【プロローグ】













ある日、とてつもなく情熱的で偶然的な出逢いがあり、僕達ファミリーは何故か子猫を迎えることになってしまいました。


それは偶然ではありましたが、必然とも言える巷でよく聞く『運命の出逢い』でもありました。


もちろん生まれてこの方、猫なんて動物は飼ったこともないし、猫とさほど接したこともありません。猫の気持ちなんて考えたこともない僕の心は、猫の手も借りたい想いが粉雪のように降り積もっていました。


だから僕は自然と粉雪で戯れる小柳ゆきの姿を想像したりしていました。












けれどもそんな僕らを余所に、子猫は風邪を引いてしまったらしく、直ぐには僕らのアジトへはやって来ませんでした。




その猫は夏目漱石的に言えば、『名前もまだ無い』子猫でした。



僕達ファミリーは子猫を迎え入れる為の準備を整えると共に、猫として恥ずかしくないような立派な名前を考えなければなりませんでした。


優しく健やかに育つように誰からも愛されるような名前を付けなければなりませんでした。


だから僕は猫の名前を産み出す為に、猫の名前を想像妊娠しなければなりませんでした。












想像妊娠を始めて初期の頃は悪阻が酷くて、僕は自分の名前を呼ばれる度に、何度も何度も応答を繰り返していました。


酸っぱいものが好きになったり、胸が張ってきたり体調の変化なども如実に表れました。


それから猫の親としての自覚を持つ為に、猫の育て方の本や猫に関する学術的な書物や猫に関するあらゆる文献などをWEBから吸収しました。


学習机に向かって、サイドギャザーが嬉しい夜専用のあいつで吸収していきました。



子猫の名付けの親として1週間が過ぎましたが、まだ風邪を引いているらしく、子猫を連れて帰ることが出来ませんでした。



僕はこの事態を解消するためには、早急に猫の名前を出産して、戸籍謄本へ書き記す必要があると感じました。


けれども焦りは禁物だとも思いました。焦りは僕の想像妊娠にとって大変危険ですし、切迫早産の可能性だって否めません。


僕は可能性と必要性の狭間で、バンズに挟まれたビーフハンバーグの気持ちになっていました。















切迫早産して死んでしまう可能性も否定できない状態で、僕はまな板の上の鯉のように分娩台の上にゆっくりと寝そべりました。


それから僕はひとり、猫なで声でゆっくりと子猫の名前を探し始めるのでした。











to be continued・・・