次の日の奥多摩の朝は朝露の煌めく、新緑の木洩れ日に包まれていました。

夜中に何度か目が醒めてしまい、結局テントから出たのは7時過ぎでした。
キャンプ場の前の川を見ると人が沢山いて、竿掛けに渓流竿を立て掛けている不思議な光景が広がっていました。
僕は一体何を狙っているのかと思い、近付いて話し掛けてみました。
すると本日はニジマスとイワナとヤマメの放流日とのことで、釣り場を確保しているとのことでした。
何か鯉の吸い込み釣りみたいなよく分からないことしているのは、ただ釣り座を確保しているだけでした。
それにしても今日が放流日だったとはと思いながら、取り敢えずテントに戻って朝食を取ることにしました。

マフィンを焼いてベーコンエッグを作りました。
けれども卵は勢い余って黄身が割れてしまい、僕はやるせない気持ちになってしまいました。

完全に出遅れましたが、折角なので釣りの用意をしてウェーダーを着込んで少しだけ竿を出してみることにしました。

状況が良く分からないので、フライは視認性の良い赤いジードみたいな髪型がお洒落なパラシュートを装着しました。

放流があった場所には人だかりが出来ていましたが、少し離れると空いているスペースがありました。

3#ラインの先のフライが、ポイント上に落とせる距離までウェーダーで水の中を進みました。

偏光グラスで渓流の流れの中を覗くと一匹だけ魚が確認できました。
ドライフライで水面を漂わせてみますが、全く見向きもしません。
「ほぉ~ら、お前たち?」
「赤い髪型がお洒落な美味しそうな餌がやって来たぞぉ~!?ほぉ~ら?食べちゃえ食べちゃえ!」
「ちぇ!おかしいな・・・」
全然、お魚さんは見向きもしません。
そう言えばこの時期はカゲロウやトビケラなどの川虫なんて飛んでないし、釣り方が間違えていることに暫くして気付きました。

カゲロウは別名『メイ・フライ』と呼ばれるように5月に成虫となって飛ぶ虫なのです。
この時期は未だ幼虫の段階で、水中で暮らしている状況なので沈むタイプのフライが正解なのです。
正解は分かっても見える魚はなかなか釣れません。直ぐに貴重なニンフ(幼虫)のフライを水中の石に引っ掻けてしまい無くしてしまいました。
この貴重なニンフ(幼虫)はふたつしか持ってきておらず、もうひとつのニンフを無くした時点で本日の釣りは実質的に修了となります。
更に不味いことにニンフを沈ませる為の小さな噛み潰し錘も手持ちがありません。
今回のもうひとつの目的は、上流付近の渓谷で入渓出来るポイントを探すことでした。
魚を放流して釣り堀状態のここで釣りをした方が確実に魚は釣れますが、早速テントを畳んで出発の準備を整えました。

ウェーダーの分だけ軽くなった20㎏程のザックを担いでキャンプ場を後にします。
運動不足の身体には堪えますし、良くこんな重い荷物を担いで表銀座縦走とかして馬鹿なんじゃないかと思いました。

いい加減いい大人なんだからもっとちゃんとしようと自分に何度も言い聞かせました。
キャンプ場から奥多摩駅へ続く道の交差点に黄色い横断旗が目につきましたが、旗を手に取りポーズをとるような子供染みたことなどしませんでした。
(が・・・我慢・・!ぷるぷる・・・)

すっかり日は高く昇り、今日も天気は良さそうです。

氷川フィッシングセンターで噛み潰し錘を買って、受付のおじさんに入渓出来る場所を尋ねてみました。
するとここからも入渓できるとのことだったので、簡単にアプローチの出来る氷川フィッシングセンターから入ることにしてみました。

河原へ降りる途中の階段には猫が大好物の魚を持ってきた釣り人かどうかを確認するように僕のことを眺めて、それから何事もなかったように視線をそらしました。

僕は仕方がなく昨日食べた翻訳お刺身こんにゃくのことを思い出していました。
ニャメンナニャァァ~🐱
to be continued・・・