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魔女の心臓 声劇用改変




フィオラ♀…10代後半。物語のヒロイン。孤島に独り幽閉された姫君。
アール♂…10代後半。物語の主人公。両親を亡くした孤独な船乗りの少年。
ローザ♀…12歳。リラが浜辺であった少女。
リラ♀…???歳。喋るランタンと旅をする魔女。見た目は10代半ばだが、旅を始めてから500年は経過している…らしい。
ルミエール…???歳。喋るランタン。真の姿は竜だが、リラと契約しランタンの姿になってともに旅をしている。
シンシア♀…20代。フィオラの世話係。

4人役表
♀フィオラ/リラ/ローザの母 :
♀ローザ/シンシア/船乗りの奥さん :
♂アール/ローザの父 :
♂ルミエール/船乗り/シンシアの従者 :

5人役表
♀フィオラ/ローザの母 :
♀リラ/船乗りの奥さん :
♀ローザ/シンシア :
♂アール/ローザの父 :
♂ルミエール/船乗り/シンシアの従者 :


アールN「嵐の海の濃い風のにおい。強く柔らかい、潮の香りがする。冷え切った濡れた肌から、かすかに伝わるいきものの温度。君の、体温―――」

(タイトルコール)アールN「涯(はて)の毒姫」


ローザ母「ローザ!どこに行くの」

ローザ「貝拾い!」

ローザ母「日が暮れる前に戻るのよ」

ローザ「わかってるー!」


ルミエール「わーきれいな海岸ー!」

リラ「そうね、水も澄んでいるわ。…くすぐったい」

ルミエール「じゃあブーツ履いて歩きましょうよ」

リラ「裸足で歩きたい気分なの。…あの花・・・」

ルミエール「珍しい形の花ですね」

リラ「ええ、これは―――」

ローザ「(かぶせて)触っちゃダメーーー!」

リラ「あっ・・・」

ローザ「危ないよ!その花、毒があるの!」

リラ「本来はもっと内地に群生する花ね。種子が風に乗ってきたのかしら」

ルミエール「さすがあねさん、物知りですねえ」

リラ「昔、この花で染めた羽織をみたことがある」

ローザ「えっ!あぶなくないの?」

リラ「暗殺用の品物よ」

ルミエール「うわっ」

リラ「でもこれは・・・」

ローザ「わあああっ!!!だから触っちゃダメなんだってば!!!」

リラ「・・・そうだったわね、ごめんなさい」

ローザ「この国の前の王様とお妃さまはこの花の毒を飲み物に入れられて、それで死んじゃったんだって」

ルミエール「おおー!暗殺だ」

ローザ「うん、暗殺だね。―――で、ね。えーっと・・・えーっとぉ・・・」

リラ「…?」

ローザ「あの、旅人さんだよね?この花の、秘密のお話、教えてあげよっか!お母さんには、ほかの人には話しちゃダメって言われてるんだけど…。旅人さんなら平気だよね!―――聞きたい?」

リラ「ええ」

ローザ「やった!あのね、私が生まれる少し前のお話だよ!」




船乗り「―――…ール!アール!お前、今から海に出るのか」

アール「うん。夜のほうがよく獲れるから」

船乗り「あまり危ないことはするな」

アール「大丈夫、慣れっこだよ」

船乗りの奥さん「…あの子を見てると心配になるよ。ふらっと海に出たまま戻ってこないんじゃないかって…」

船乗り「親父さんが生きていればなあ…」


アールM「―――父は俺が赤ん坊のころに戦争にいって死んだ。15年前、この国は隣国の侵攻を受け、戦い、そして屈した。国王と身重(みおも)の王妃が暗殺され、なし崩しの形だったという」

アールM「戦で男手を失った畑は荒れ、漁場はもともと豊かだったわけでもなく、生活は厳しい」

アールM「とはいえ、自分にとっては生まれたころからこの有様。境遇に特別の感慨はなく、不満もない」

アールM「―――去年の夏、女手一つで俺を育てた母が死んだ。過労がたたったのだと医者はいった」

アールM「それから俺は、櫂(かい)のない船で波間を揺蕩う(たゆたう)ような、そんな気持ちのまま生きている………」


アール「う…ん………。どこだ…ここ………。……まずい」

アールM「船の上、海の真ん中。いつの間にか寝てしまっていたようだ。岸の明かりが見えない。どこまで流された?外洋に出たら潮に阻まれ岸に戻れなくなる。漕ぎだす方向が、わからない」

アール「…あれは……」

アールN「どこまでも暗い、吸い込まれるような闇の中にポツンと、ひとつの灯り(あかり)がともる」

アール「消えた…?」

アールN「その後、灯りの方向へとただひたすらに船をこぎ続け、夜明けには見知らぬ浜へたどり着いていた」

アール「どこだ…ここ…。帰らないと…」

アール「あれは、町の時計台…。この角度で見えるってことは、ここは、西の、入り江…か?へえ…、こんな風になってたのか」

アールN「いつか母に言われたことを思い出す。”西の入り江を超えてはならない” このあたりの、暗黙の掟(おきて)」



船乗り「アール!」

アール「おっちゃん」

船乗り「どうした?朝市に顔出さなかったろ」

アール「ちょっとね。ねえ…西の入り江の先ってさ、誰か住んでる?」

船乗り「あん?住んじゃいないだろ。大昔王族に罪人が出たときに幽閉するための小島があったんだ。今はもう使われちゃいないだろうが…」

船乗り「気やすく足を踏み入れていい場所じゃないことは確かだな」

アール「ふうん…」

船乗り「どうした急に?」

アール「ううん」


アールM「その夜俺はまた海にでた。やっぱり気になる。あれは何の灯りだったのか。もしかしてほかの漁船?幽閉されて死んだ王族の霊だったりして」

アール「あった!昨日と同じあかり…」

アールM「明かりが消えた…。こっちに気付いた……?やっぱり、人がいる、のか…」

アールN「灯りのほうへと船を進めた先、薄い星明りの元でも、不気味なほど輝く白い小さな城がそびえるのは、それよりわずかに広い程度の小島」

アールM「王族を幽閉するための…これが…。あれは…人の、影…?」

アール「あっ…あの!」

アールM「はっ…しまった!ちょっと待て、もしここがいかがわしい連中のアジトだったりしたら…」

フィオラ「だ…だれ…?」

アールN「鉄格子(こうし)の向こうから聞こえたのは少女の声」

アール「お、俺はアール!昨日このあたりで遭難しかかって…ここのあかりのおかげで助かったんだ。ありがとう。…あの、君の名前は?ここには家族で住んでるの?」

フィオラ「私は…フィオラ。…ここには、ひとりでいるの…」

アール「フィオラ…いい名前だね」

アールN「白銀の鈴をころがすような可憐で透き通る声。フィオラの口調はたどたどしく」

フィオラ「ごめんなさい、誰かとおしゃべりするの、すごく久しぶりで…」

アールN「一言一言、確かめるように言葉を口にするようだった」

アール「ねえ、おりてこられない?」

フィオラ「…ごめんなさい、私…ここから出てはいけないの。…だから」

アール「閉じ込められてるの?どうして…。誰かにさらわれてきたの?待って、助ける方法を…」

フィオラ「(かぶせて)違う、違うの。違うけど、でも、誰に会うのもどこに行くのも、わたしは、してはいけないの。だから、あなたももうここには…」

アール「わかった。…君が出られないのなら、俺が君に会いに来る。…それなら、いいよね?」

フィオラ「っ……」

アール「いけねっ…もう朝だ!今日はもう帰るよ。またね、…フィオラ」

フィオラ「…………アー、ル………」


アールN「それから俺たちは、互いの顔も知らないまま逢瀬(おうせ)を重ねた。ひとり同士、お互いを必要としていた。昼間は、格子の張った窓越しにたわいのない会話を交わす、夜は互いのあかりを交わす。…自分は、ここにいるよ、と…」


船乗りの奥さん「最近アール明るくなったんじゃない?」

船乗り「ああ、よかったよ」

アール「今の時期は、森が一面紅葉だよ」

フィオラ「いいな…いつか見られたら素敵なのに」

アール「紅葉見たことないの?」

フィオラ「…本で、だけ…。物心ついたころから一度もここを出たことがないから…」

アール「は!?…ねえ、やっぱり外に出てみない?」

フィオラ「そう、できたらいいのにね…」

アール「大丈夫、人が来る前に戻ればいい」

フィオラ「駄目よ」

アール「どうして!」

フィオラ「誰に会うのも、どこに行くのも、死ぬまでしてはいけないの」

アール「死ぬまでってそんな…」

フィオラ「ごめんなさい、今日はもう帰って…」

アール「フィオラ…フィオラ?」


アールM「どんな事情があったって、こんなのはおかしい。もういっそ、攫って(さらって)しまえばいい。もっと早くにこうすればよかった。とにかく連れ出してしまえばいい。追手が来たら逃げればいい。―――俺には、失うものはない」

アール「っ…外側から錠(じょう)が…」

シンシア「何者です!この島に立ち入ってはなりません!即刻ここから退去なさい!」

アール「あなたが…」

アールN「フィオラは何日かに一度世話係が来るのだと言っていた」

アール「…錠を開けてくれ。僕は彼女をここから連れ出す」

シンシア「お前、中の御方を…」

アール「(かぶせて)どうして彼女がこんな目に遭わなきゃならないんだ!彼女が…フィオラがいったいなにをしたって――」

シンシア「(かぶせて)おやめ。死にたいのですか」

アール「俺に脅しはきかな―――」

シンシア「(かぶせて)私たちが殺すのではありません!!お前を殺すのは中の毒姫。彼女に触れればその毒で、たちどころにお前を死にいたらしめるでしょう」

アール「ど…く…?」

シンシア「先代の国王夫妻が残された姫君。それが彼(か)の御方」

アール「待った。姫って…国王に世継ぎは…」

アールM「いや…子供はいるはずだった。毒で死んだのは、身重の王妃」

シンシア「両陛下は命を落とされました。ですが、臨月だった王妃から取り出された赤子は無事だったのです。しかし…」

シンシア「初めに血を吐いたのは産婆(さんば)…そして乳母(うば)。…彼女は、生まれながらに母の飲んだ毒を体に宿した”毒姫”でした」

シンシア「呼気(こき)、体液、触れた者を侵す毒…」

シンシア「新しく座についた王は、姫をこの島に幽閉しました。毒を受け、生き延びた者を、二度殺める(あやめる)は不吉ゆえ…」

アール「毒を消す…方法は……」

シンシア「そんなものがあったら、私がこのような面倒な仕事をしているとお思い?お前が姫に触れることも、姫が外界に出ることも決して叶わぬ。ここには誰も来なかった。お前も、私も。もう…、もう、姫にかかわるのはおやめ」

フィオラ「うっ…うっ……あ…あぁ(泣きだす)」

フィオラN「扉の向こうの沈黙は永遠に続き、扉の錠も外されることはない。…胸が、苦しい」

フィオラN「アールと出会う前はこんな気持ち知らなかった。ただ静かに、何も考えぬまま、自分が哀れなことに、自分が寂しいことに、気付かずにいられた。気付かずに、いられたのに……」


アールN「孤島に佇む哀れな毒姫。俺は彼女との逢瀬(おうせ)をやめた。どんなことを話せばいいのか、どんな言葉をかければいいのか、何を言っても、陳腐な嘘にしか思えないような気がした」

船乗り「風がにおうな。今日は早めに切り上げるか」

アールN「嵐が来る。大きな、嵐が」

船乗り「船を高台に引き上げろ!急げ!」

アールM「フィオラ…」

アール「―――っ…シンシアさん!?あんたどうして…あの子は…」

シンシア「今日はお世話に上がるのをやめたところです」

アール「馬鹿か!早く非難させないと…あんな古い建物、この嵐じゃひとたまりもない。助けないと…」

シンシア「助ける?なぜ?」

アール「…は」

シンシア「私たちはこの日を待っていた。誰が手をかけるでもなく、毒姫に死が訪れる日を。…守る必要が、どこにある?誰にも必要とされず、何の役にも立たぬ猛毒を」

アール「てめえ…くそっ!!」

シンシアの使い「…彼、行かせてしまってよいのですか」

シンシア「構わぬ」

船乗り「おいっ!!バカ!アール、何してやがる!」

シンシア「諸共(もろとも)に死んでくれればそれも重畳(ちょうじょう)。姫の顔は誰も知らない。骸が浜に流れ着いたとて、誰にも姫とはわからぬでしょう。あるいはご存命であるならばまた今まで通りにするだけだ」

船乗り「どこへ行く気だ!アール!おいっバカ戻れ!アール!」


アールN「彼女を知る誰もが、彼女を恐れ疎み(うとみ)、そして静かに彼女の死を願っている。彼女を恐れたのは俺も同じ。そして多分、彼女自身も」

アールN「でも今ならきっと間に合う。彼女に触れて俺が死んでも、船さえあれば彼女は助かるかもしれない」

アールM「―――違う。どうなるとかそんなことはどうでもいい。俺は、行かなくちゃいけないんだ」

SE(波の音と風の音)

フィオラ「ひっ…」

アール「フィオラ…フィオラ!」

SE(扉をどんどんとたたく音)

フィオラ「…ア…、アール…?」

アール「フィオラ!」

フィオラ「どうして…早く引き返して。岸に戻れなくなる!」

アール「駄目だ。一緒に行こう!俺は君を助けにきたんだ。逃げよう…ここから出るんだ!」

アールM「くそっ…錠があかない…」

フィオラ「…できないよ、出られない。聞いたでしょ?私はあなたを殺してしまう。大丈夫、私はきっと大丈夫だから…だから早く戻って、もう十分だから…あなたがこうして来てくれただけで、十分だから…!」

アール「フィオラ、一緒に見よう。紅葉も春の野原も、夏の緑も全部。全部、一緒に見よう」

フィオラ「っ……」

フィオラM「私のことを初めて必要としてくれた人、やさしくしてくれた人」

アール「扉、こっちから壊すから。離れてて」

フィオラM「触れてみたかった、顔をみて、おしゃべりをして、隣を歩いてみたかった。だけど―――」

フィオラ「もう…いいの…十分だから。だから…」

アールM「―――俺は、彼女を後悔させるのかもしれない。真っ暗な波間に揺れる小さな灯り。ここにいるよ、と、揺れるともしび」

アール「ごめん」

アールM「それでも俺は、今、君を」


アール「君を一人にできないんだ」


フィオラM「あたたかい、やさしい…優しい潮のにおい…」


ローザ「―――嵐の去った後、小島には誰の姿もなく それっきり……、二人がどうなったかは、誰にも分らないのです。…切ない恋のお話でしょ!」

ルミエール「ほえー。……どこが秘密の話なの?」

ローザ「えっ!?…さあ…」

ルミエール「さあ、って」

ローザ「だって母さんが内緒って言ったんだもん!」

ローザ母「ローザ!」

ローザ「あっ…父さん母さん…うわ!もう陽が落ちてる…。ちょっと行ってくるね」

ルミエール「結局どういう話だったんですかね」

リラ「さあ」

ルミエール「うわっ…その花触って大丈夫……」

リラ「毒はないわ」

ルミエール「え」

リラ「この花、内地に咲いていたものは深い青色をしていた。その色素で作られた羽織も青。でもほら、この花は」

ルミエール「白い、ですね…」

リラ「この花は塩分に弱い。潮風にさらされて、色素と一緒に毒も…」

ルミエール「あっ!じゃあお姫様も、海の真ん中で幽閉されている間に毎日潮風にあたって毒が…」

リラ「それはわからないわ。母親の胎内で毒素がどう変化したのか定かではないし。そもそも、彼女に接して命を落としたということ自体にほかの要因や謎があったのかもしれない」

ルミエール「…なんか、ややこしいっすね」

ローザの母「もう!心配するでしょ!」

ローザ「ご…ごめんなさい」

ルミエール「でも俺は、二人が助かってるとうれしいです。なんかこう、愛の力でぱーっとうまくいったんじゃないすかね!」

リラ「愛の力…」

ローザの父「ローザも悪気があったわけじゃないんだから…フィオラもこの辺に…」

リラ「ふふ…それを、行動力と言い換えるならそうなんでしょう。無謀か勇敢か、彼は恐れなかった。そういう話ね」