そして沈黙したままのハルさんに、俺は話しを続けた・・・
「ハルさん。俺のことなら心配いらないよ・・・」
「トクさんもいるし、宗二さんも美香さんもいる・・・」
「会社のみんなも、良くしてくれる・・・」
「俺は、もう一人じゃない!やってけるよ!」
「それに俺、ハルさんが高校生のときの彼女の話を宗二さんに聞いちゃったんだ・・・」
「そのとき、どれほどの苦しみだったの?どれくらい悲しかったの?」
「・・・ハルさん。あんた今度こそ幸せにならなきゃダメだよ!」
「ねぇ、ハルさん!」
ハルさんが言葉を発する・・・
「なぁT.S」
「俺と居て楽しかったか?」
俺はうなずく・・・
「寂しい思いするぞ?いいのか?」
俺は、その言葉を聞いた瞬間、ハルさんに抱きつき堪えていた涙が溢れ出た。
「わあああああああああああああああ」
「ハルさん。俺寂しいけど、がんばるからね・・・」
「わあああああああああああ」
俺はハルさんの胸で、おもいっきり声を上げて泣いた。
ハルさんは、力強く抱きしめてくれた・・・
俺が泣いてると電話が鳴った。(当時は携帯電話などなくて、家の電話です)
宗二さんが電話をとった。
電話は美香さんからだった。
駅で葵さんを見つけたという電話だった!
葵さん、まだ駅で待ってた・・・
美香さんが、「とりあえずアパートに帰ろう」と促したが、
「ハルちゃんを、ここで待つって約束したもん!」
「何時間だって何日だって、ハルちゃん来るまで・・・ここで待つんだもん!」
泣きじゃくりながら、そこから動かないみたいだ。
美香さんは、ハルさんの部屋に着いて葵さんの行方を聞くと
ハルさんは、こう答えたらしい・・・
「葵はこの部屋には戻ってきていない」
「まだ駅にいるのか、それとも何処に居るのか分からない・・・」
「もう駅には居ないと思うけどな・・・」
「それに、もう遅いよ。約束の時間はとっくに過ぎたし、約束破ったし愛想尽かされたんだよ」
「この部屋に戻ってきてないのが、葵の答えだよ」
「俺たち、もう終わったんだ・・・」
ハルさんは泣きながら、美香さんにそう答えたらしい。
美香さんは車に飛び乗り、葵さんを捜しに駅に向かった。
そういう経緯だった。
宗二さんはハルさんの現状況を説明する・・・
そしてハルさんに電話を代わる。(一応、コードレスホン。黒電話じゃないですよ)
美香さんの声が受話機越しにも聞こえてきた。
「ハルちゃん。葵ちゃん見つけたよ!」
「葵ちゃん、まだハルちゃんのこと待ってるよ?」
「どうすんの?これでも、まだ遅いって~の?」
ハルさんは、こう答えた。
「今から行く!待ってろ!」
荷物をまとめた小さなバックを手に取るハルさん。
そして・・・
「俺、今から駅まで行くよ!」と言い、部屋を飛び出して走りだした!
宗二さんが叫ぶ!
「T.S!俺たちも行くぞ!車に乗れ!」
俺は宗二さんの車に乗り、ハルさんを追いかける。
そして、すぐにハルさんに追いついた。
宗二さんは走るハルさんを追い越し車を止めた。
そして車から降りて、ハルさんに駆け寄る。
宗二さんがハルさんに話しかける・・・
「ハルー!おまえバカか?駅まで走って行く気か?どんだけかかると思ってんだ?」
「この時間に鈍行なんて、もうねぇぞ!」
「名駅(名古屋駅)まで連れてってやる!乗れ!」
ハルさんは、黙って宗二さんの車に乗り込んだ。
車の中で少し3人で喋った。
ハルさんは、最後まで会社のこと、俺のことを心配していた・・・
そして、俺と宗二さんに何度も何度も何度も謝っていました。
そして宗二さんの暴走のかいあって、かなり早く駅に着いた。
そこには美香さんが既に待っていた。
切符も既に美香さんが4人分買っていた。
俺たちは改札を抜け、ハルさんと一緒にホームに辿り着いた。
ホームのベンチに座っていた葵さんが、ハルさんの姿が見えた瞬間
ハルさんに駆け寄り、抱きついて泣きじゃくった・・・
「いつまで待たせんのよ~」
葵さんは人目もはばからず大声で泣いた。
ハルさんは「葵ごめんな。ごめんな。」って葵さんを抱きしめ泣いた。
俺たちはしばらく、その光景を見ていた。
そして・・・ついに別れの時が来た。
「結局、見送られて行くんだな」
ハルさんが言う。
すると宗二さんと美香さんが、握った拳に親指を立てウインクする・・・
俺にも「ほら、俺たちのマネしろ!」と宗二さんが促す。
俺もマネして親指立てた。
このとき誰も「さよなら」は言わなかった。
二人は電車に乗り込み、すぐに電車が発車する・・・
あっという間に行ってしまった。
この後帰る途中、美香さんに聞いたのだが
葵さんは既にハルさんの子供を身籠もっていたらしい・・・
ハルさんは、まだこのことを知らない。
美香さんにだけ葵さんは話していたようだ。
こうしてハルさんは俺の前から消えた。
この後、ハルさんと再開するのは一年半後のことになる。