新業態「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」が大ブレークしたワークマン。集客の鍵を握るのはPB(プライベートブランド)商品だ。マーチャンダイザー(MD)が値付けから企画し、生産量や販売戦略まで一手に担う。商品の原価率は65%と高いものの、利益を確実に出し続けるワークマンの商品戦略の秘訣を追った。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)
● ワークマンプラスは広告塔のつもりだった
「今までは作業服屋さんだったので、ワークマンプラスは『もっとみなさんが使える商品があるんですよ』と広げるための広告塔のつもりだった。まさかこんなに当たるとは……」
こう振り返るのは作業服大手、ワークマンの小濱英之社長である。
アパレル業界で苦戦を強いられる企業が多いなか、ワークマンの新業態「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」が大ブレーク中だ。ワークマンプラスの1号店は、2018年9月にららぽーと立川立飛(東京・立川市)にオープン。開店初日からレジに行列ができ、商品を買いたい客は立川にある既存の「ワークマン」店舗に流れたほどだ。
「職人の店」をうたうワークマンと異なり、ワークマンプラスは「高機能と低価格のアウトドア・スポーツ・レインウェアの専門店」と銘打った業態だ。プロ向け仕様の高機能・高コストパフォーマンスを売りにしたPB商品を、一般の人でも入りやすいような店舗で買えるようにした。今までワークマンに行ったことがなかった客が足を運んでいることがヒットの要因だ。
「ランニングを始めたいと考えたときに、スポーツブランドで服を買いそろえると高くて手が出ない。本格的に始める前に、気軽に買いそろえられる価格帯がワークマンのPB。『初めはワークマンでいいかな』と思わせる、それが狙いです」。ワークマン商品部・チーフデザインオフィサーの北村武士はこう語る。
ワークマンの強みは、プロが購入するような高品質な商品を低価格で提供することだ。安さを実現するためには秘訣がある。
まず、一般的なアパレルでは、市場調査から企画、製造、発注、店舗への納入まで基本的にそれぞれの部門が縦割りで管理する。しかし、ワークマンの場合、市場調査から客の手に届くまで、北村さんを含め社内に4人しかいない商品部のMDがすべての商品の動向を掌握する。
例えば、一つの手袋を作るのに、どんな商品をいくらで売るかを決め、どの工場でいつ生産し、いつどこでどのくらい売るかまで、MDがすべて決定し、各部門に指示して製品化している。MDは、いわばワークマンの商品づくりの「指揮者」である。彼らには絶対的な権限があるため、売れると思えばPB商品の新規立ち上げも最短3カ月で商品化までやってのける。意思決定が非常に早く、一気通貫での商品づくりができるため、タイムリーに商品を売ることができるのだ。現在、全売上高の約3割は北村さんが責任を担っている。
● 事前に設定した売価は“絶対基準”、超える物は作らない
ワークマンのMDが何よりこだわるのは値付けである。市場調査を徹底した結果、設定した売価を“絶対基準”とし、その売価を超えるものは作らない。また、想定より原価が抑えられるものなら設定売価を下回る価格で販売する。
一例をあげよう。今シーズンヒットしているワークマンのPBブランド「Field Core」の「汚れが落ちやすい耐久撥水半袖ポロシャツ」。ケチャップが表面をつるりと滑っていくとテレビで話題になった。これだけの機能を備えた商品でも、売価はたったの980円だ。
加盟店からは「1980円でも売れるのに」という声が上がったが、これは当初の値付けが980円であり、企画した北村さんはそこを曲げなかった。「1980円で売れるとしても、ヒットを出すには980円でないといけない。そこで1980円で売ってはいけないのです」と語った北村さんは、こう続けた。
「商品は値付けで決まります。『製造コストがかさんだから価格に転嫁する』なんてありえません。そんな商品なら出さない」
一般的なアパレル企業の場合、商品の原価率は2~3割程度だ。できるだけ安く作り、宣伝をして高く売る。在庫が出ればセールを行い、それでもだめなら廃棄するというビジネスモデルである。だがワークマンの原価率は65%と、アパレル業界の平均値よりずっと高い。それでも利益を出せる仕組みができているからだ。
高い原価率にもかかわらず、利益をあげられるワークマンの商品の鉄則は大きく3つある。
1つ目は、独自開拓した中国や東南アジアなど海外工場との直接取引だ。さらに商品製造にあたり、価格交渉をしている。2010年にPBを立ち上げた際、社内で立ち上げた「海外商品部」が中国や東南アジアなどの工場に自ら足を運び、取引先を広げた。発足当時の海外商品部の部長は、今年4月に社長に就任した小濱英之氏である。また、たとえ製造の品質が安定したとしても、毎回複数の工場から見積もりを取る。長い付き合いになっても、値上げを要求してくるようならば平気で切り替えるという価格へのシビアさがワークマン流だ。
2つ目は、広告宣伝費を最低限に抑えている点だ。アパレルの原価に占める広告宣伝費の割合は3%前後といわれている。例えばファーストリテイリングの売上総収入に占める広告宣伝費率は3.3%(2018年12月期)だが、ワークマンは0.4%(19年3月期・営業総収入に占める割合)と低い。また、贈答や接待も禁止で、社員は社外の人と飲みに行くことすらしない徹底ぶりだ。こうした一つひとつの出費が積み上げれば、商品の原価を引き上げてしまうからである。
3つ目は、アパレル業界で当たり前の、セールをやらないことだ。作業服などの職人向けの服は流行り廃りがない。そのため、商品を廃棄せずとも、売れ残りは翌年また販売できる。このため在庫処分のためのセールをする必要がない。常時、定価で売ることが前提になるため、初めから売価を低く設定しても利益を確保できる。売価設定から商品づくりをスタートするのは、こうしたビジネスモデルが構築できているからなのである。
1982年に群馬に地盤を持つスーパーマーケットチェーン・いせや(現ベイシア)の衣料部門から独立して創業して以来、ワークマンは「職人の店」として建設現場の作業員など職人向けの衣類を中心に、売り上げを伸ばしてきた。PB商品を始めたきっかけは、09年のリーマンショックだ。景気の落ち込みによる買い控えに加えて、設備投資の急激な冷え込みで、建設業などワークマンの得意客たちの現場そのものがなくなってしまったのだ。
ブルーカラーの労働者は年々減少傾向にあることもあり、危機感を募らせた経営陣は2010年にPB商品の開発を決めた。ワークマンプラスの立ち上げは、ブルーカラー減少への対応という、その延長線上にある。現在、売り上げに占めるPB商品の割合は4割に到達。かつての決断が今に生きている。
● 低価格にこだわり 今秋の消費増税は価格据え置き
低価格へのこだわりは、前回の消費増税の時に痛い目を見た経験の反省があるからだ。「消費税が8%に上がった際、980円の商品を一気に1280円に値上げした。すると、売り上げが4割下がった。価格を元に戻したが、売り上げを立て直すのにもさらに苦労した」(北村さん)と振り返る。これに懲りたこともあり、今秋の消費増税時は価格を据え置く方針を掲げる。
商品を作るときも、流行を追って大ヒット商品を狙うような作り方はしない。前年の売れ筋を元に、3万着などの小ロットでPB商品を作り、ヒットすれば、翌年30万着、100万着といった単位で大量に生産する。
物流や原料などコストの上昇という課題は常に付きまとう。消費マインドの減退も悩みの種だ。それでも、すでにプロ向けに作っているPB商品の用途を広げていく仕掛けで、まだまだ需要の拡大は望める。例えば、レインウェアの製品群である「AEGIS(イージス)」というPBブランドは、バイク乗りや自転車乗りの間で人気が出た。そのため、絞った顧客層向けに機能を付け加えて進化させてきた経緯がある。既存商品をスポーツ向けにずらして売るというように、同じものを少しずつ進化させるのがワークマンのヒットの秘訣だ。
「100万着売れる商品を一つ作るより、10万着売れる商品を10個作ることを目指しています。小さいヒットの積み重ね。ホームランは狙わない」(北村さん)
堅実にニーズをとらえて商品開発を続けたことが、今の好調ぶりにつながっている。