俺は会社の社員のことで憂鬱になっていた。
少し前に遡る・・・
トクさんが社長のときから社員であるAとB。
今では俺の右腕と左腕でもある存在の二人。
些細なことで口論になり、お互いを罵り合うほどだったと事務員さんから報告を受けた。
その後、AとBに一人ずつ話を聞き、お互いの主張を聞いた。
その結果、どっちが悪いということではなく、お互いがプロとしての意識が故、
ぶつかってしまった・・・ということが分かった。
そのことで悩んで、対応できずにいた。
そして、そのまま何もできず時が過ぎてしまい、会社の空気が悪いままになっていた。
そのAとBの下につく社員までもが不穏な空気が伝染し、
派閥ができつつある状況にまでなっていた。
AとBは、二人とも一流の技術者であり、大切にしたい存在で、どっちが欠けても俺は困る。
俺自身も自分のことで精一杯で、考える余裕もなく、ここまで問題をこじらせてしまった。
二人ともプロ意識が高く、会社の為を思い質の高い仕事を目指す一流。
その一流同士がぶつかってしまった・・・
人間関係のトラブルは組織である以上あって当然で、その対応策に悩んでいるうちに、
このようなことになっていました。
俺は真美さんの見送りに行った際、このことをハルさんに相談していた。
そして土曜の昨日、俺とハルさんとAとBで話し合う場所を設けた。
場所は、とある居酒屋の個室。
でも酒抜きの条件付きでの、話し合いの場でした。
AもBもハルさんより少し年上。
二人は人生の先輩でもある。
ハルさんと俺が並んで座り、AとBが対面で並んで座る。
そして話し合いが始まった。
話し合いが始まると、ハルさんが二人の主張を直接聞きたいと言い、
AとBの話を聞いた。
ハルさんは黙って話を聞き頷くだけだった。
そのうちAとBは罵り合い、激しい口論となった。
その口論を俺とハルさんは、しばらく黙って聞いていた。
そして二人の口論も少し沈静化してきた所で、ハルさんが言った。
「ストップ!ここまでだ!」
「もう、いいだろ?二人とも吐き出すだけ吐き出しただろ?気が済んだって顔じゃないけどな」
ハルさんの目は”恐い威嚇の目”になっていた。
AとBは、ハルさんの”威嚇の目”に突然押し黙った。
そしてハルさんが言う。
「おまえらの感情は一旦、拙者に預けろ!」
「その感情は拙者の中で深く沈める」
「冷静になって、今から言う言葉を考えてみてくれ!」
「二人とも会社のため会社のためって、しきりに言うが・・・」
「おまえらが、いがみ合うことで下に付く社員にどれだけの影響を与えた?」
「そして、それが会社にどれだけの損害を与えたんだ?」
「この二点、考えてみてくれ!」
「二人とも目を瞑れ!そして考えてみてくれ」
AとBは静かに目を閉じた。
そして、しばらく沈黙が続いた・・・
15分くらいたっただろうか・・・
ハルさんが「二人とも目を開けてくれ」と言った。
そしてハルさんは、何か言おうとした二人の話を遮り、話を続けた。
「何も言わなくてもいい・・・二人の考えているときの仕草と表情で大方分かった」
「反省は済んだようだな・・・」
「黙って聞いてくれるだけでいいから、話を聞いてくれ・・・」
「”だけど””でも”は封印な!反論は後で聞くし・・・」
「意見を押しつけるわけではないから、自分なりに消化して受け入れできる部分だけ取り込み
自分の考えと混ぜて、拙者の話が終わったら再度考えてみてくれ!」
ハルさんは少し強い口調でこう言った。
そしてハルさんは優しい目に戻り話し始めた・・・・
「誰にでも欠点はあって、それが人間である証拠だ」
「欠点とは”欠けた部分”であって当たり前!だが、その欠点とは目に付くものでもある」
「要は欠点は人を批判する材料だ」
「二人とも仕事に関しちゃあプロだ!だが感情を持ち込む時点でプロ失格!」
「感情より優先するのものが仕事であって、より良い質の仕事を追求するのがプロだ!」
「だが、おまえたち二人は感情を優先させ、いがみ合いをした時点でプロ失格な!」
「おまえらの感情なんて、仕事をするためには、どうでもいいんだ」
「でもな・・・・拙者も横にいる社長も、そんな二人の感情も大切にしたいんだ・・・」
「分かるか?・・・・」
「自分自身分かっていると思うが、おまえたち二人は社長の右腕と左腕だ!」
「その右腕と左腕がちぐはぐでどうする?」
「会社の利益になるのか?」
「拙者は、そうは思わん」
「二人が手を握り協力することで生み出される仕事こそが、会社の利益になると思ってる」
「それができて、初めて”会社のため”って言葉を吐く資格が得られると思うぞ?」
「それに会社の空気を悪くした二人の罪は、はるかに重い・・・」
「それを取り返す為にできること・・・」
「二人が感情の垣根を乗り越え、手を組み・・・」
「”二人の感情を大切にしたい”という拙者と社長に応えること・・・」
「やってみないか?」
「とは言っても・・・人間は感情の動物。わだかまりがある以上、そういかんよな?」
「話を一旦止めて・・・反論を聞こうか?」
ハルさんは一人ずつ反論を聞いた。
A「俺は、仕事の質を求めることが会社の為になると思い、Bにプロならやり直せと言っただけ・・・」
A「Bが素直に聞き入れないから・・・Bが気にくわない」
A「会社のためを思っての発言でBを認められない」
A「俺もBも一流と自負しているからこそ、認められない・・・」
B「人の仕事にケチ付けるAが気に入らない」
B「俺だって調子の悪い時だってあるし、自分で悪いと思ったら何度でも仕事をやり直す」
「俺だって技術者としての自信もあるし、Aに言われたかない・・・」
ハルさんは話を再度始めた。
「あのさ・・・二人とも一流だとは思う・・・でも上には上がいることを忘れてんじゃない?」
「二人とも、一つでも社長や応援として下請けで来てる兄貴(トクさん)や拙者に、質や早さで越えられてる作業あるのか?」
AとBが「ある」と答える。
そしてハルさんが言う。
「たまたま調子良く上手くいった時だけだろう?安定してそのパフォーマンス出せるん?」
AとBは押し黙った。
「拙者たちからしたら、二人とも一流だが”超”が付くわけではない!」
「社長なんか事務仕事も夜こなして、AとBの何倍も仕事して疲れて睡眠時間も短い状態で現場での作業やってのよ?」
AとBが下を向く・・・
「・・・あのさ二人とも、お互いを認め合うことから始めたどうだ?」
「お互い指摘し合って、お互い素直に聞き入れて、そのくらいの器はあるだろ?」
「小さいこと言ってないでさ・・・もっと気楽に行こうぜ!BABY」
俺は黙って聞いてるだけだった・・・
ここまで誰も料理に手を付けていない。
ハルさんの「気楽に・・・」って言葉で、なんだか力が抜けるようだった。
AとBも同じように感じたようだ・・・
ハルさんが、しばらく沈黙の後、話を続けた。
「なあ社長・・・ひとつ気になることがあるんだが確認していいか?」
「二人とも、拙者が会社からいなくなった後、気負い過ぎてる部分あったか?」
俺は答えた。
「そう言われると、あったと思う・・・」
そうするとAが反論する「そんなことはない!」と・・・
ハルさんが話を続ける・・・
「そうか・・・二人に謝らんとな・・・」
「二人とも自分自身では気づいてないだろうけど、第三者の目には”気負い過ぎ”と写っていたように・・・」
「知らず知らずのうちに気負っていたんだよ・・・」
「これは二人に負担を増やしてしまった拙者の責任だ!」
「普段なら素直に聞き流せる事でも、気負い過ぎが精神状態を悪くし、こうさせてしまった」
「50%以上は拙者の責任だ!」
「体が不自由で頭も下げられないが、言葉だけの謝罪だがさせてくれ!」
「二人ともスマンかった・・・申し訳ない許してくれ・・・」
俺はハルさんを、何とも潔い男だと思った。
そんなこと言ったら・・・社長である俺にも責任あるよな・・・
そう思うと、俺も二人に謝罪した。
そしてAとBは涙を目に浮かべ出した・・・
A「そんなじゃない・・・悪いのは俺たちだよ・・・」
B「・・・・・」(頷くだくだけ)
A「ハルちゃんも社長も、何も悪くない・・・謝罪なんてやめてくれ・・・」
Bも頷く。
B「俺、Aと仲良く手を組んで会社を盛り上げると誓うよ」
B「なぁA・・・そうしようや」
Aが頷く。
ハルさんが再び話しを始める・・・
「そうか・・・ありがとな。期待してんぞ」
「それと・・・相手を指摘するときは、慎重に言葉を選んで丁寧にな・・・」
「言葉足らずが関係を壊すことも頭の片隅に置いてな・・・」
AとBが頷く・・・
「人間は指摘を受けると、嫌な気分になるもんや・・・そのことを理解した上で言葉選ぶんやで」
「自信を持つことも、誇りを持つこともいい事や!」
「だが自信過剰はいかん!過剰になった時点で自分自身に飲まれてる証拠や!」
「忘れんようにな・・・」
AもBも頷く。
「それと・・・・あんまり無理すんな。体壊すぞ・・・・・・・気楽に行こうぜBABY!」
「社長もな・・・」
俺も含めて涙が頬をつたっていた・・・
最高の労いの言葉を忘れないハルさん・・・この人の魅力の一つです。
ハルさんが続ける・・・
「必ず復帰するからな・・・それまで頼むぞ・・・」
俺たちは全員、頷いた。
そして、結局・・・俺は黙って話を聞いてるだけだった。
それにしてもハルさんの本心・・・どこまでが本心だったのだろう・・・
結果、丸く収まったのだが・・・全部、ハルさんの頭の中で予想された通りに話が進んだ?
まるで将棋をさすように・・・
繰心術?心理学に長けたハルさんの心理は分からない・・・
特に行動心理に詳しいハルさん・・・
俺は、そんなことを考えていた。
長くハルさんの側に居た俺は、何度もそんなハルさんを見てきたが・・・
未だに、このハルさんの心の中は見えずです。
そしてハルさんが言う・・・
「なあ?仲直りのお祝いにキャバレーでも行って、パッーと騒がないか?」
AとBが、そんなお金持ってないと言うと・・・
「何言ってん?横に金蔓がおるがな!」
「なあT.S!会社の経費でパッーと!」
俺は言った。
「ねぇハルさん?まだ、この居酒屋で何にも食べてないし飲んでもいないぞ?」
「あんたがキャバレー行きたいだけだろ?」
ハルさん反論・・・
「違うわ!仲直りのお祝いと言ったらキャバレーと500年前から決まっとる!」
俺は反論した・・・
「500年前にキャバレーないやろ?・・・真美ちゃん居ないことをいいことに・・・」
「真美ちゃんに報告するよ?俺」
ハルさんがギョッとした表情を見せる・・・
そして・・・
「真面目ぶりやがって・・・まぁ、ここでええわ・・・はよビール頼んで飲ませれよ!」
ふてくされながらハルさんが言った。
「俺、真美ちゃんに”ハルさんのこと頼む”って言われてるし、今日はここで我慢だよ!」
ハルさんは不機嫌そうに「うーい」と答えた。
ほんと、いい人なのに・・・・
すぐ悪い癖が出るな・・・この人は(笑)
まぁハルさんらしいけど。
俺は、この後・・・・ハルさんに料理食べさせたり、ビール飲ませたり、大変でした。
少し真美さんの苦労が分かったかもしれない・・・
でも、俺の悩みを解決してくれたハルさんに感謝です!
いつまでも頼りにしてまっせ!ハルさん!