今回のテーマは「毒親の呪縛」。子どもの人生を自分の思いのままに支配しようとする親から逃れて結婚した女性と、逃れられずに婚活に励む女性のケースをご紹介します。
父親が箸を置いたら…
弊社のカウンセリングルームで、ちょっとたどたどしい日本語で自分の生い立ちを語った20代女性・奈津美さん(仮名)。聞く限りではその家庭の様子はかなり特殊だと思いました。
日本語がたどたどしいのは、父親の仕事の関係で、生まれてから大学に入るまで、欧米諸国を転々として暮らしてきたから。奈津美さんは1人っ子で、母親は専業主婦。50代後半の父親は社会的地位がとても高い方なのですが、ちょっと普通ではありえないほど厳格なのです。
家庭内にはさまざまな掟がありました。たとえば、父親が家にいる間は絶対に家にいなければいけない。食事中、父親の箸が止まったら奈津美さんと母親も止めなければならない。食事中、父親が話し始めたら、箸を置かなくてはならない。
奈津美さんの大学進学のタイミングで一家は帰国しましたが、大学生になっても厳しい生活は続きました。授業が終わったらすぐに帰宅しなければならない。アルバイトは禁止。お小遣いもなし。昼食は学食で、その都度いくらかかかるのか申告して代金をもらう。友だちと外で食事したりお茶したりするのも禁止……。
海外暮らしが長く、その上、2~3年ごとに転校を繰り返してきたので、「あなたの家、ヘンだよ」と忌憚なく指摘してくれる友人はいません。当然、恋愛をしたこともありません。
大学卒業後、外資系企業に入社。幼い頃から「女性は母親のように結婚して夫に仕え、食べさせてもらうのだ」と思ってきたことに加えて、コロナ禍でリモートワークのせいか、仕事に対して情熱はあまりありませんでした。ただ、日本で暮らしているうちに、「うちの家族はヘンだ」ということに少しずつ気づき始めたようです。
「このまま家にいたら、結婚どころか自分が望む人生は歩めなくなってしまう」。 奈津美さんは貯金していたお金を持って家を出ました。父親が「そんな勝手なことをするなら勘当だ」と怒鳴り散らしたので、「ありがとうございます」と、喜んで本当に縁を切ってしまったのだそうです。
特殊な親子関係に多くの男性がドン引き
ネットで弊社を知り、「20代半ばまでに結婚したい」と入会。しかし、日本の一般的な結婚の形、家族の形がまったくわからない。自分の家や限られた海外駐在員の家庭しか知りません。だから、女性はみんな結婚したら専業主婦になるものと思い込んでいました。
そして、母親は父親に何一つ物申せない。自由になるお金も一切ない。家の中で小さくなって、何を言われても父親に従うものだと思っていた。言ってしまえば、専業主婦は夫の奴隷。そのため、お見合いに行ってもものすごく低姿勢でした。
「今の世の中は違いますよ。夫婦とも働いていますし、女性も自由に意見も述べていいんです」というお話をしましたが、1回だけではわかってもらえないので、何度も根気強く話しました。 いわば"リハビリ"です。日本の社会や親子関係、結婚とはどういうものか、婚活以前のことを学びながら、お見合い相手を選びました。婚活を通じて日本の社会を知っていったようなものです。
最初は弁護士や医師、経営者のような年収の高い30代男性と会っていましたが、「親と縁を切った」という話をすると、みんなびっくりして引いてしまう。ただ1人、真剣交際に進んだ男性がいました。6カ国語ほど話せる語学堪能な外国人です。
その男性は奈津美さんのことをとても大事にし、エスコートも上手。日本の男性はエスコートが下手なんですね。特に30代の弁護士や医師は上から目線で、女性を軽視しがちした。
その男性と成婚する予定で、沖縄旅行の予約をしていたのですが、奈津美さんがマリッジブルーになってしまい、直前に交際終了。しかしよくよく考えてみたら、彼のように奈津美さんの親子関係を「そういう人生もあるよ」と理解してくれる男性はいません。改めて彼の包容力に気づき、彼1人傷心の沖縄旅行の最中に復縁を伝え、彼女が沖縄へ追いかけていき無事に成婚……という最後の最後まで山あり谷ありの婚活でした。
結婚相手が外国人ということを父親に伝えたら絶対に反対されるので、伝えていません。母親は父親から「奈津美と勝手に連絡をとるな」と言われているらしく、必然的に縁が切れたようです。奈津美さんは、たった1人で幸せへの道を走り出しました。勇敢な女性です。
「墓守しなければならない」と言われて育った女性
奈津美さんは無事に親の呪縛から逃れましたが、逃れられない、逃れようとも思わない人もいます。
婿養子を希望している30代の女性・千秋さん(仮名)。婿養子を希望する理由は「墓守」。その地域の習慣で、長子は先祖代々の墓を守らなければならないのだそうです。
今どき婿養子希望の婚活はかなり難しい。代々商売をやっていてその跡を継ぐというならまだありえますが、商売も何もないところに、ただ「お墓があるから」というだけで、男性が自分の仕事を辞めて知らない地域に行くでしょうか。 案の定、婚活は四苦八苦。
「これは難しいですよ。今どき、墓守に行きたいという男性はいません」「世の中、1人っ子が多いですし、兄弟がいても2人くらい。どこの親も手放しませんよ」という話を何度もしていますが、千秋さんは「親に小さな時から『墓守、墓守』と言われてきたから、その条件は変えようがないし変えられません。何がなんでも結婚します」と言う。家1軒、車も1台、仕事も口利きをして用意する。それくらいしないと千秋さんの結婚は難しいでしょう。
いったい誰と誰が結婚するのでしょうか。思わずそう疑問に思ってしまうような親子も少なくありません。「こんな人とお見合い成立したんだけどどう思う?」といちいち親に報告する。親が「この人はちょっとね……」「やめておいたほうがいいんじゃない」などと口を出し、一向にお見合いまで至らない。本人はこれまで自分で考えて決めるということをしてこなかったのでしょうか。親が言うことは間違いないと信じて疑いません。
口では「娘/息子がいいと思う人と結婚すればいい」と理解のあるふうなことを言っていても、実際には連れてくる人、連れてくる人、全部反対する母親は案外多い。
特に娘に対しては、「母親自身が結婚したい人」と結婚させたいと願う母親が多いようです。だから医師と結婚したかった母親は、必ず「医師がいい」と言います。娘を自分の分身か所有物と勘違いし、自分が叶えられなかった夢を娘に託しているのです。
そんな母親は、娘が自分の言うことを聞かないと人前でも小さい子を叱りつけるように叱ります。見かねた私が「お母様、お嬢さんはもう大人なんですよ」となだめようとすると「私の娘なんだからほっといて!」「××ちゃんは、ママと植草さん、どっちを信じるの?」などと言います。
父親が婚活に積極的になった背景
娘とシングルマザーの母親が一緒に来ることもあります。長い間、2人きりで生きてきたので、絆は一般の親子よりもよりいっそう深く、まるで母親もセットで嫁に行こうとしているかのよう。正直なところ、婚活においてはなかなかやっかいな存在です。お見合いのたびに「私、二世帯住宅希望してるんですけど」と言ってしまう。相手はドン引きです。
でも、それは優しいからなんです。優しいから母親1人置いて自分だけ幸せになれないと考えている。だから、私は「お母さんも一緒に婚活しませんか。2人で別々のところに飛び立ちましょう」とご提案しています。
母親もまだまだ若いですから。 父親が一緒に来るパターンはコロナ前までは10年間で数人いるかいないかだったのですが、コロナ禍で急に増えてきました。おそらくリモートワークになって時間に余裕ができ、改めて自分の家族について考えるようになったのでしょう。
もっとも、コロナ禍で献身的になったのは母親も同じ。以前は、子育てが終わって、友だち同士で飲みに行ったり、バスツアーに参加したりと趣味に勤しんでいた50代母親が、外で遊べなくなってヒマになり、よくも悪くもまた子どもに関わりだした印象です。
先日は、30代会社役員男性の父親が「うちのせがれは気がちっちゃくて、女の子に声をかけることもできない。変な女に騙されたら困るから、結婚相談所でちゃんとした女性を探してほしい」と相談に来ました。父親は子どもの結婚相手に対しては、職業よりも将来性や性格などを重視するようです。父親のほうが母親よりも冷静な印象を受けます。
親と縁を切って結婚する、縁が切れずに墓守のために婚活をする。親と縁を切って結婚する、縁が切れずに墓守のために婚活をする。どちらも本人の判断ですが、親の呪縛から逃れる人・逃れられない人の差は、「うちの親はおかしいのかもしれない」と気付けるかどうかにありそうです。