IPEの想像力 11/17/2025
中国政府は高市首相の国会答弁に強く反発しました。台湾有事に応じて日本が自衛隊を派遣する、という意味の説明を首相がしたからです。現状を変えるものではない、という政府の対応は不十分です。高市首相の発言の背後には、靖国参拝問題、台湾海峡問題、など、日中関係を悪化させる首相自身の政治信条があるからです。日本政府として歴史認識をどう示すか? 帝国主義戦争と戦犯や天皇との関係をどう理解しているのか? 発言が、中国、韓国と対峙する準備を欠いていたのなら、それは外交の失敗です。日本が侵略戦争に向かった当時の国内政治を反省した石破茂前首相の戦後80年談話を、真剣に受け止めるべきではなかったか。****Reviewをまとめながら、首相の姿勢とも関係ある、2つの論説を読みました。Simon Tisdall, "Does Trump truly care about Nigerian Christians? Of course not – he just knows faith sells,"The Guardian, Sun 9 Nov 2025「宗教感情の掌握と搾取を企む政治指導者による冷笑的試みは、人類社会と同じくらい古い歴史を持つ。4世紀のローマ皇帝コンスタンティヌスは改宗を通じて、台頭するキリスト教の勢力を吸収した。中世の教皇たちは、神権による統治を主張するヨーロッパの君主たちと戦った。トランプ氏と同様に自己崇拝的で女性蔑視的なイングランド国王ヘンリー8世は、独自の教会(英国国教会)を創設した。1946年まで、日本の神道の天皇は自らを生き神とみなしていた。サウード家はイスラム教の聖地を管轄することで権威を強めてきた。その振る舞いを見れば、高齢のイラン最高指導者はアッラーと直結しているに違いない。」"Yuval Noah Harari: Only generosity can secure peace between Israelis and Palestinians,"FT November 8, 2025「イスラエル人とパレスチナ人が互いに戦わなければならない客観的な理由は存在しない。両民族はヨルダン川と地中海の間の同じ土地について領有権を主張しているが、実際にはその土地は、現在の住民全員が安全、繁栄、そして尊厳を持って暮らすのに十分な広さと豊かさを備えている。」「暴力と苦しみの連鎖を断ち切るには、人々が道徳的確信を捨て、現実的で寛大な解決策を支持する必要があります。こうした偽りで破壊的な道徳観念がどこから来るのかを理解するには、ヨルダン川と地中海の間の土地の長期的歴史、そしてイスラエル人、パレスチナ人、世界中の多くの人々が長きにわたり培ってきた歪んだ歴史観を振り返る必要があります。」****ドナルド・トランプの秩序破壊がアジアにも波及する中で、トランプ後の国際秩序、日本のアジア主義が問われていると思います。経済統合が深化するとき、各国の政治秩序はどうあるべきか?新しい冷戦ではなく、優れたガバナンスをめぐる非軍事的な影響力、秩序再編構想が、日中間で最大の焦点となる時代を、過去の反省を踏まえて、問題提起してはどうでしょうか。どちらが勝ち、どちらが負ける、と恐れ・憤ることは、双方の敗北です。自由貿易の見直し、高齢化やAIによる労働市場の革命、ワシントン・コンセンサスに代わる、「良い仕事」をアジアで創出する能力と、そのための制度構築を、日本が国境を越えて呼びかければ、中国も自信をもって応じると思います。Dani Rodrik, "What Even Is a ‘Good’ Job?"NYT Nov. 10, 2025Tim Besley and Andrés Velasco, "A New Economic Playbook for Policymakers,"PS Nov11, 2025