ブッククラブの今月の課題図書は、アガサ・クリスティの「春にして君を離れ」。

 

推理小説ではない。そして、何とも綺麗な題(英語では「Absent in the Spring」)

 

主人公の女性ジョーンは、中年の専業主婦。地方の女子大を卒業し、弁護士の夫と3人の子供を育てる。娘のバーバラが住むバグダッドを訪ねた帰路、列車が動かなくなり、数日間、砂漠の宿泊所で過ごすところから始まる。

 

 

宿泊所では、過去の自分や周りの人々のことを考え始める。良き妻、賢い母親としてベストを尽くしたつもりだったが、子供達は自分を愛してくれているのか?同級生だったレスリーと夫のあの時の黙って座っていた情景は?など、色々と思いを巡らせる(レスリーの夫は銀行家だったが詐欺で刑務所暮らし)。

 

回想シーンが映画のように浮かぶ。そして、2度登場するシェイクスピアの「心なき風。蕾を落とす」というフレーズ。これが、この小説のキー。2回目に突然と登場した時、レスリーとジョーンの夫は何かあったのだ!と何の説明もないが気付かされる。少しだけカズオ・イシグロの「遠い山並み」に似ている。

 

夫は子供達が幼少の頃、弁護士を辞めて、農夫になりたいと言い出す。上品にやんわり反対するジョーン。

こういう男の夢に同調できるか?これは万国共通であり得ること。今の私ならOKすると思う。山に住もうと、海に住もうと。でも、若い時に子育てしながらだと「とんでもない!」となると思う。

 

彼女が幸せで平坦な主婦生活を送ったからなのか、夫からは考えが浅いと、よく諭されるシーンがある。リトル・ジョーン、と言われながら。ブッククラブでは、これは夫が優越感を持ちたいからかもしれないが、確かに考えが浅いと思うという意見。

 

そして、美人でもなく豪快だったレスリーに、密かに恋心があった夫。1メートル以上の距離をあけてベンチに座り、お互い何も言わない光景を見てしまったジョーン。レスリーは詐欺をした夫の代わりに働き「哀れな同級生」だと思っていたのに、夫が思いを寄せていたなんて!

 

自分の言動が浅はかで愚かだったこと。子供達には次々とお見合いをさせて居心地悪くしたことなど、砂漠の宿泊所で狂わんばかりに激しく内省するジョーン。

 

しかし、イギリスに戻り、夫に再会して安心したのか「私の人生はこれで良かった。みんな幸せなはずよ」で、終わる。

ちゃん、ちゃん!(笑)。