2018年問題――。ひところ、不動産業界にはこんな懸念があった。2018年以降、東京都心の大規模再開発が一気に竣工を迎え、大量のオフィスビルが供給されることで、空室が急増するというシナリオだ。
ところが、ふたを開けてみると2018年に竣工したビルはあっという間に満床となり、デベロッパー各社からは「貸す床がない」と嬉しい悲鳴が聞こえてくる。新築ビルだけでなく、既存ビルからテナントが退去して生じた空室(2次空室)についても、「同じビルのテナントの増床で埋まってしまう。空室がないビルにも『いつ空くのか』と問い合わせが来る」(三井不動産の森俊彦・ビルディング本部営業企画グループ長)。もはや床争奪戦の様相だ。
オフィス仲介会社の47(よんなな)の阿久根聡・代表取締役も、「以前は顧客の要望を聞いてオフィスを10室ほど紹介していたが、今は空室の有無を真っ先に聞かれる。エリアや賃料など細かい要望は二の次になっている」と語る。6月24日発売の『週刊東洋経済』は、「沸騰! 再開発バトル」を特集した。
■移転・増床ブームが到来
この数年でオフィス市況は様変わりした。リーマンショック直後は空室率が10%近くにまで悪化し、「空室を埋めるのが最優先で、賃料をお互いに叩きあっていた」(大手デベロッパー)。だがその後の景気回復に伴ってオフィス市況も上向き、「2~3年前から需給が逼迫してきた。空室が出ても館内増床やグループ会社の入居などで埋まり、仲介業者にリーシングを依頼することは少なくなった」(NTT都市開発の服部克士・開発本部開発戦略部長)。
企業がオフィスを移転・増床するのは、業容・人員拡大、立地改善のためという理由が多い。CRM(顧客情報管理)や営業支援ツールで大手のセールスフォース・ドットコムは4月、日本法人の人員を現状の1500人から24年までに3500人規模にすると発表。現在入居する東京駅前のJPタワーから、日本生命 丸ノ内ガーデンタワーへ本社を移転する。現状の約3倍、9000坪超のオフィスエリアを丸ごと1社で借りる予定だ。
再開発による大型ビルの供給によって本社を移転した企業もある。セガサミーホールディングスは昨年8月、都内に散らばっていたグループ各社を大崎駅前の住友不動産大崎ガーデンタワーに集約。グループ計20社・従業員約6500人の大企業が、地上24階・延べ床面積5・3万坪の大型ビルにすっぽり収まった。ユニー・ファミリーマートホールディングスも今年2月、池袋のサンシャイン60から田町駅前に建つmsb Tamachi 田町ステーションタワーSへ本社を移転した。「移転によって各職場が近くなり、社内での移動やコミュニケーションがより容易になった」(同社)。
「人材確保のためには、魅力的なオフィスを提供する必要がある」(米不動産サービス大手JLLの大東雄人アソシエイトディレクター)。今やオフィスは企業の成長に欠かせない投資となっている。
ウィーワークをはじめとするシェアオフィスの急増も、オフィス逼迫の一因になっている。オフィス仲介会社のビルディング企画の古川徹・取締役営業部本部長は、「テレワーク(在宅勤務)の普及でオフィスは小さくなるはずだった。ところが、自宅でもオフィスでもないシェアオフィスで働くニーズが生まれ、新たな床面積の需要が生まれた」と語る。
ザイマックス不動産総合研究所の調査では、1人当たりのオフィス面積は2011年の4坪から2018年には3.85坪へ減少。一方、多くのフロアやビル1棟を丸ごと借りるシェアオフィスが普及したことで、オフィス不足が加速している。
■空室無さすぎもよくない
デベロッパーにとって満室稼働はうれしい反面、テナントニーズを取りこぼすこともある。「空室がなさすぎると、テナントの館内増床ニーズに対応できず、ほかのビルに移られてしまうことがある。ビル内に多少の空室があるほうが望ましい場合もある」(三菱地所の相澤浩之・ビル営業部統括)。
活況を呈するオフィス市況だが、エリアによって濃淡がある。晴海やお台場といった湾岸エリアは賃料が月坪2万円台と一見割安に映るが、引き合いはそれほど強くないという。オフィス仲介・空間プランニングを行うヒトカラメディアの野田賀一・企画開発部リーダーは、「都心から外れているため、従業員の交通費で賃料の安さが相殺されてしまう。災害時に交通が寸断されると、従業員が孤立するリスクもある」と指摘する。「(湾岸エリアは)賃料を安く抑えたい企業のニーズを何とか拾っている印象だ」(住友不動産の山下竜弥・ビル事業本部ビル営業部長)。
賃料上昇もリーマンショック以前に比べると緩やかだ。JLLによれば、東京のグレードAオフィスビルの月坪賃料は、リーマンショック直前の2007年に約5万2000円を付けたが、足元では4万円弱だ。「リーマンショック以前は利回りから賃料を逆算した投機的な動きが目立った。今は実需に基づいた値付けのため、上昇は緩やかだ」(住友不動産の山下氏)。
東京五輪後の2021年や2022年に竣工するビルにも、続々とテナントが内定している。にぎわいが途絶えることはしばらくなさそうだ。