ワルサーP38の原型だったワルサーAPは撃鉄内蔵モデル | ジャック天野のガンダイジェスト

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スモールアームズ(小火器)に関するエッセイです。同じアメブロで書いていたブログを継続して、不定期で更新して行きます。

床井雅美氏の「ワルサー・ストーリー」(德閒文庫)によりますと、有名なワルサー(ヴァルター)P38、正確にはピストーレ38は、市販モデルのワルサーPP(Polizzei Pistole、警察用拳銃)をベースに、銃身を延長し、さらにPPの.380ACP弾のかわりにP08(いわゆるルガーP08)と同じ9mmパラベラム弾を使うMP-PPを試作したそうです。しかし、PPモデルは銃身固定式のシンプルブローバック方式だったため、9mmパラベラムの強いガス圧(腔圧)に耐えられずに、全面的に設計をやり直し、MPおよびAP(Armees Pistole、陸軍用拳銃)として、銃身が発射時にわずかに後退するショートリコイル式を採用した、という経緯になっているようです。私が調べたかぎりでは、PPロングバレルモデルというのはたしかに実在したようですが、MP-PPという9mmパラベラム弾のブローバック方式という過渡的な試作品のことはわかりませんでした。


しかし、MPおよびAP(ほとんど同じ外観です)はたしかに試作されたもので、とくにAPに関しては豊富な資料があります。外観はPPとはまったく違うもので、のちにP38となるHP(Herres Pistole、軍用拳銃)と外観はかなり似ています。ただ、大きく異なる点は、ハンマー(撃鉄)内蔵式であり、後部がスライドカバーですっぽり覆われている点です。ちなみに、PPはラウンドハンマーが外部に露出していて、親指でコックして、トリガーをシングルアクションで引くことができました。つまり、APモデルは現在の主流であるDAO(ダブルアクションオンリー)の拳銃だったのです。しかし、国防軍(Wehrmacht)の要請によって、ハンマー露出タイプに返変えられ、これがHPモデルとなるのです。HPモデルは1937年に完成し、1938年にピストーレ38(P38)として制式拳銃となったのでした。


床井氏の前述の著書によりますと、APモデルは70~80挺しか試作されなかったとあります。つまり、実戦には使用されずに、試作の実験に使われただけだということでしょう。しかし、奇妙なことに、APモデルが連合軍に1945年に捕獲されているのです。どのような経緯で手に入ったのかはわかりませんが、スライドカバーのカール・ワルサー社の刻印や、そのほか製造番号などもすべて削り取られています。想像ですが、APモデルはベルサイユ条約を違反して作られたので、その存在を隠すために、刻印や製造番号が削り取られたのではないでしょうか。しかし、ワルサー社の有名なロゴや製造番号などが堂々と入っているAPモデルの写真も現存しているので、詳しいいきさつは不明です。


また、HPモデルか、P38の銃身を切り詰めたP38K(Kurz)というモデルがあり、ゲシュタポが愛用したとも言われていますが、この存在もはっきりしません。ただ、戦後、P38がP1としてリバイバルしたときに、短銃身にしたモデルは存在したようです。このように、P38をめぐる謎はまだいろいろとありそうです。



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