投資をこれから始めようと考えている初心者の方々に申し上げたいのは、「投資をするときには、ゴルフのようなハンディ・キャップ」はもらえないということである。
金融機関が「初心者向け金融商品」などと称して色々な商品を売り出すが、そのような商品に手を出すことは、「カモ化」の第1歩である。
バフェットが好むシニカルなジョークに次のようなものがある。
「30分ポーカーをして、誰がカモかわからなければあなた自身がカモである」
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このジョークを言いかえれば、
「何日間か投資をしてみて、誰がカモかわからなければあなた自身がカモである」
となる。
例えば、ポーカーゲームをやっている部屋に入って、全くの他人を前にして「私初心者なんですけど、よろしくお願いいたします」などとあいさつしたら、テーブルに座っている人びとの目がきらりと光って、後はどうなるか想像がつく。ポーカーを麻雀に置き換えてもいいだろう。
金融機関も、前述のポーカーテーブルに座っている人びとと同じく赤の他人で、友達でも家族でもない。金融機関の体質がどのようなものか……郵便事業の「かんぽ生命」における騒動を見るだけでもすぐにわかる。私の長年の金融機関における経験から言えば、この事件は、氷山の一角にしか過ぎない。
統計的な観点で言えば、プロフェッショナルと呼ばれるファンド・マネージャーなどの運用成績は市場平均を下回っている(つまりサルに任せるか、サイコロを振った方がまし)し、一般の投資家も、国債利回りを基準に考えれば、ほとんどがそれを下回っている。
つまり、いくら金利が低いと言っても、やみくもに投資をするよりは国債を買った方がましだということだ。
そもそも、政府や金融業界がこぞって「貯蓄から投資へ」と叫んでいること自体が胡散臭くないだろうか?
バフェットは証券マンとしては失敗した
もちろん、犯罪行為に手を染める金融機関ばかりではないが、そもそも金融機関と投資家の利害は真っ向から対立する。
金融機関というのは、市場から利益を得るのではなく、投資家(顧客)から利益を得る(一部の自己勘定投資は除く)。
要するに手数料商売だから、「売ってしまえば勝ち」なのである。生命保険をはじめとしてよく商品の乗り換えを勧められるのは、契約を継続していても大した手数料が入らないが、乗り換えてもらい新規の商品を売り込めば大きな手数料収入が見込めるからである。
このようなシステムでは、バフェットのいう「しけもく投資家(日雇い投資家、デイトレーダー)」のように、頻繁に売買を繰り返す人々が上得意だ。
滅多に売買をしないで着実に資産を増やす投資家は金融機関から忌み嫌われるし、実際今でもウォールストリートの金融機関は、バフェットをほぼ無視している。
バフェットが若いころ、証券会社の営業マンをしていた時期があったのだが、バフェットの勧める銘柄は、どれもどんどん株価が上がり、ただ保有しているだけでかなり儲かった。したがって、いつまでたっても次の株式の買い注文を顧客からもらえず、証券営業の成績はさんざんであったため、まもなくこの仕事はやめてしまった。
投資は経営やビジネスと同じだ
何もしなければ損をしない。これは、バフェットが「とことん熟慮したうえで投資を行う」というスタンスの基礎ともなっている。
また、こんなことも言っている。
1. 絶対損をしないこと
2. 1を忘れないこと
もちろん、バフェットは「投資は危険だからやめなさい」と言っているのではない。「十分な勉強をしないのであれば、カモにされるだけだから、投資をしない方が良い」ということなのだ。
当たり前だが、ハンドルを握ったことがない無免許の人間が、いきなり高速道路で運転すれば事故になるのは当然である。そのような馬鹿げた行為を行う人間はまずいないであろう。
しかし、投資の世界というの、道路のようにはっきりと目に見えないから、どこが田舎道か、どこが高速道路かは、じっくりと勉強しなければわからない。
だから、十分な勉強をせずに、いきなり(目に見えない)高速道路に跳びだして「事故」に合う人々が多いのは、悲しいことだ。
職業柄、パーティーの席などで「何かいい投資先はないですか?」と聞かれることも多いが、その時には、こんな風に答えることにしている。
経営者には、
「例えば、誰かがあなたの会社が繁盛しているのをみて、『私にも社長の10分の1でいいから、即席で会社を繁盛させる方法を教えてくださいよ』」
ビジネスマンには、
「大学生の後輩が、就職の相談にやってきて『先輩みたいに高給取りで、かっこいい仕事』を、あんまり努力しないで手軽にゲットできるノウハウを教えてくださいよ」
と言われたらどうしますか?という逆の質問を投げかけるのだ。
最も多いのは「顔を洗って出直して来い」というたぐいの返答である。
経営もビジネスも「成功」の陰には血のにじむ努力がある。確かに、思い付きで始めた会社が一時的に成功したり、何も考えないで入社した企業が急成長することがないというわけではないが、「待ちぼうけ」の逸話のように「ウサギが切り株で頭を打つ」のを待っていても仕方があるまい。
バフェットはまず勉強する
投資にハンディ・キャップはないということはすでに述べたが、我々がハンディ・キャップ無しで対峙しなければならない相手には、当然投資の神様・ウォーレンバフェットも含まれる。この事実は決して忘れてはいけない。
バフェットの典型的な1日は次のとおりだ。
1. 朝起きると、ウォールストリート・ジャーナルはじめ、主要紙すべてに目を通す。
2. 朝食にチェリー・コーク片手にハムサンドを食べた後、数社の決算資料をじっくりと昼まで読み込む
3. ランチにチェリー・コークを飲みながらステーキを食べた後、書斎にうずたかく積まれた投資関連書の読書にいそしむ。
4. 夕食でチェリー・コークとステーキを楽しんだ後は自由時間
ハムサンドは1ヵ月間毎日食べても飽きないそうだし、野菜はほとんど食べず肉ばかり。さらには、チェリー・コークの本数は1日当たり2ケタにおよぶと思われ、あらゆる健康法に逆らって、今年90歳を迎えるのは驚きだ。
ちなみに、チェリー・コークはバフェットのおかげで米国では有名で今でも販売されているが、日本では見かけたことがない……
しかし、もっと驚くのはその勉強量だ。まるで受験生の1日のような生活を半世紀以上続けている。恥ずかしながら、執筆の仕事も行っている私の勉強量はバフェットには到底及ばない……
このような生活を半世紀以上も続けてきた投資の神様と、初心者はハンディ・キャップなしで対峙しなければならないのである。
バフェットは、「本気で勉強する気がない人々は投資をすべきではない」と述べているが、バフェットの意味する「本気の勉強」とは、どのようなものか想像がつくだろう。
バフェットは、個別企業の分析も行うが、本当に力を入れているのは「業界研究」である。
個別企業の業績は、結局<競合他社との間に、バフェットが言うところの『堀(絶対的な競争優位)』を築くことができるかどうか>で決まるから、業界の状況を知ることは必要不可欠なのだ。
また、バフェットの銘柄発掘は、まず有望な業界(ビジネスモデル)を見極めて、その中で圧倒的な競争優位を持つ企業がないか探すという手法で行われることが多い。
1つの業界を勉強するのには、当然相当な勉強が必要だが、バフェットがそれぞれの業界に持つ知識は、専門の業界アナリストも舌を巻くほど深い。
勉強する時間がない人は
2018年9月10日の記事「投資の神様バフェットが『投信を買ってはいけない』と忠告する理由」で述べた様に、バフェットは「勉強する時間をとることができない」投資家にも助け船を出している。それは、「手数料の安いインデックス・ファンド」を買うことである。
バフェットからの手紙の中で、米国の建国以来の発展とこれからの明るい未来について頻繁に語っているが、その「米国そのものを買う」戦略である。
まず、代表的な指数S&P500に投資するファンドであれば、サル並みのファンド・マネージャーの運用性成績に一喜一憂する必要はない。しかもバカ高いファンド・マネージャーの給料を節約できる分だけ、手数料も安くできる。
さらに、長期的に米国が発展するのであれば、ほとんど何も勉強しなくても、市場の株価上昇の恩恵を受けることができる。
また、日本に関しても、2018年10月6日の記事「今後4半世紀の間に日経平均株価は10万円に達することができる」で述べた様に、今後少なくとも4半世紀の間は同じことを述べることができるし、紆余曲折がありながらも、日本の来世紀に至るまでの発展は約束されていると考えている。
例えば、貯蓄には預金保険もついていて安心だが、インフレには弱い。デフレの元凶である中国崩壊(2月12日の記事「中国・習近平が恐れている、武漢肺炎とSARSの『大きな違い』」参照)などの事件があれば、長年のデフレから脱出してインフレになるかもしれない。
インフレに対応できるインデックス・ファンドを保有するのも悪くない選択である。