■末期がんの父を見送るために帰省 会員の聡子(仮名、39歳)は、昨年の11月から、出身地である地方都市に帰省をしていた
。末期がんである父が、「いよいよ危ない」と医師に宣告をされ、父の人生最期となる時間を一緒に過ごしたいと思ったからだ。
コロナ禍で世の中がリモートワークを奨励する風潮もあり、聡子が帰省して働くことを、会社も了解してくれた。 仮交際をしている男性もいたのだが、事情を話すと、「LINEやリモートで連絡を取り合っていきましょう」と、優しく彼女を送り出してくれた。
年が明けて、聡子から連絡が入った。 「帰省して2週間は県外から来た人は病院に入れず、見舞いに行けませんでした。やっと見舞えるようになり、そこから1週間で父を見送りました。父は、私が行くのを待っていてくれたのかもしれません。
現在お付き合いしている吉田さん(仮名、41歳)とは、こちらに来てからもLINEでのやりとりは続いていました。お人柄は優しい方なのですが、考え方や価値観に違ったものを感じ、将来的な結婚は難しいかなと思いました。ここで交際終了とさせてください。
そして、2月はいったん休会して、気持ちを整理し、3月からまた婚活を再開したいと思います」 このLINEを読んで、聡子が私の相談室に入会面談にやってきたときのことを思い出した。 入会面談に来た人には、氏名、生年月日、婚歴、学歴、相手に望む条件などを面談シートに書き込んでもらう。その情報を手がかりに、こちらが質問をして、面談者がどんな婚活して、どんな結婚をしたいのかを探っていく。 彼女の面談シートの「相手に望む学歴」には、“気にしない”のところに丸がついていた。
聡子自身の学歴欄には、誰もが知る有名私大の学校名が書かれていたので、私が、「お相手の学歴は気にならないんですか?」と、尋ねた。
■職人の父の背中を見て育った すると、彼女は言った。 「私の父は中学を卒業して大工になり、修業期間を経て独立し、高卒の母と結婚をしました。母は姉さん女房です。そこから父は、自分の腕一本で稼ぎ、母はそんな父を支えて、弟と私を大学まで行かせてくれました。そんな父の背中を見て育ってきているので、人は学歴ではないと思っています。自分の仕事に誇りを持って前向きに取り組んでいる方との結婚を望んでいます」
この話を聞いたときに、私は心洗われる思いがした
。結婚相談所を訪ねてくるアラフォー女性たちは、入会面談のときに、必ずこんなことを言う。 「私が大卒なので、お相手も大卒限定です」 「男性が大卒じゃないと、親も結婚話をしたときにいい顔をしないと思うんです」 「年収は私よりも高い人がいいです。そうじゃないと尊敬できないから」 聡子にお相手の年収について尋ねると、今度はこんな言葉が返って来た。 「私は、結婚しても仕事を続けたいんです。働くというのは社会とつながることでもあるので。2人が力を合わせて暮らしていければいいので、相手の年収に特別なこだわりはありません」
この言葉を聞いたときも、しっかりとしたご両親に、愛情をかけて育てられたのだろうと感じた。
聡子は、都内の企業で男性と肩を並べて仕事をし、弟はマスコミの第一線で活躍をしているというのも、うなずけた。 こうして、聡子の婚活がスタートした。
しかし、婚活者なら誰もが経験済みだと思うが、そう簡単に相手が見つかるものではない。出会いには運もあるので、なかには初めてのお見合い相手と結婚してしまう人もいるし、3人目や5人目の相手と早々と結婚を決めて成婚退会していく会員もいる。
聡子は、お見合いをして交際には入るのだが、そこから「結婚に進みたい」と思える相手には、なかなか出会えずにいた。
あるとき、夏の休暇を利用し帰省をし、そこから戻ってきた聡子と面談をした。都内のティールームで会ったのだが、彼女の表情がいつになく寂しそうだった。 「ご実家で、久しぶりにゆっくりできた?」と聞いた私に、聡子が言った。 「
父が末期のがんなんです。帰るたびにやせ細っていく。毎日顔を合わせていたら、そう感じないのでしょうが、数カ月おいて会うから、弱っていく様子がわかって痛々しい。そんな父を見ると泣きそうになってしまうんです。無理にでも笑って元気な姿を見せなきゃと、毎回思うんですが、私がヘタレなんで、困ったものです」
さらにこう続けた。 「弟は、結婚してお嫁さんを父に見せることができた。両親も新しい家庭を築いた弟には安心していると思うんですね。心配の種は、私。父が生きているうちに、ウェディングドレス姿を見せたかったけれど、今の婚活状況だと無理かもしれない……」 「まだ、諦めるのは早いわよ」 「そうですね。でも、もしいよいよ危ないとなったら、写真館で、ウェディングドレスを着た私1人の写真を撮ろうかなとも思っているんですよ。『お父さん、こんなに大きくしてくれてありがとう』って」
■なぜ婚活が停滞してしまうのか この話を聞いて、私は切なくなった。仲人が、確実に結婚できる相手を明日彼女の前に連れて来れるわけではない。ご縁を結ぶ手助けはできるけれど、お見合いした相手とその後の成り行きは、2人の問題だ。
「ソロのウェディングドレス写真も記念になるかもしれないわね。聡子さんは、スラっとしたスリムな美人さんだし、きっとどんなドレスを着ても似合うと思いますよ」 そのときは、そんなことを話して、面談を終えた。
その後も、数人とお見合いしたが、交際に入っても数回会うと、“交際終了”になっていた。婚活が停滞していたので、一度リモートで面談をしたことがあった。 彼女のリモート画面の背景に、おしゃれな棚が見えたので、余談で、「すてきな棚ね」と言うと、彼女がこんなことを言った。 「私の手作りなんです。大工の娘なので、こういうのを作るのが好きなんですよ。そこは父の血を引いたのかもしれません」
この言葉を聞いたときも、きっと父親のような男性を結婚相手に求めているのだろうと感じた。もしかしたら、学歴や年収と言った条件にこだわらなくても、尊敬している父がすばらしすぎて、それが婚活のハードルを上げているのかもしれない、とも思った。
■幸せな結婚とは、どんな結婚なのか その父が亡くなった。それを報告をしてきた聡子のLINEには、こんなことも書かれていた。
「穏やかな最期でした。私と母が父の手を握り、仕事で帰省できなかった弟は、義妹と一緒にリモート画面でつがなり、家族全員で父を見送りました。今はリモートでどこにいてもつながれる、本当に便利な時代ですよね。 父が亡くなって母も気落ちしていましたが、コロナのこともあり、会社が帰省したまま仕事を続けされてくれたので、母娘の2人で年越しをしました」
聡子を通して、私は仲人として、結婚することと家族のあり方を改めて考えさせられた。
コロナになり、孤独を感じて“結婚”を意識した独身者も多いと聞くが、逆に夫婦がずっと一緒にいる時間がストレスとなり、夫婦関係が悪化して、コロナ別居、コロナ離婚も増えたと言われている。
もう何年も前に、入会面談にきた女性はこんなことを言っていた。 「離婚して1年になります。私が彼との結婚を決めたのは、36歳のとき、相談所のお見合いでした。彼に決めたのは、大手企業の社員で、年収が高かったからです。
ところが、結婚してみたらとてもキレやすい人だった。仕事が忙しかったり、大きな企画を任されたりすると、それがプレッシャーになるのか、家でもピリピリしているのがわかるんです。
そんなときは、私が煎れたお茶の温度が熱かっただけで、突然キレる。キレると暴言が止まらないんです。『お茶もロクに煎れられないなんて、お前は脳ナシだな』とか。いったん暴言を吐くと、もう怒りがどんどん増幅されていって止まらない。『俺を怒らせるな。俺の稼ぎがあるから、お前は生活できているんだろうが』とか、『このバカ女が』とか。 私はフルタイムで働いていても、彼の3分の1以下の収入しかありませんでした。だから、お金を稼ぐ仕事をしている自分はつねに私よりも上という態度で接してくる人でした」
結局彼女は、つらい思いを吐き出してすっきりしたのか、「入会は、また改めてお返事します」と資料を持ち帰り、その後の連絡は一切なかった。 また、こんな女性もいた。
彼女は2人姉妹で、そろって難関の有名私大を卒業していた。さらに父と母は日本最高峰の国立大の卒業生だった。
そんな彼女が、入会面談のときに言った。 「お相手は、私の卒業大学以上の大卒の方を希望します。これまでそういう男性としかお付き合いをしてきませんでしたし、そういう方でないと、ウチの家族の中に入ったときに窮屈な思いをする。お相手の方も居心地が悪いと思うんですよ」
さらに相手の希望年齢を自分よりもプラスマイナス3歳としていたので、なかなかお見合いが組めず、5人くらいお見合いをしたものの、「ここには、私が結婚したいと思う男性はいませんでした」と、退会していった。
結婚相手とは、残りの人生を一緒に歩いていくことになる。生活するためにはお金が必要なのだから、相手に高い年収を求めたくなる気持ちはわかる。
また高学歴の人たちは、学生時代にたくさんの努力をしたからこそ、その学歴を得たわけで、それを誇るのは当然だろう。
また、自分が高学歴者なのだから、相手にそれ以上の学歴を求めたとしても、それは他人から非難されるべきことではない。
■条件ばかりに固執して幸せになれるのだろうか どんな相手と結婚したいか、実際に結婚するかは、個人が決めることだ。
理想が高く、その理想にかなう相手がいなかったら、一生独身で過ごす。それもまた個人の選択だ。
しかし、結婚相手を選ぶときに条件にばかりに固執したところで、本当にそれが幸せにつながっていくのだろうか。
中学を卒業し、自分の腕で職人気質の仕事をし、お金を稼ぎ、年上の妻をめとり、2人の子どもを育て上げた。最期は妻と愛娘に手を握られ、リモートで息子とその嫁に見守られて人生を終えていく。
聡子の父は、がんには勝てなかったが、きっと幸せな人生だったのではないか。
コロナ禍において、結婚や家族のあり方が見直されている。婚活者たちは、どんな結婚をしたら幸せになれるのか、もう一度考えてみてほしい。