S8  99-3  鮮血の旋律 | レクイエムのブログ

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別府の鉈をいなし、三途が距離を空ける。受けのために腕から突き出した斧の刀身の半分ほどにまで、刃が食い込んだ跡がくっきりと残っている。


充遙(本部でもやり合ったが……やはりあの男には受けは通じない……受ければ逆にこちらが両断されかねない…… ならば、数で押す!)


三途の傷口から噴水のように血が噴き出す。それが飛沫ごとに三日月型の刃を模り、周囲を赤く染め上げるほどに広がる。


充遙「〔赤き月夜の行進曲ルナ・マーチ〕。」


草津「ムッ!!」


三途の指が鳴ると同時、刃が一斉に襲いかかる。地獄谷達はそれぞれの得物で弾こうとするも、その数と不規則な形の刃を防ぎきることはできない。段々と削られ始める。


草津「くぅぅぅぅ……!」


充遙「鎖分銅でもこの数は限界だろう?直にその鎖も、砕けるだろうな。」


三途が宣言した通りだった。地獄谷の振り回す鎖分銅の鎖に徐々に傷が増えていき、いつ切断されてもおかしくない状況だった。しかし刃が途切れた一瞬の隙を、地獄谷は見逃さなかった。


草津「鎖分銅が気になるようだな。ならば、くれてやる!」


なんと地獄谷は鎖分銅を投擲したのだ。予想だにしなかった攻撃に三途は反応が一瞬遅れるも、別の血の刃を生み出し、真正面から鎖分銅を叩き切る。鎖分銅は簡単に両断される。


充遙「フン!こんなもの、目眩ましにもならん!」


草津「そうか。ならこれならどうだ?」


気がつけば地獄谷は駆け出していた。彼が駆け出したのは、先ほどまで隊員達がいた場所だ。そこには、何やら風呂の桶のようなものがいくつも落ちていたのだ。


充遙「桶?そんなものを持たせていたのか?」


草津「兄ちゃんはさっき教育されてないのかと言ったが、アイツらは俺の指示通りに置いていってくれたよ。」


地獄谷の隊員達は通常の装備に加え、風呂の桶を持たされていた。これは地獄谷自身が、本格的に戦闘を行う際に使われる、れっきとした武器だった。次の瞬間、地獄谷が桶を投げつけてくる。


草津「こんなもの…… !?」


迫ってくる桶を目の前にした三途は瞬時に、投擲された桶がただの桶でないことを理解する。重く空を裂く音と迫ってくるその迫力は、別府の一振りを彷彿とさせるものだった。瞬時に三途が回避すると、桶が地面にめり込む。


充遙「何……!?」  


草津「一発目はそりゃあ……避けるよなぁ!」


再び地獄谷が桶を投擲する。別府の一振りと同じく受けが通じないと判断した三途が回避を選択する。再び桶の剛速球を回避する。


充遙「珍妙なヤツだ……!だが、その投げ方では1発ずつしか……!」


桶を回避したことで攻撃を見切った三途、しかしその瞬間、背中に強い衝撃が奔る。なんと地獄谷が投擲した桶をそのまま掴み、勢いを殺すことなく、悠馬が殴りつけてきたのだ。


充遙「なっ……!?」


悠馬「俺が親父殿の桶を受け止められないと思ったか?そしてこの桶は、〔鋼鉄製〕だ。」


桶を握っていた悠馬の腕が金属光沢と共に黒鉄に染まる。そしてその拳で三途の背中を打ち抜いた。


充遙「ぐはっ!?」


悠馬「副隊長、お願いいたします。」


三途が吹き飛ばされた先に飛んできたのは、別府だった。先ほどと同じように、鉈を大きく振り上げている。


充遙(鉈の大振り!同じ手を何度も食らうか! この私を……なめるなよ!!)


回避してカウンターを返す、三途はそのつもりだった。しかし三途が取ったのは、先ほどと同じ、腕から血の斧の刀身を生やした、受けの体勢だった。


充遙「な……?」


真司「それで耐えられるといいな。」


充遙(なんだ!?私は何でこんな手を……!この男の剛剣に受けは…… 待て、この男の一撃は……どうだった?)


なんと三途は先ほど強烈に印象に残ったはずの別府の一振りを全く思い出せなくなっていたのだ。そんなことはお構いなしに、別府の鉈が振り下ろされる。その一振りは、一筋の線と共に、三途の腕に深い切り傷を彫り込んだ。


真司「もうお前は、俺の剣を思い出せねぇよ。 コイツが〔食っちまった〕からな。」


そう冷徹に言い放つ別府の肩には、歯がシュレッダーの刃のようにびっしりと生えそろった小人が座っていた。


???『ジョリジョリ……ジョリジョリ……』