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3 申立人と相手方の雇用契約は期間を1年間と定めた有期契約か否か。

  これについても、申立書第4(2)の主張を維持する。

  もっとも、引用されている最判昭和49年7月22日の法理が適用される

事案か否かについては補足を要すると思われるので以下検討する。

まず、契約書上、雇用期間は4月1日から翌年3月31日となっているから、形式的には有期契約であるのは間違いない。

しかし、以下の理由から申立人と相手方との雇用契約は期間の定めのない契約である。

(1) 更新日について

  相手方においては、契約の更新はいつも4月の半ばあたりで行われていた。平成21年度における申立人の契約書も日付が4月11日となっている(乙3号証)。

  これはその年だけだったのではなく、毎年この時期であったことは申立人以外の陳述からも明らかである(甲10号証 サメ陳述書、甲14号証 シンプソンズ陳述書、甲15号証 少年M陳述書、甲16号証 長長長陳述書、甲17号証 おひげ様陳述書)。

  相手方は毎年4月の第1週まで春期講習を行っており、春期講習終了後に契約の更新を行うのが慣例であった。

  相手方が主張するように3月31日の経過で自動的に契約が切れるのであれば、4月1日以降各講師は労務の提供を行う義務はないはずである。しかし実際は、労務の提供が求められていたのであるから、有期契約とは評価できない。

(2) 更新手続について

  更新手続においては時間講師が印鑑をもってくるようにという指示があるだけであり、住所や氏名を書くだけという非常に形式的なものである。

  すでに形式上の契約期間が切れている期日に署名押印をするだけという内容の更新手続は、実質的に自動更新と同視しうるものである。

  (1)と同様に陳述から明らかである。

(3) 労務提供義務の発生原因

  相手方は個別指導を内容とする学習塾であるから(乙1号証)、労務提供義務発生の前提としては、担当する生徒の授業があることが必要である。

  生徒からの指名をもらうことにより、当該生徒の担当となるが、この担当は契約期間の経過によりリセットされるものではない。むしろ、担当生徒がいる限り、期間が経過したことを理由に辞めることは出来ず、担当の引継をすることまでが義務付けられていることを鑑みれば、このような生徒の存在を媒介とした雇用契約は期間の定めのない契約である。

(1)から(3)を検討すれば、相手方と時間講師一般において、雇用契約

が期間を1年とする有期契約ではないことは明らかである。

 ただ、本件では申立人が休職中であるという特殊事情があるから、更新時

期に担当生徒がいなかった申立人には前述の判例法理は適用されないよう

にも思える。

 しかし、5月末までの休職届を受理されている時点で、4月以降の契約に

ついても自動更新されるのが前提であるというのは届出を受理された者に

とって当然の期待であり、それを否定するならばそもそも休職届を受理しな

ければよいのである。

 また、期間満了による雇い止であれば、その旨、申立人に通知がなされて

いるはずであるが、全くなされていない。

 加えて、申立人は、平成22年4月以降も基幹配置上(相手方の講師出勤

予定管理のシステムプログラム)ずっと名前が出ており(甲10号証)、基

幹配置システムが契約状態を反映するものである以上、平成22年4月以降

も、申立人に対して退職処理がされていなかったことは明らかである。

 にもかかわらず、休職期間内である平成22年5月18日に復職を申し出

た申立人に対し、契約の更新を拒むのは解雇権の濫用と評価しうるものであ

り許されない。

 

4 申立人の新規雇用契約(乙第4号証)は自由な意思表示か否か。

 (1)異議を唱えたこと

   申立人は平成22年5月18日において異議なく新規雇用契約を締結し

たのではない。(甲8 本人陳述書)。

 また明らかに不服であったことは他の講師の陳述書からも明らかである

(甲17号証 おひげ様陳述書4)

 (2)新規雇用でも契約を締結する必要が存在したこと

   相手方は、「申立人の復職を待っていた生徒が存在・・・」(答弁書3

  頁)として、申立人の申立内容を否定しているが、これは誤りである。

   相手方に在籍していた当時高校三年生の極楽とんぼが、申立人に担当を

  依頼したことについて陳述している(甲18号証 極楽とんぼ陳述書)。

 実際、その後すぐに申立人は極楽とんぼの担当となっている。

 よって、(2)は認められる。

・・・・

 略


 

以上争点の検討を考慮するならば、申立人の請求は正当なもので認められ

るべきである。

2 申立人に「黙示の退職の意思表示」なるものが認められるか。逆に申立

   人が復職することにつき明示・及び推認させる事実があったか。

  (1)「黙示の退職の意思表示」について

    相手方は、申立人が「黙示の退職の意思表示」としたと主張している。

   (答弁書13頁)。このような稀有な評価を持ち出すあたり、代理人の

   腐心を察するに余りあるが、念のため論ずる。

       前提事実として、「以後教室に出勤しなくなった」という部分は

誤りである。

 申立人は、7月に入っても引継の確認や担当の指導のために立川教室

に出勤している。(甲8号証及び甲11号証 ドン小西陳述書)

8月以降労務の提供を行わなかったことは事実であるが、そもそも休

職申請をなしての休職期間であるから当然である。

また、「他の講師から聞いた話によると・・・」というこの答弁書の

表現では、あたかも申立人が逐電しAから連絡をとることが全く

出来なくなったかのような書きぶりであるが、申立人はその後も幾度か

教室を訪れている。

少なくとも11月14日と翌年1月16日には確実に訪れている。

もし本当に再度の就労時期が不明であったのであれば、申立人が訪れ

た際にその旨問いただせばよいのである。しかし実際に申立人とAの間

で交わされた会話は、専ら元担当生徒の進学先や成績についての

話であった(甲8号証 2(5)(6))。

答弁書の「また仮に・・・」以降の「現行試験」か「新試験」かの

くだりは、趣旨が不明確であるのであえて論ずることはしない。仮に休

職届が出ていなかったとしたら、どちらの試験か特定できていたとして

も結局復職時期は不明であるはずである。

また再度の就労意思や時期を説明することなく労務の提供を行わなく

なるような人間は、講師以前に人間として信用がおけないはずであり、

相手方にとって大事な顧客たる生徒、特に大事な受験生を任せることな

ど到底考えられないが、申立人に翌年受験生となる生徒の担当を依頼し

ていた講師がいたこと(甲11号証 3)、実際Aも翌年申立人に小論

文を中心に大学受験生の担当を依頼していることからすると、そのよう

な事実は存在しないことが明白である。

結論として「黙示の退職の意思表示」は認められない。

  (2) 申立人が復職することにつき明示および推認させる事実

    基本的には申立書第4(1)(8~9頁)の主張を維持し、答弁書の

記載は争うが、1点だけ、答弁書に明らかな事実誤認があると思われる

ので、これに触れる。

 「講師ボックス」の存在について、「縦10cm、横40cm、高さ

20cmほどの透明ボックスという表現(答弁書9頁)がなされている

が、これはあくまで授業ブースを講師がきれいに使うため、前前室長の

安田団長が経費で購入した会社の所有物である。

 また申立人が申立書で言及したのは、そもそも別のものである。

 相手方が時間講師に対して給与明細や講習資料を配布するためのボッ

クスである(甲12号証 ボックス写真)。

 このボックスは講師が持ちこむものではなく、会社の所有物である。

 いつ戻ってくるかも分からない講師のために給与明細等を入れるボッ

クスをあけておく必要は全くないのであり、やはり申立人の復職につい

て教室全体が認識していたことを推認させる事実である。

 もうひとつ、申立人が復職することを裏付ける事実④を追加する。

 申立人は、平成21年12月23日、東進ハイスクールのセンタープ

レ試験を受験している。(甲13号証 受験個票)

 高校卒業から10年近く経つ申立人が、9個下の若者に入り交って気

まずい思いをしながら試験を受けることは、来年の復職のための確認と

いう以外、説明のしようのない事実である。

 これらに加えて、申立人は、時間講師の同僚と親しく交流しており、

休職期間においてもシステムの変化の確認や担当講師が手薄な教科があ

るや否や等の会話をしている(甲14号証 シンプソン陳述書4)。

 これらを総合すると、申立人が間違いなく復職の意思を持ち、そのこ

とを明示しており、周りもそれを認識していたことが明らかである。

第一 答弁書に対する再反論

申立書と答弁書を照らし合わせると、本件における重要な争点は以下に集約されると解する。

1 申立人が休職届を提出したか否か。

2 申立人に「黙示の退職の意思表示」なるものが認められるか。逆に申立

   人が復職することにつき明示・及び推認させる事実があったか。

 3 申立人と相手方の雇用契約は期間を1年間と定めた有期契約か否か。

 4 申立人の新規雇用契約(乙第4号証)は自由な意思表示か否か。

  以下、論ずる。

1 申立人が休職届を提出したか否か。 

申立人は平成22年6月6日に相手方A(以下A)に休職届を提出した(甲8 本人陳述書 1(2))。

本人陳述書の記載は日付や様子など細部にわたり具体的な内容であるから信用に足りうるものであると認められると考えるが、あくまで本人によるものであるので、さらに論を進める。

(1) 休職届・退職届の入手方法

相手方においては、休職届・退職届は、紙媒体で備えられているものではなく、正社員が必要に応じてパソコンから出力するという取扱いがなされている。

このことより、休職届・退職届は講師一般に対しその内容が隠されているものであることが明らかである。すなわち、休職届・退職届を書いたことのある人間しか書式等の情報を知りえない。

しかるに、申立人は休職届の書式や記載事項を明確に示している。

これは、申立人が実際に休職届を書いたからに他ならない。

また、平成21年6月当時教室に副室長は置かれていなかった(答弁書7頁(2)イ(なお、以下)から、休職届の用紙の出力が可能なのはAのみである。

A以外出力しえない用紙につき、申立人が内容を記憶しているすなわち記載したということは、結局のところAから用紙を交付された申立人がそれに記載し、それをAに提出したと考えるのが一般的な経験則である。

  

  (2) 休職届・退職届の承認における確認手段の不存在

             休職届・退職届においては、正社員の承認が要件である。(乙2号証 

   相手方就業規則10条2項、11条2項)。

    相手方では契約書は割印の後、会社・時間講師双方が一部ずつ保有す

るという取扱がなされている。

これに対し、休職届・退職届の場合はそのような取決めがなく、いっ

たん教室長に提出したのちは、その後それが本社に提出されるかにつき

確認の仕様がない。

 相手方において、休職届・退職届が確実に提出・保管されているかに

ついて、平成22年12月11日に申立人と交渉に臨んだEから「休職・退職の時期が3月の場合は届出の紛失がないとはいえない」という趣旨の発言がなされている(甲8号証7頁)。特に退職届については3年の保管義務を負う(労働基準法109条)ものであるにもかかわらず、そのような「数が多いからなくならないとは言えない」というような発言は、相手方における届出管理の甘さを推認させるものである。

 実際に、過去に休職届を出したにもかかわらず、届出がなされていないとしてやむなく契約の新規締結を求められた時間講師が存在する(甲9号証 電話録取書)。また、過去の法令違反を指摘する講師もいる。(甲10 サメ陳述書補足)

 相手方においては、届出の提出につき確認手段が担保されておらず、しかもその適正管理に疑いがある以上、そのような相手方が「届出がない」と主張したとしも、そのことにより即休職・退職届の不存在が認められるわけではない。

(3) 本件申立に至るまでの相手方の対応

  相手方は、平成22年11月30日になした質問の「休職申請がなぜ退職になったか」に対して、「この間のやり取りについては記録が残っておらず・・・」(甲6号証 回答書1③)としている。

もし本当に申立人から休職届の提出を受けていなかったのであれば、このような曖昧な表現をすることなく、単に「休職届は出ていない」と返答すれば良かったのである。

これは、休職届の存在を否定しえない、つまり存在そのものは認識していたからに他ならない。

このような事情の下では、相手方は休職届を受領していたにもかかわらず紛失したというのが一番自然な解釈である。

   以上の(1)~(3)を考慮するならば、ただ「ない」とする相手方の

主張よりも、休職届の説明につき具体的かつ説得的な申立人の主張の方が信

憑性が高いことは明らかである。