55歳というのは微妙な年齢だ。企業の役員の席が狙えそうな人は別だが、大半の人は定年が視野に入る。
とはいえ、その後をどう生きていくか決めている人は少ないのでは?
なぜ「55歳から」が大事なのか。精神科医の保坂隆さん(68)はこう指摘する。
「女性の更年期と同様に、男性にも退行期・衰退期のようなものがやってくる。40代ぐらいまでは気力も体力もあってバリバリ働けますが、55歳ぐらいで体力的な喪失体験をします。自分の今の体力で何ができるかを考えて生きるのが大事です」
なかには、「俺はまだまだ若いやつには負けない」とスポーツクラブに通い始めるなどして年老いていくことを認めず、老いた自分の次のステージのことを考えずに生きる人もいる。
それは要注意という。
「年老いていくことを否認するための行動だとしたら、それはそんなに長くは続きません。それは単なる『躁(そう)的防衛』の一つです」(保坂さん) 躁的防衛とは、本来ならば喪失感を感じて鬱々(うつうつ)するようなときにそれを否認して、明るくふるまうことだ。
「55歳からの過ごし方が鍵になるんです。考え方・生き方を変えなければいけないターニングポイントなのです。その切り替えがうまくできる人は60歳以降も充実するでしょう」
保坂さん自身、57歳が転機となっている。某大学医学部の教授職から、聖路加国際病院に移り、がん患者向けの精神腫瘍(しゅよう)科を新設した。
死にゆく人の心に寄り添うため、「死生観」を学ぼうと、59歳で高野山大学の通信制に入学。
そこで得た知識と体験は、臨床の現場で生かされているという。2017年に定年退職したのを機に、がん患者と家族の心のケアをするクリニックを開業した。 「僕の50代はものすごく意味があると思っています」(同)
アンチエイジング関連の著書がある、北里大学名誉教授の塩谷信幸さん(88)は、経済的な準備に加え、心の準備もしっかりしておくことが必要だという。
年齢を重ねると、仕事も居場所も役割も減る上に、今はコロナ禍。 「人々の生活スタイルや物事のとらえ方、感じ方は変わってゆく。それは決して元には戻らないでしょう」 とはいえ、塩谷さんはそれをマイナスとは捉えていないようだ。
「テレワークなどは、高齢者にとっても働く場が広がるわけです。新しい仕事やライフスタイルをそれぞれが作っていくことになるのだと感じています