奥に見える白いコンクリートの橋までは氷川フィッシングセンターの敷地です。
ここまで来ると先程のファミリーやカップル達が楽しそうに釣りをしている喧騒はもう聞こえてきません。


ウェーダーを着たまま転倒すると水がウェーダーに入ってしまい起き上がれなくなって、最悪の場合には溺れて宇宙の星のひとつになってしまうのです。
僕はウェーダーの中に装着したお守り代わりの『ロリエ』のことを考えて、「大丈夫!多い日でも大丈夫・・・超吸収・・ロリエ・・ロリロリ❤」と自分に言い聞かせました。

こんな日の高くなってしまった時間からの釣りでは、先行者に叩かれた後ですし魚の活性は低いので、はっきり言って釣果など望めません。
ルアーでやれば1匹くらいは釣る自信はありますが、フライは初心者の域を出ていないのでなかなか思ったところへのキャストもままなりません。
ましてや最後のひとつしかないニンフ(幼虫)を根掛かりで無くしてしまったので、もう釣れることはないでしょう。

それでもキャスティングやフライの流し方やメインディングの方法を実践形式で練習出来るのでとても勉強になります。

またどうすれば安全に沢を渡れるかの渡航技術や、『ロリエ』は夜用が良いかとか、結構危ないサイドギャザーギリギリの場面なども体験しました。
幾重にも折り重なった新緑の襞から光芒混じりの木洩れ日が射し込み、心地良い春風と共に枯葉がヒラヒラと輝きを放ちながら落ちてきました。
新緑の桜吹雪のような景色が渓流のせせらぎと共に周囲を支配していました。

暫く釣り進んでいって、僕の技術ではこの先に進むことは出来そうにないけど、無理すれば行けなくもないという地点まで差し掛かりました。
暫くして渓流竿を持った全身ロリエに包まれた釣り師のベテランがやって来ました。
簡単に挨拶を交わして、お互いに釣れてないことや幸せ素肌感などを報告し合いました。
それから僕は然り気無く道を譲り、このベテランのロリエがどのルートを通って、一体どのように渡航するのかを見届けてやろうと思いました。
このベテランは大きな岩をぴょんぴょんと飛び越えながらこちらの直ぐ近くまできました。
なかなかの身のこなし方に期待が高まります。
ベテランはベテランのように上流の方を眺めて、それからベテランのように少し考え込んでから来た道をまるでベテランのように戻っていきました。

とても残念な気持ちになりながら、何故か僕はソフィのボディフィットを左手に握り締めていました。
結局、残された僕もこの先へ進むことはあきらめて、引き返すことにしました。
to be continued・・・・







