「こんなハードボイルドがあったのか、、」はこの映画の傑作コピーだが、クライマックスのリップバンウィンクルから前半が、犯罪に取り憑かれた男のピカレスクロマンと単純に考えると仮にして、後半に従って一気に狂って行く。その世界に迷わされながら、観る者は最後の最大の謎に包まれて、放心状態から解放されるのに、頭と身体に時間を要するのだ。

私は公開時から今に至るまで続いている。

列車から飛び降り廃墟に逃げ込んだ先は、明らかにセットで、独白する伊達=松田優作の1人芝居の様な舞台劇に吸い込まれ行く。

呆気無く相棒の鹿賀丈史を射殺し、天空を指差して我々は現実に舞い戻る。

そこにはスーツ姿で誰も居ないホールの席で眠る伊達が1人いるだけだ。

さっきまで迷彩色の戦闘服の伊達では無い。

まるで時間の壁を抜けて来たような、瞬間移動な感覚に陥ってしまう。

列車→廃墟→ホールに至る時間の壁。

そう果たして伊達は戦場から本当に引き返してきたのか。

戦場で死んで居たのかもしれない。では幽霊?

仮にといった前半で、佐藤慶を撃つ伊達は幽霊の如く現れ消える。しかも撃ったのが前からか後ろからか分からないが、伊達が現れるのは画面右からだ。

☜この映画の中で最もカッコいいシーンだ。撃たれる佐藤慶がね。

伊達が最後に見た陽炎の中で立ち尽くす室戸日出夫は幻のなのか。だって彼は列車で撃たれているではないか。これも幽霊か、、


賭博場や銀行を襲い、金を奪っても、果たしてそれが伊達の真の目的とは思えない。

それをする為に殺人を繰り返す異常者にしか見えない。

1度狩の味を覚えてしまった彼にとっては、それが自分のアイデンティティの証なんだろ。

小林麻美の存在など彼には無意味だ。あっさりと撃ってしまう。佐藤慶と同様に無音で撃たれるが、小林麻美のこの映画に於ける意味は果たしてあったのか?という位に呆気無い。

ホールで伊達は深い眠りから覚める。

気がつくと今までいた観客もオーケストラも消えている。リップバンウィンクルの話しそのものではないか。

夢、そうこの映画の全ては白昼夢なのだ。

伊達が見た夢のを我々は2時間、見せられるのだ。

この狂った夢を。