自衛隊がいまでも部分的に配備している名銃、六四式小銃 | ジャック天野のガンダイジェスト

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スモールアームズ(小火器)に関するエッセイです。同じアメブロで書いていたブログを継続して、不定期で更新して行きます。

いまでは5.56mm×45NATO弾使用のアサルトライフル、八九式自動小銃の配備が進んでいますが、いまなお陸上自衛隊をはじめ、海上保安庁や警察特殊部隊で使われているのが六四式小銃です。7.62mm×51のNATO規格準拠の弾薬を使いますが、反動を軽減して、フルオート射撃でも命中精度を高めるために、専用の弱装弾を使用する日本独自のバトルライフルが六四式です。精度を高めるために、銃口付近に二脚を装着しているのも、この自動小銃の独特な立ち位置がわかるでしょう。つまり、アメリカ軍特殊部隊がとくに興味を示しているFN SCAR-H 7.62mmNATOモデルと共通する万能性を求めた結果、完成したのが六四式小銃だったのです。つまり、基幹小銃として使われるほか、分隊支援火器としての側面も持つバトルライフルで、いまアメリカ軍が5.56mmNATOを見直して、ふたたび7.62mmNATOのアサルトライフルを採用しようとしている動きを先取りした、と言っても過言ではないのです。豊和工業と防衛庁技術本部が共同開発し、豊和工業で量産されているため、海外ではHowa Type 64と呼ばれますが、フルオートでの命中精度も含めて、高く評価されています。


戦後の保安隊、そして警察予備隊(自衛隊の前身)にはアメリカ軍供与のM1ガランド自動小銃やM1カービン、それに旧日本軍の九九式歩兵銃が装備されていました。これらの小銃は使う弾薬が異なっていて、また操作方式もすべて違い、発射の反動も異なっていて、熟練度を上げるにはむずかしい状況でした。とくに、九九式歩兵銃は旧態依然としたボルトアクションライフルでしたし、M1ガランドは.30-06弾という弾薬のガス圧が高くて、反動が強く、体格の小さな日本人向きではないと言われていました。M1カービンは.30カービンという専用の小型弾薬を使うために反動が小さく、フルオート射撃のできるM2カービンも取り扱いには問題がありませんでした。しかし、威力の面で劣っていたために基幹小銃としては力不足だったのです。そこで、アメリカを含めて、さまざまな自動小銃を参考に研究され、防衛庁技術本部にいた津野瀬光男氏を中心にしたチームが新しい自動小銃の研究にとりかかります。その開発過程は津野瀬氏の著書「幻の自動小銃」(かや書房、光文社NF文庫)に詳しいので、そちらを読んでいただきたいと思います。開発はR1というコードネームで呼ばれるものから、最終的にはR6となり、これを元に六四式小銃が生まれたのです。


いろいろな小銃を参考にしている過程で、アメリカ軍は7.62mm×51のNATO弾を使うスプリングフィールドM14を制式採用しますが、これはM1ガランドを7.62mmNATOに対応させ、弾倉着脱式にして、細部を改良したものだったのです。このため、やはり反動は強く、フルオート射撃では体格のよいアメリカ兵でも高い命中精度は期待できず、そのために5.56mm×45弾を使うM16(AR-15)に移行して行くのですが、津野瀬氏が移籍した豊和工業ではあくまでも7.62mm弾の威力にこだわりつつも、発射の反動を軽減するために機構にも工夫を凝らし、さらに弱装弾を採用することで、1964年に自衛隊に制式採用されました。現在ではまた全世界的に7.62mm弾が見直されているためもあり、自衛隊では部分的に依然として六四式小銃を配備しているのです。これは想像ですが、5.56mm×45NATO弾を使う八九式に全面的に置き換わるのではなく、六四式の後継小銃が開発されるのではないかとさえ思っています。



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