S8  97-11  広がる戦火 | レクイエムのブログ

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衝撃波が止み、そこにはもう轟々と燃え上がる炎は無かった。戒亡の姿が消えたことにより、葵は〔ガレオンキャノン〕を止める。


理央人「消えた……?」


倫太郎「ヤツはワープ能力を持っていると聞いてます!もしかしたら逃走を……!」


燈冶「……いや、〔燿凪〕は逃げてませんよ。」


彗「あきな?」


燈冶達の目には見えていた。真っ白な蒸気が立ち上るなか、ゆらゆらと今にも消えそうな炎がそこにはあった。それは炎の体のまま頭だけになった戒亡だった。〔驚天動地〕の中心となった戒亡の体は、まさに炎が消火されるように消えていた。


戒亡「ぐ……うぅ……」


燈冶「……。」


頭だけの姿になった戒亡へ燈冶は近寄る。放っておけばそのまま消えてしまうだろう。


戒亡「なんだ……まだやる気か……?」


燈冶「いや、この闘いは僕達の勝ちだ。 今の君には、抵抗する手段はもう無いはずだよ。」


戒亡「俺が言えた義理じゃねぇが……実の弟を殺した気分は……どうだよ……?」


燈冶「……最悪だよ。温度が上がり続ける燿凪を止めるにはこれしか無かった。 離れていたとはいえ、自分の弟に手をかけるなんて二度としたくない。 ……だからこそ、君のことは忘れない。」


戒亡「は……?」


燈冶「僕達の家は歪んでいた。もし家の風習が、家そのものが違っていたら、こんなことにならなかったのかもしれない。燿凪とだって、もっと自然な兄弟になれていたかもしれないんだ。」


戒亡「今更推測かよ……」


燈冶「だけど、あの家があったからこそ、僕らは生まれたんだ。 燿凪のことだって、絶対に忘れない。」


戒亡「……。」


黎花「忘れたくても……あなたは簡単に忘れられるような性格してないわ。」


全身に火傷を負いながらも、黎花も戒亡の元へ歩み寄る。その顔には、普段自身の姉弟に向けている嫌悪感はなかった。しかし、そんな2人に戒亡が返したのは、舌打ちだった。


戒亡「……チッ、最後の最後で兄姉に看取られることになるとはな……」


燈冶「……。」


戒亡(次生まれるときは……もっと普通の家に生まれてぇな…… 兄姉と普通に話すのって、どんな感覚なんだろうな……)


戒亡が目を閉じる。それと同時に風が吹き付けてくる。その時戒亡の脳裏に、ある映像が流れる。


花陽『燿凪、おはよう。』


燿凪『え……花陽。 その目……!』


それは戒亡、燿凪が望んだ、決して叶うことのなかった光景だった。生まれつき盲目だった野座間の目が、回復していたのだ。その目には、燿凪と同じ色の瞳が宿っていた。


燿凪『そ、そうか……治ったんだな……』


花陽『えぇ。ようやく花の色を見ることができるわ。あなたの顔もね。』


燿凪『……!』


これまで野座間は燿凪の顔を触っていて燿凪のことを認識していたが、見たのは初めてだった。自身の顔に広がる火傷のような跡を気にした燿凪は、その場を去ろうとする。


花陽『あら、どこに行くの?』


燿凪『いや……目も見れるようになったお前の横を歩くのは…… この顔じゃ……』


花陽『変なことを言うのね。 あなたの顔、とっても優しそうよ。触っていた時からずっと伝わっていた通りの、優しい顔よ。』


燿凪『……!』


すると野座間は燿凪の方へ、握ってくれと言わんばかりに手を伸ばす。


花陽『ねぇ、いつもみたいに私の手を引いて植物園を案内してくれない?まだ治ったばかりで……眩しいの。』


燿凪『……あぁ。分かったよ。』


燿凪は野座間の手を取り、植物園の中を進んでいく。2人の間を裂くものが存在しない世界には、幸せな時間が流れていた。


───────────


残り火だった戒亡は完全に消えた。そこにはもう、何も無かった。戒亡の最期を看取った燈冶は、とても悲しそうな表情を見せる。


燈冶「もっと早く気づいていれば、こんなことにならなかったかもしれないのに……」


黎花「燈冶、1人で抱え込まないで。 あなたが燿凪のことを背負うと言うのなら、私も一緒に背負うわ。」


戒亡が消えたことによって2人は気付いてなかったが、近くで倒れているはずの竜彌の姿は何処にもなかった。戒亡が消えたとしても、まだ本部での闘いは続くのだった。



S8  97  広がる戦火   完



次回予告

吾妻の意志を継ぎ、自らの野望のために動く五十嵐の勢いは更に増していく。

そこに野心を抱く巽が加わり、神成隊は全滅寸前まで追い込まれていた。


98 止まぬ嵐