先週の話。

去年うちに20歳で入社し、現在21歳の社員がいます。

仮にこの社員の子をR君とします。

このR君は三重県から出てきて、一人暮らし。

昼食をコンビニとかで買うのですが、ここ2,3日おにぎり1個だったらしい。

一緒に現場に入ってる上司から聞いた。

そして暑さもあるが、R君は毎日フラフラで仕事してるらしい。
 

体力も明らかに落ちてて危なかしい・・・以前はそんなことなかったし何かおかしい・・・

報告してくれた上司がR君に問いただしても「大丈夫です!何もないです!」と言うばかり。
 

そんな報告を受けた。



















俺は報告を受けた夜、R君の自宅を訪問することした。

 

R君のアパートは古い建物で二階建てでエアコンの室外機は動いていない・・・

部屋の電気もついていない・・・時間は19時半。

いくらなんでも寝てる時間じゃないと思いつつ

留守かとも思ったがドアをノックしてみた。

するとR君が出てきて「社長どうしたんですか?」とびっくりした様子で迎えてくれた。


 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は「少し話があるから部屋に入れてもらっていいか?」と声をかけ

R君の了承を得て部屋に入れてもらった

R君は部屋の電気をつけ、俺に座る場所を促した。

部屋は散らかっていた・・・

まあ男の一人暮らしはこんなもんか・・・と思いつつ

 

「ちょっとは整理整頓しような」とお節介ながらも指摘はした。

 

そしてR君は「はあ・・・汚くてすいません。ところで話ってなんですか?」と話しかけてきた。

俺はいきなり「飯食ったか?」と尋ねるとR君から「はい」と返答は受けたが、

すぐに嘘だと分かった。

さっきから腹がグウグウ鳴っているのである・・・

食べたばかりで腹がそんなに鳴らないだろう。

俺が「嘘つけ!食ったばかりで、そんなに腹は鳴らんぞ?」と言うと

黙って下を向いたまま目すら合わさない。

俺は「とりあえずコンビニ行くぞ!」とR君を無理矢理だが手を引っ張り引き起こし、

自分の車を走らせコンビニに向かった。

「とりあえず腹一杯になるまで食え!好きなだけ買っていい!金は俺が払うから心配すな」

と移動中の車内で言った。

500ミリリットルの麦茶1本と弁当一つ・・・籠にそれだけしか入っていない。

それでレジに向かおうとしたので、俺は独自の判断で

2リットルの麦茶2本、弁当を2つ、おにぎり2つ、サンドイッチ1つ、サラダ1つ、缶コーヒー2本を

勝手に追加しレジに進んだ。










そしてR君の部屋につくなり

「食えるだけ食え!全部食えるなら全部食べていいぞ!」と言うと、

R君は「すいません。ありがとうございます!いただきます!」と言って

すごい勢いで食べ始めた・・・

よほど腹がへっていたんだろう・・・と推測した。

俺は買った缶コーヒーの一本を取りだし、缶コーヒーを飲みながらその様子を眺めていました。

 

結果R君は弁当3つと500ミリリットルの麦茶とサラダとサンドイッチをたいらげた・・・

それにしても、これくらいの年頃の男はよく食う。

若いっていいなあ・・・と思いつつ俺は話を始めた。

「なあ金ないのか?」と聞いてみると、

「ありますよ!節約しているだけです」と返ってきた。

「財布と口座の残高見せてみろ?本当なら見られても構わんよな?」

というと、R君は渋々だが財布と通帳を俺に差し出した。

 

財布には約700円。口座には100円も入っていなかった・・・

口座の内容を見て本人に問いただしてみると、月始めに10万円を振り込んでるのが分かった。

しかしR君は正直に事情を説明することはなかった。

 

10万円の振り込みは借金返済だと本人は言う。

 

俺は「携帯電話の着信履歴を見せてもらってもいいかな?」と聞くと

「いいですよ」と言ってR君は携帯電話を俺に差し出した。

本当は・・・こんなことしたくなかった。

俺がやってることはプライバシーの侵害だし、ダメなことは十分に分かってる。

だけど本当のことを話してもらい、”少しでも寄り添いたい”という想いが先行してしまい、

このような行動をとってしまった。

 

着信履歴の中に母親があった。

俺はR君に「母親に電話してもらってもいいかな?」と言うと、R君は母親に電話を掛けてくれた。

そして俺に代わってもらってR君の母親と話すことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

R君の母親に、現状のR君のことを説明すると・・・

母親は泣きながら話してくれました。

簡単に説明すると

コロナの影響で仕事がなくなり収入が途絶え、貯金を崩して生活していたが底をつき、

家賃は払うこともできず生活困窮に陥ったため、R君にお金の打診をしたらしい。

R君は母子家庭。R君の母親は娘さんの子供(小学4年生)を養っていた。

娘さん(R君の姉)は病気で去年31歳の若さで亡くなっているため

 

R君の母親が娘さんの子供(孫)引き取っていることも分かった。

 

そして娘さんも離婚しており、母子家庭で子育てしていたことも分かった。

娘さんが結婚した相手はロクでもないようで蒸発している。

俺は母親との電話を「また後で電話します」と言って電話を切った。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電話を切るとR君は一言「すいません・・・」と言った後黙ってしまった。

 

俺はいろいろなことが頭の中を駆けめぐった。

そして「俺の浅はかな行動でR君のプライドを傷つけたとしたら謝る」

「この通りだ。すいません!」と言って頭を下げた。

「でも・・・・R君。優しいな・・・」

と声をかけると、R君は下を向いたまま涙がポロポロ落ちていた。
 

 

 


R君みたいな優しい若者が何でこんなに苦しい思いをしなくちゃならないんだ?
 

 

 


こんなことが頭を駆けめぐった。

 

そしてR君に

「少し外で電話してくる。ちょっと待っててくれるか?」と声をかけ、俺は外に出て車の中で妻に電話をした。

















妻にはポケットマネーで支援したい人がいるのでってことで、了承を得るため電話した。

簡単にだが事情も説明した。

しかし妻は4月と5月、俺が給料を取れなかったことを理由に、簡単には了承してくれなかった。

お金がないわけじゃないが、この先の不安もあって反対した。

俺は妻の気持ちも痛いほど解ったので、諦めた・・・・・・・・そして

「無理を言ってごめんな」と謝罪した。

 

電話を切ろうとしたとき妻が「ちょっと待って!」と切ろうとする電話を止めた。

すると妻が「やっぱり・・・テッちゃんの思うようにしていいよ」と優しく言ってくれた。

俺は驚いて「え?」って声が漏れた。

すると妻は「あたしたちもハルさんにすごく助けてもらったよね?」

「すごくお世話になった・・・・・・・もちろん金銭面でも、その他のことでもいろいろと・・・」

「だから今度はあたしたちが人助けをする番じゃないかって思ったの・・・」

「だから・・・テッちゃんが助けてあげて!」

こんなふうに言ってくれたのだ。

俺は涙が零れそうになった・・・・

妻には「本当にありがとう!不安にさせないように俺もがんばるからな!本当にありがとう!」

と、ありったけの感謝の気持ちを伝えた。

そして知り合いの行政書士に電話し、R君の母親のことを話して何らかの金銭的支援を受けられるよう

相談と手続きを頼んだ。

行政書士の知り合いは無償で協力してくれると言ってくれた。

そして俺は感謝の言葉を伝え、車から出てR君の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入るとR君の前に俺は座り、

お袋さんが相談を受けられるよう行政書士にお願いしたことを伝え、安心していい!と伝えた。

そして、お袋さんに電話をもう一度してくれるように頼むと、すぐR君は電話を母親に繋いでくれた。

そして俺が代わり行政書士がそちらに連絡後、訪問し相談に乗ってくれること、

なんらかの金銭的支援が受けられるよう手続きしてくれることを伝えた。

そして明日中に俺が30万円振り込むこと、そのお金は返済の必要がないこと、

 

必要なだけ自由に使っていいということを伝えた。

返済はR君が仕事をがんばってくれることでチャラ!ということでお袋さんには納得してもらった。

そして電話を切ったとたん、R君は俺に土下座し「本当にありがとうございます!本当にすいません!」

と何度も頭をさげた・・・

















さーてと・・・・

俺はR君に話しかけた。

「なあR君。苦しかったり困ったりしたら何で相談しねえ?相談してくれよ・・・」

 

「人を頼ることを恥ずかしいと思わないでくれよ・・・なぁ・・・頼っていいんだぞ?」

「相談にも乗るし、解決できないこともあるかもしれんが、それでも何かしら”力”になれることもある」

「それに俺たちの仕事って肉体労働だよ?体が資本なんだから食わねえと体壊すよ?」

「食わねえと死んじまうよ?フラフラになって事故起こしても、みんなに迷惑かけちゃうし・・・」

「だから・・・相談してくれよ?無理しすぎだよ・・・」

と、優しく話しかけた。

R君は俺の話を聞くと、下を向いたまま再び泣き出した・・・

俺はR君の頭を自分の胸に引き寄せ「苦しかったな。辛かったな。よく、がんばったな・・・」と頭を撫でた。

そして俺はR君が落ち着くのを待つため立ち上がり、

コンビニで買った、おにぎりや飲み物を勝手に冷蔵庫を開けて片付けた。

「おにぎりと麦茶、冷蔵庫に入れておいたから、また腹減ったら食えよ」とR君に声をかけた。

R君は涙声で「はい」と答えた。

しばらくして「R君、少しは落ち着いたか?」と声をかけると、「はい」と答えてくれた。


























俺は間をおいて再びR君に話しかけた。

「さ~て・・・・R君。冷蔵庫に何も入ってないじゃねえか・・・」

「今月、あといくらあれば乗り切れる?正直に言ってみ?」

R君は少し驚いた顔を見せたが「1万あれば・・・なんとかなると思います」と答えた。

俺は財布を出し、3万円をR君の手に握らせた。

「これで、しっかり飯を食え!」と俺は言った。

「この金は俺のポケットマネーやし、ギャンブルで勝った金だから気にするな」

「返す必要ないからな!」

「それから・・・お袋さんには、ああ言ったが・・・おまえはいつも通りに働いてくれればいい!」

「それでチャラだ!だからいつも以上にがんばろうとか、無理する必要もない」

「だからといって、R君を縛ろうとも思ってないから、いつだって会社辞めたくなったら辞めてもいい」

「だから明日からいつも通り仕事してくれればいいよ」

「それに・・・俺も昔、ある人にいろいろ助けてもらった・・・金銭面でもプライベートでも・・・人生さえも」

「その人はもう死んじゃったけど、この会社の設立者だよ」

「だから俺も・・・その人みたいにしてみたくなっただけだ・・・」

「だから気にするな・・・」

こんな話をした。

そしてギャンブルで勝った金だなんていう嘘をついた。

俺はギャンブルはやらない。

 

 

 

 

 







R君は俺に何度も何度も頭をさげた。

そのR君の表情からは、安心感と安堵感そして感謝の気持ちが伝わってきた。

「それじゃあ、明日は元気に出社して来いよ!昼飯もちゃんと食えよ?」

「ほな帰るでな。じゃあよ」

と言って俺はR君の部屋を出た。














































俺は帰宅途中、ハルさんとよく散歩した公園に向かった。

時間はすでに0:00を回っていた・・・近くにあった自販機で缶コーヒーを買ってベンチに座り

 

タバコに火を付けた。

曇り空を見上げながらハルさんに話しかけてみた・・・

”なあハルさん・・・あれで良かったのかな?”

”もっといい方法あったかもしれんけど、思うままにやってみた・・・・・・”

”俺の判断は間違ってるかもしれない・・・”

”でも心の思うまま動いてしまった・・・ハルさんなら・・・どうしただろうな・・・”

こんなふうに独り言を呟いてみた・・・

もちろん何も返ってこないし静寂だけがその場を包む。
























そして俺が若い頃のことを、いろいろ思い出した・・・・

俺は金の使い方が下手で、すぐもらった給料がなくなって、

 

ハルさんには・・・おごってもらったり、家で飯食わしてもらったり・・・よくしてもらった。

葵さんも「一人分余分に作ったって手間変わんないから気にしないで”って言ってくれた。

毎晩のように晩飯ごちそうになりに行っても、文句一つ言うことなく笑顔で迎えてくれた。

葵さんは本当に優しい母親のような存在だった・・・・

いつも葵さんが飯を作る後ろ姿を微笑んで眺めていた。

葵さんは昼飯に弁当も作ってくれた・・・ハルさんの弁当と一緒に・・・

帰り際に、葵さんが俺の手に1万円を握らせることもあった。

断ろうとすると・・・

「ハルちゃんに言われてるの!だから、ね!」と葵さんが微笑んで言ってくれた。


ある時、葵さんに聴いたことがある。

飯食わしてくれたり、弁当持たせてくれたり、お金渡してくれたりすることを・・・

すると葵さんは「全部ハルちゃんの言われた通りにしてるだけだから気にしなくてもいいよ」と・・・・・・・

葵さんは、そのことに何とも思わないの?って聴くと

「ハルちゃんが心あってすることに口を挟まない主義なの」

「だから何とも思ってないよ」

「間違ってる!と思ったことには反対もするし、口も挟むから心配しないで!」

 

「それにテッちゃん、仕事でいつもハルちゃんのこと助けてくれてるでしょ?」

 

「ハルちゃん、いつもテツには助けてもらってる!ほんと助かるわ~!って言ってるよ」

 

 

葵さんはこんなふうに言った。





でも実際、助けてもらってたのは俺の方だ。

今でもハルさんと葵さんには感謝しきれないくらい感謝している。

なにも恩返しできないまま、俺の前から消えてしまったが・・・・

 

 

 

 

若い頃の・・・・昔を思い出した。

思い出すと自然に涙が溢れ出す・・・





 

 

 

 

 

 

 

今回はお金で解決してしまった。

一番簡単な方法を選んで自分に甘えてしまった。

俺はまだ胸を張ってハルさんの意志を受け継いだなんて、自信を持って言うことはできない。

 

まだまだ俺には欠けているものが多くある・・・

死んであの世に行ったときには、ハルさんに胸張って自慢できる報告ができるようにしたいな。