常套句だ。どんなに仕事が忙しくても、関係を続けたければ会う時間を作るし、LINEの返信は即レスしてくる。  それから1週間後。ともあきとは連絡はつかないまま、ゆみこから交際終了を出した。  「結婚相談所なら仲人さんもついているし、いい加減なことをする人はいないと思ったけれど、そうではないんですね。でも、こんないい加減な人と結婚しなくてよかったです」

 

交際終了を出したゆみこは、気持ちを仕切り直して、次の出会いに向うことを心に決めた。  さとえ(37歳、仮名)は、ともなり(41歳、仮名)と真剣交際に入って、2カ月が経った頃にプロポーズをされ、それを受けた。成婚退会間近だったのだが、「やっぱりこの結婚は考え直したいです」と、連絡を入れてきた。  面談ルームにやってきたさとえが言った。  「前々から気が短いところがあるなと思っていたんです。レストランに行って、注文したものが出てくるのが遅いとイライラしたり、車を運転しているときに不意に飛び出してきた自転車や、無理矢理割り込んできた車に、舌打ちしたり。ただ、それで怒りの感情を言葉にしたり、キレたりする人ではなかったので、気にしないようにしていました」

 ところが、互いの家を行き来するようになり、過ごす時間も長くなってくると、彼の怒り方の特徴が見えてきた。  「ひたすら私を無視するんです」 ■「ケチ!」のひと言に彼がキレた  つい先日、彼の家を訪れたときのこと。結婚式をどういう形式でやるか話し合っていたら、意見が食い違った。ともなりは言った。  「ひな壇に飾られて、見せ物みたいにさらされて、結婚式って恥ずかしいよな。そんなことに大枚はたくのはばからしい。オレはやらなくてもいいと思っているけど、さとちゃんはどう?  うちわの食事会をすればいいんじゃないかな」

 さとえは、結婚式をきちんとやりたいタイプだった。  「私は女性だし、結婚式には憧れがあるの。ウエディングドレスと打ち掛け、2つ着るのが昔からの夢だったし」  すると、ともなりはあきれた口調で言った。「えっ?  着替えるの?  数時間の中で、高い衣装を2回着るって、着せ替え人形じゃあるまいし、もったいないよ」。  その言葉にカチンときたさとえが、やや語気を強めて言った。「前々から思っていたけど、ともくんって、お金を使うのを本当に嫌がるよね。もったいないって、一生に一度のことじゃない。本当、ケチ!」

 

 すると、ともなりの顔つきがキッと変わり、ついていたテレビのボリュームをうるさいくらいの大音量に上げた。そして、そこからはさとえが何を話しかけても、真っ直ぐにテレビを見たまま、無視し続けた。その様子に怒りと悲しみが込み上げてきたさとえは、「帰るね」と一言だけ告げて、部屋を後にしたという。  これだけではなく、過去にも何度かささいなことで意見が食い違うことがあったのだが、決まってともなりは、口をきかなくなる。怒りの表し方は人それぞれだ。大声を出したり、暴言を吐いたり、泣き叫んだりする人もいるが、ともなりは徹底的に相手を無視をするタイプだった。

 さとえは、私に言った。「帰ってから母にも相談したんですが、母が『ケチな人、気が短くて怒りやすい人と結婚したら、生活がつらくなるわよ』と言うんです。まだ婚姻届を出したわけじゃないし、今ならまだ引き返せるかなって思うんですよ」  よくよく考えたようだったが、さとえはともなりとの婚約を解消することにした。  すると数日後、送られてきたLINEに書類が添付されていたという。開いてみると、今までのデートで使ったお金がすべて明記されており、そのきっちり半額を支払ってほしいという請求書だった。

 「家計簿アプリを携帯に入れていたのは、知っていました。テレビを大音量にして私を無視した日、彼の家に行く前に近くのコンビニで買った数百円の唐揚げのお金も、半額請求されていました。ケンカになったので、私は唐揚げを食べていませんけど。こんなケチな人と結婚しなくて、本当によかった」  としゆき(39歳、仮名)は、真剣交際に入っていたゆきえ(37歳、仮名)にプロポーズをし、その翌週末には2人でデパートに婚約指輪を買いに行った。

 そのことについて、としゆきがこんな報告を入れてきた。  「あんな高級店に行ったのは、生まれて初めでした。ちっちゃな石のダイヤモンドがいい値段しているので、びっくりしました。まあ、一生に一度のことだし、奮発して彼女が欲しいというものをプレゼントしました」  1カ月の給料をはるかに超える金額の指輪を贈ったという。その後は新居も探し始め、結婚に向けての準備を順調に進めている様子だった。月末には成婚退会もする予定でいた。

 

■指輪を持って行方をくらます  ところが、週明けにゆきえの相談室から、連絡が入った。  「結婚の話を詰めていくうちに、彼の性格がいろいろ見えてきて、根本的な考え方や結婚観が合わないと思ったようです。婚約は解消、交際終了の申し出がありました」  驚いた私はとしゆきに電話を入れた。すると、彼が大きなため息をついてから言った。  「週末、僕の家で会ったときに、これからのことを話していたんですね。結婚後の仕事の話になったら、彼女が、『仕事は辞めて、専業主婦になりたい』と言うんです。僕は、彼女の収入をあてにしているわけではない。だけど、女性もなんらかの仕事をして、社会とつながっていたほうがいいし、家でいつも僕の帰りを待たれていたら、重たいというのを伝えたんですよ。そうしたら、みるみる機嫌が悪くなって、そのまま帰っちゃったんです」

 そこから、LINEを入れても返事がそっけなく、ついに2日前からはLINEが既読になるものの返信が来なくなったという。  「女性って、いったん気持ちが裏返ると修復不可能ってよく言いますよね。相談室を通じて婚約は解消、交際終了を出してきたのなら、もう元に戻るのは不可能。あんなに高い婚約指輪を買ったのに。こういうときって指輪はどうなるんですか?  現物を返されたって僕は困るけれど」  相談所の通例としては、婚約解消が女性の心変わりで男性に非がない場合は、指輪代を現金精算し、返金してもらっている。

 「指輪代は振り込みで返してもらいましょう。領収書かレシートは、持っている?  私が相談室にその連絡をします」  ところが、ゆきえの相談室に指輪代の精算について話をすると、その後彼女とは連絡が取れなくなってしまったという。そして、勝手に「退会届」を送りつけて、相談所を退会してしまった。  婚約破棄をされ、すっかり落ち込んでいたとしゆきだが、指輪を持って姿をくらましたという事実を知って、悲しみよりも怒りのほうが勝っていった。そこから、としゆきはゆきえに指輪代の返金を求める内容証明を送ったのだが、なしのつぶて。内容証明には法的拘束力がないので、無視をしていても何の罪にもならない。

 

■これは婚約指輪ではないと主張  怒りの収まらないとしゆきは、弁護士を立てて訴訟を起こした。弁護士費用を考えたら、指輪のお金が全額返ってきたとしても、金額は相殺もしくは赤字になることはわかっていたが、このまま泣き寝入りしたくなかった。  結局は裁判になったそうだ。ゆきえは弁護士を通じて、「婚約はしていない」「指輪は婚約指輪ではなく、としゆきが勝手に買ったもの。プレゼントの認識だ」と主張してきたという。

 結局、裁判所の判決は、としゆきの言い分が通ったかたちで落ち着いた。  一度は結婚を約束したものの、どちらか一方の気持ちが変わってしまうことはあるだろう。だが、関係の終わらせ方に、互いの人間性が垣間見えてくる。“立つ鳥跡を濁さず”ということわざがあるが、別れ際はきれいにしたいものだ。  しかし、恋愛においては愛憎が入り交じるので、それは難しいのかもしれない。