れまでまったく違う人生を歩んできた2人が、一つ屋根の下で暮らすことになるのが結婚だ。生活を共にするようになると、お互いのライフスタイルの違いが見えてくる。それを許容できればよいのだが、小さな違和感が生じるようになり、それがどんどん重なると、一緒に生活していくことがストレスになってくる。 仲人として婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声と共にお届けしていく連載。今回は結婚後に、あまりにも違うライフスタイルから気持ちがすれ違い、10カ月で離婚となった女性の話をつづる。婚活中の人たちは、結婚生活には何が大切なのかを、あらためて考えほしい。 「女性の生涯未婚率」東京を抜き1位の「意外な県」
一昨年成婚退会をしたまゆこ(39歳、仮名)からLINEが入った。 『昨年11月末に、たくみさん(39歳、仮名)と離婚をしました。10カ月間の短い結婚生活でした。気持ちの整理もついたので、お時間のあるときに一度そちらに伺ってもよいですか?』 週末に、まゆこは事務所にやってきた。 ■自宅の明かりを見て息苦しくなった 「35歳から婚活をしてやっと結婚できた相手でしたが、一緒に住み始めたときから、何もかもが合いませんでした。最初は、気になることがあっても見過ごすようにしていたのですが、小さなほころびが続いていくうちに、大きなズレになっていきました」
最後の2カ月は、夕方会社を出るときになると気持ちが重たくなっていたという。 「住んでいたマンションの近くに交差点があって、そこから部屋が見えるんですね。残業して帰った夜、信号待ちしていたときに部屋の明かりがついているのが見えたら、なんだか息苦しくなって。私、もしかしたら精神的にいっぱいいっぱいになっているのな、と思いました」 離婚が決まる寸前は、顔を見るのも、一緒にご飯を食べるのも、同じ部屋で同じ空気を吸うことも、苦痛になっていた。
まゆこは、私のところでは2年婚活をしていたのだが、その前に別の相談所でも2年婚活をしていたので、計4年間活動していたことになる。 “自分の理想にかなう相手と出会うきっかけを相談所で作れればよい“と気軽に考えていたし、“婚活すれば結婚できる“と簡単に思っていた。女子大卒のまゆこは、OGやその親戚の娘や息子が登録している大学系列の相談所に最初、登録をした。そこを一旦退会して、私のところに面談に来たときに、こんなことを言っていた。
■母親の勧めで入会した男性がほとんど 「前の相談所は登録人数が圧倒的に少なかった。それに、男性のほとんどが母親の勧めで入会しているので、身元はしっかりしているものの、どこか頼りない。やる気も感じられない。お会いしてもピンとくる人がいなかったんですよね」 そうして、37歳から私のところで婚活を始めた。積極的にお見合いをしていったが、どうも結婚まで進める相手には出会えずにいた。 そんなときに、やっと真剣交際に入れそうな男性、とおる(42歳、仮名)が現れた。しかし、ほどなくして日本中がコロナに脅かされるようになった。とおるはコロナに異常に敏感で外出をしたがらなくなり、それまで週1回会っていたデートができなくなった。
「LINEのやり取りはしているんですけど、もう会えなくなって、1カ月が経ちました」 まゆこからその連絡が来たとき、この交際はうまくはいかないと仲人の経験則から感じた。 生活圏内での自然な出会いと、婚活での出会いは性質が違う。生活圏内の出会いは、気持ちができてから恋人同士になり、そこから結婚となる。1カ月会わなくても、連絡を取り合っていれば気持ちが下がることはない。 ところが婚活での出会いは、プロフィールでお互いの情報を知り、お見合いをし、交際に入る。そこから手探りで関係を築いていくのだが、相手を知っていく初期段階が重要なのだ。そのときにどちらかの歩みが止まってしまうと、進もうとしているほうは肩透かしを食らう。そして、テンションが下がってしまう。
人間関係が十分にできていないうちにテンションが下がると、それはもう二度と上がらない。 会えなくなって2カ月が経った頃、まゆこから連絡が来た。 「とおるさんとの交際は、終了しようと思います。最近はLINEのやり取りも滞りがちです。会っていないから話す話題もないというか。コロナは終息しそうにないし、このままLINEだけ続けていても、結婚はないと思います」 こうして交際終了を出し、そこからまたお見合いを始めるようになった。
コロナの蔓延で、明暗を分けたカップルは多い。ウイルスに敏感な人は、感染者数が増えたり変異株が出てきたりすると、活動を止めてしまう。感染に気を遣いながらも活動を続けている人は、相手が動かなくなれば交際を終了するしかない。コロナによって交際終了になっているカップルは、ことのほか多い。 とおるとの交際を終了して、新たなお見合いを始めたまゆこだったが、なかなか本命が現れず、1年が過ぎた。そんなときにお見合いをしたのが、同い歳のたくみだった。都内のメーカーに勤めていて、年収は700万円。
■会社は上場企業、年収も高いから… 「最近はもう年の離れた人からしか、申し込みが来なくなった気がします。私も40歳が見えてきているけれど、できることなら最後のチャンスに子どもを授かりたい。そう考えたら、10歳も15歳も離れている人との結婚は考えられない。たくみさんは同い年だし、会社は上場企業だし、年収もいい。ここで決めてしまいたいです」 まゆこは、たくみと交際に入ったときにそんなことを言っていた。そして、2カ月後には真剣交際に入り、そこから1カ月経って成婚退会をしていった。
しかし、結婚してからというものの、気持ちも性格も少しずつすれ違っていったという。 結婚後の新居は、たくみが3年前に購入した3LDKの分譲マンションだった。ただ、はじめてそこを訪れたときにあまりにも物があふれていたので、驚いてしまったという。 「2人で暮らせるよう、まゆちゃんが引っ越してくるまでには、部屋もある程度片付けておくよ」 たくみはそう言っていたのだが、片づけられていたのは、共有スペースになるリビングと寝室だけ。残り2部屋には、足の踏み場がないくらい物がぎっしり詰まっていた。リビングと寝室にあった荷物を、その2部屋に運び入れたようだった。
「私、片付けは得意だし、時間を見つけて2人で部屋を片付けていこうね」 ある週末を部屋の片付けにあてることにした。片付けを始めてみると、たくみは物が捨てられない体質だとわかった。 黄ばんだ漫画の単行本や小説が本棚にぎっしりと詰められていたので、「これ、古本を扱っているお店に持っていきましょうよ」と言うと、「大事なコレクションなんだ。絶版になっているものもあるし、そんなことできるわけないだろう」と声を荒らげた。
ほかにも、クローゼットには首元が黄ばんでいたり、袖口や裾が擦り切れている服やスボンもぎっしりと入っていたが、それらも「取っておく」と言い張り、捨てることを許さなかった。 さらに、キッチンの棚からは、ファストフード店でコーヒーや紅茶を頼んだときについてくるスティックシュガーが、驚くほど出てきた。それを処分しようとすると、「知らないの? 塩と砂糖には賞味期限がないんだよ。料理に使えるし、勝手に捨てないで」と、取り上げられた。
結局、ほとんどのものを捨てないままに、その日の片付けは終わった。 ■隣の夫婦の子の泣き声に過剰反応 そして、生活がスタートしてみると、音に対して異常なほどに敏感なこともわかった。会話をしていても「声が大きい。もっと声のボリュームを下げて!」と注意される。夏に隣の家に住む夫婦に赤ちゃんが生まれると、その反応はひどくなった。 「時間を問わずに赤ん坊が泣くから、声がうるさくて、最近熟睡できないんだよ。今日、隣の住人にエレベーターで乗り合わせたから、注意したよ。『子どもが泣いているのに、窓を開けてますよね。ここは集合住宅なので、マナーを守ってください』って言ってやったんだ」
まゆこはそれを聞いて、“赤ちゃんは泣くものだし、部屋の換気をしたければ窓も開けるだろう。なぜそれが大きな気持ちで許せないのか“と思ったそうだ。ただ、そのときは言い争いになるのが嫌で、言葉を飲み込んだ。この頃は、すでにケンカも絶えなくなっていたからだ。 また、食の好みも違っていた。まゆこは夜お酒を飲みながら、野菜や肉や魚などのおかずを少しずつつまむのが好き。一方のたくみは酒をほとんど飲まず、ハンバーグやオムライス、ナポリタンなど、子どもが喜ぶようなメニューをガッツリと食べたがった。
新婚生活がスタートしたばかりの頃は、自分とは違う相手の考え方や食の好み、物を捨てられない性格などを見過ごすようにしたり、許容したりしようと努力していた。しかし、小さなストレスが溜まっていくことで、タメ息をつく回数が多くなったり、家に帰るのが息苦しくなったり、自分の体調が変化していることに段々と気づいていった。 当時を振り返り、まゆこは私に言った。 「もう家のなかでまったく笑えなくなったんです。あと、彼の些細なことにもカチンときて、私がキレるようになった」
ある日曜日の朝、隣の家から赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきた。その日は秋だったが朝から気温が高く、隣の家は窓を開けていたのだろう。泣き止まない声にイライラしてきているのが、たくみの表情から読み取れた。そして、「チッ!」と舌打ちすると、テーブルとバンと力いっぱい叩き、テラスに出て隣の家に向かって叫んだ。 「うるさい! 泣き止ませろ!」 その様子にまゆこがキレた。「赤ちゃんは、泣くのが仕事。それを見守るのが大人の仕事。そんなこともわからないの。あなたは、赤ん坊以下だわ!」。
まゆこの剣幕が、たくみの怒りをさらに増幅させた。「なんだと、このバカ女が。お前は赤ん坊の以下の以下だ!」。 そこから罵詈雑言を浴びせ合う大げんかとなり、最後にたくみが言い放った。「ここは俺が買った家だ。俺が嫌なら出ていけ。離婚してやるよ」。 “離婚“という言葉を聞いて、まゆこのなかでこの結婚生活に幕がストンと降りた気持ちになった。まゆこは私に言った。 ■「離婚」という言葉が出てほっとした 「結婚生活も最後のほうは、“私ってこんなに怒りっぽい人だったかな“って、自分が嫌になっていた。秘書を車中で罵倒した女性議員がいたじゃないですか。その音声テープがテレビで流れたことがあったけれど、“私、あの議員さんと同じだわ“って思って。
かなりメンタルがやられていたと思うし、向こうから離婚という言葉が出てきたときに、なんだか内心ほっとしたんです」 そして、続けた。 「今回の結婚は、すごくいい勉強になりました。年齢的なこともあって、“この人は条件もいいし、なんとか結婚してしまおう“と思ったけれど、それでは幸せになれないこともわかった。ただ結婚自体は悪いものではないと思っているんです。離婚した日からすでに100日経ったし、婚活を再スタートさせたいと思っています」
日本の法律では、基本的に女性は離婚から100日は結婚できないことになっている。これは父子関係を確定し、父子関係をめぐる紛争を未然に防止することが目的だ。 もちろん、独身なのだから、離婚の翌日から独身証明書を取れば結婚相談所での活動はできる。ただ、まゆこはこの100日間を自分を見直す期間にあてたかったようだ。 「最後のチャンスに子どもを授かりたいという縛りはもうつけずに、これからの人生を一緒に歩いていける、自分に本当に合う人を焦らずに探したいです」
まゆこの本当の婚活がこれから始まる。