結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回のテーマは、お見合いでマナーやルールを守らない困った人々。最初の顔合わせとなる大事なお見合い。そこで非常識な行動をとる人が増えてきているように感じます。今回はそんな事例をご紹介します。 ■「マスクをしてください」が言えなくて⋯  近ごろ、お見合い相手のマナーの悪さや、非常識な振る舞いに困るケースが増えてきたように感じます。例えば、新型コロナウイルスの感染予防対策。どこまで気をつけるか個人差が大きい問題ではありますが、せめてお見合いの場ではマスク着用、適度な距離を取るといったごく一般的なマナーくらいは守ってもらいたいものです。

 婚活を始めて1年以上になる40代の会社員女性・恵美さん(仮名)は、当社とは別の結婚相談所に所属する50代の会社経営者の男性とお見合いしました。場所はホテルのラウンジ。コロナ以前よりも席と席の間に余裕を持たせていて、感染対策がしっかりされています。  ところが、男性はコロナをあまり気にしないタイプだったらしく、会話中にマスクをしないどころか、わざわざ顔を近づけて大きな声で話しかけてきたそうです。当然唾液も飛んできます。

 恵美さんは「困ったな」と思ったものの、「マスクをしてください」と言い出せませんでした。初対面で言いにくいということもありますし、相手は会社経営者ですから年収がよく、ふられたくない。特に、女性は40代以上になると婚活で苦戦するため、言いたいことを言わず我慢しがちです。  結局、1時間ほどアクリル板のない至近距離でおしゃべり。男性は勝手に盛り上がり、「上のバーに飲みに行こう」と言う。「条件がいいし、気に入ってくれたと思ったから……」と、結局、恵美さんはついていってしまいました。バーでも2、3時間、彼女いわく「ほぼ監禁状態」で、グイグイ迫られ、飛沫もペッペと飛ぶ距離で話しまくられたと言います。

 

翌日、恵美さんを襲ったのは、39度近くの高熱。このご時世ですから、その週と翌週に予定していたお見合いはすべてキャンセル。本命として1カ月も前から楽しみにしていた歯科医師とのお見合いもキャンセルになってしまいました。 ■お見合いはキャンセル、違約金も発生  お見合いは、相手が承諾してくれれば延期も可能ですが、相手も「早く結婚したい」と考えているので、いい条件の人がみつかればどんどんお見合いの予定を入れていきます。歯科医師にはまだ会えていない恵美さんのことを待つ余裕はなく、案の定「この時期に高熱ということなら、もうご縁がないということだと思う」と、迷う余地もありませんでした。しかも、直前のキャンセルということで、恵美さんが1万円の違約金を払うことになりました。

 翌日の発熱ですから経営者男性が原因ではないと思いますが、恵美さんは「マスクをしてください」「もう少し離れてお話ししましょう」と言わなかった後悔にさいなまれ、体調回復後も精神的なダメージはなかなか癒えませんでした。  「これからは言うべきことはきちんと言おうね」と慰め、恵美さんもすっかり懲りたようで、すべてのお見合いをリモートに切り替えることにしました。  また別の会社経営者男性は、当社の会員女性・佳奈さん(仮名)とお見合いをすることになりましたがいきなり「横に座っていいよね」と近づき、「佳奈ちゃん」などと名前で呼び出して恋人気取り。

 佳奈さんは胸元をジロジロ見られたことで不快だったそうですが、やはり年収がものすごくいいことと、社長として経験が豊富なため話はそこそこ楽しかったので、とりあえずそのお見合いはトラブルにはならず、交際がスタートしました。  ところが、交際開始直後から何度もしつこくメールが来るように。「早くまた会いたいよ」から始まり、ヒートアップして「何着て寝るの?」など聞いてきたため、佳奈さんは恐怖に感じ交際を終了したいとの相談が来ました。

 

 こちらから先方に交際終了を伝えお互いの連絡先を削除してもらい、終了することに……と思いきやその後、彼からまたもや連絡が来て、揚げ句の果てには「今月中に自分はこの相談所を辞めるから、2人でこっそり会おうよ」と誘ってきたとか。これは完全に規約違反ですので、先方相談所に確認をしました。  先方相談所の担当者も事実に困惑していましたが、至急会員に連絡し、二度と佳奈さんには連絡をしないという形で収まりました。しかし、よくよく聞いていると、以前はそのような粗相をする会員ではなく、コロナ禍の前は定期的に地方に出張に行き、業績も順調だったようですが、コロナ禍後は業績も不安定となりリモートワークに切り替わり、少しずつ精神状態が不安定となっていったそうです。

お見合い後にドライブに誘われ…  エステサロンオーナーの40代女性・真奈さん(仮名)は、40代の男性とお見合いをしました。その男性は年収1000万以上という好条件。しかし、落とし穴がありました。  まず、初っ端から名刺を差し出されてモメることに。そもそもお見合いの場ではトラブル回避のため連絡先の交換は一切しないことになっています。真奈さんも「名刺はもらわないよう相談所から言われている」とお断りをしたのですが、男性は「名刺を出されたら受け取って、自分も出すのが普通だろ?」と引かない。再度断ると、「チッ、細かいな。そっちの相談所はそんなこと言ってるのか」と舌打ちされたそうです。

 気を取り直して「今日はありがとうございます。お見合いは事前に1時間とお約束しました通り、このあと仕事に戻りますのでよろしくお願いします」とあいさつして、お見合いを開始しました。すると終了時刻間近に、男性が「今日は俺はドライブするつもりだから。行くよね?」といきなり誘ってきたそうです。  真奈さんは「私はこのあとサロンにお客様がいらっしゃるので戻らなきゃいけないんです」と説明しましたが、男性は「俺は今日のためにわざわざ車を借りてきた。行かないのは失礼じゃないか」と逆ギレ。その後、男性と押し問答になり、最後には怒鳴りだしたそうです。

 

 「アンタさ、自分勝手じゃない?  お見合いはお互いを知るためにあるもので、1時間でサッサと終わるなんてあり得ないんだよ。さっきからなんだよ。『行かない、行かない』って、いい加減にしろよ!」  あまりの大声にウェイターが飛んできて、「大丈夫ですか?」と声をかけたくらい。真奈さんは怖くて、やっとのことでトイレに行くと席を離れ、私に電話してきました。  「このまま帰ったほうがいい」と助言したのですが、席にまだ荷物が残っているというので、「じゃ、とりあえず戻って『相談所に電話したら帰りなさいと言われた』と言ってお帰りになってください」と指示。真奈さんは戻って「お釣りはいらないです」と2000円をテーブルに置いて逃げるように帰ったそうです。

■電車で泣いていた目の前にいたのは…  結婚相談所でのお見合いでは、こんなことは通常起こらないことなのですが、怒鳴られて怖い思いをして、帰りの電車の中では涙が止まらなかった真奈さん。夜、私がフォローの電話を入れて1時間ほど話を聞いて慰めたら、「話を聞いてもらったので、気持ちがおさまりました」と落ち着き、「さんざんでしたけど、1つ、いいことがあったんです」と言いました。  「電車で泣いているときに、ふと顔を上げたら、目の前に見たことがある人がいたんです。その時は泣いてもうろうとしていてわからなかったんですが、冷静になって思い返してみたら、先週お見合いした人でした」 「運命かも」なんて言っていた真奈さんです。

 結婚という一世一代の大きなイベントに不安定な社会情勢が絡んできたために、多くの人の精神状態も大きく変化しています。婚活現場も例外ではありません。今後は時代の流れを汲みながら、いかに会員に的確に寄り添えるか、相談所の真価が問われることになります。