トクさんは、何度も何度もハルさんと葵さんの結婚を認めてもらえるよう、
葵さんの二人の兄を説得し続けた・・・
ホントにすごい忍耐力だと思う。
そんな中、京都では葵さんが出産していた。
誰にも迷惑かけたくないという思いが強い葵さんは
一人で出産したという。
陣痛が始まると、タクシーを呼び産婦人科へ一人向かったらしい。
そして分娩室に入って8時間も苦しみ抜き・・・
元気な男の子の赤ちゃんを出産した。
二十歳を目の前にした頃で、十九歳で出産したことになる。
ハルさんは子供が生まれたその日に、仕事が終わり家に帰ると誰もいないことで、
慌てて病院に向かったそうだ。
ハルさんは涙を流して喜んだらしい・・・
そして母親になった葵さんを労い、父親になった自覚をしたという。
その男の子の名前は二人で事前に決めていて
「叶(キョウ)」という名前を付けた。
叶える(かなえる)という字だ。
二人の思いが一文字となって付いた名だ。
誰もお祝いにも行かなかったし、祝福もされていない。
ただ、みんなはハルさんと葵さんを信じて待つということを貫いた。
宗二さんのもとにハルさんから連絡が入ったときには、宗二さんと美香さんが電話越しに
「おめでとう」と伝えたらしい。
そして葵さんの妹である真美さんに伝わると、涙を流し喜んだという。
そして、すぐに葵さんは二十歳の誕生日を迎えていた。
そしてハルさんと籍を入れ結婚したことを宗二さんから聴いた。
ハルさんと葵さんが、俺の前から消えて7ヶ月?8ヶ月?くらい経過していた。
このことを機に葵さんの二人の兄は激怒し、トクさんは更に説得が難しくなったと
後に語った。
このときも誰も祝福していない・・・
ハルさんや葵さんに関わる全ての人は、内心すぐにでも京都に会いに行きたかったはずだ。
でも・・・みんな・・・あえてそうしなかった。
二人が帰ってくることを信じて、その日が来ること待つという思いが強かったからだ。
俺も、この頃・・・すごくハルさんと葵さんに会いたくて会いたくて・・・
そんな強い想いに駆られていた。
そして時は過ぎ・・・更に一年近く経過したある日、トクさんがついにやる。
葵さんの二人の兄の説得に成功するのだ。
この説得には葵さんの妹である真美さんの力が、とてつもなく大きかったそうだ。
そして、このことをハルさんと葵さんに電話で伝え、トクさんと真美さん、宗二さん美香さん、
そして俺も連れてってもらい、ハルさんと葵さんを京都まで迎えに行くことになった。
京都のハルさんが住むアパートに着くと、ハルさんが子供ような笑顔で迎えてくれた。
そして部屋の中には、1歳になる息子を抱いた葵さんが、笑顔で待っていた。
まさに1年半ぶりの再会だった。
ハルさんも葵さんも、ぜんぜん変わってなくて・・・とても安心したのを覚えてる。
そして息子の叶は目が大きくてクリクリ。もう一人で歩けて葵さん似で、とてもかわいかった。
ハルさんも葵さんも目は大きいのだが、葵さんそっくりの目をしていた。
まるで女の子のようにかわいい男の子だった。
ハルさんも葵さんも京都でお世話になった人達に挨拶を既に済ましていた。
部屋の中には、すでに何もなく、荷物を愛知に送る手配も済ませていた。
そして部屋の大家さんに挨拶を済ませ、車で共に愛知に帰ることになった。
そして・・・あの人が愛知県に・・・この街に帰ってきたのだ。