S8  89-6  頑張り屋の悪魔 | レクイエムのブログ

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秀悟「……は?何言ってんだお前……?」


佐古は一瞬、猪原の言ったことを理解できなかった。猪原は佐古の方を振り返らず、自身の右手首にきつくタオルを巻きつける。


八戒「一条と風島を連れて逃げな。このままじゃあの2人、死ぬよ。」


秀悟「バカ言ってんじゃねぇよ!お前はどうするつもりだ!?」


いくら恋仲であれ、猪原の提案を佐古は呑めなかった。そんな佐古に対し、猪原は振り返り、自信がありそうな顔で笑いかける。


八戒「アンタの惚れた女が、こんな所でくたばると思うかい?もちろん一緒に逃げるさ。」


秀悟「……そうかよ!」


猛虎「なんや作戦会議かぁ!?ボクも混ぜてぇな!」


2人の会話に気づいた柴が一気に加速し、距離を潰してきた。その前に、左手にダンベルを握る猪原が立ちはだかる。柴の振るうタクティカルナイフとダンベルがぶつかり合う。


猛虎「その傷でようやるわぁ!押し返されそうやもん!」


八戒「チッ……!何が押し返されそうだよ……!」


猛虎「けど姉ちゃんって『自分の体が武器』ってヤツやろ? ちと得物の扱い方が不慣れやなぁ!」


その瞬間、猪原の太股に激痛が奔る。見ると、柴が隠し持っていた投擲用ナイフが深々と突き刺さっていた。それでも猪原は佐古に合図をする。


八戒「今だよ秀悟!行きな!」


秀悟「うおぉぉぉ!!」


猪原の合図で佐古が2人の間を潜り抜ける。そんな佐古を追いかけるため、柴は猪原を落としにかかる。なんとナイフを押し付けたまま、肘打ちを猪原のこめかみに差し込んできたのだ。


猛虎「ちょっと用事できたから離してやぁ。」


八戒「ぐっ……!」


肘打ちをもろに受けた猪原がダンベルを離すと、柴は爆発するかのように加速し、佐古を追いかけようとする。しかしその時、柴の襟首を掴む手が伸びた。


猛虎「うぁ!?」


八戒「どこに行くんだい……!お前は隅っこで大人しくしてなぁ!!」


猛虎「嘘ォ!?」


なんとそのまま襟首を持ち上げ、柴を部屋の隅へと放り込んだのだ。乱雑に散らばったトレーニング器具の中へ放り込まれ、凄まじい音が鳴る。


猛虎「ごぁぁ……っ!」


アンナ「!」


柴が吹き飛ばされたことで、バッドシンキングガイの力が弱まる。多少はマシになった痛みのなか、一条はラピッドアクセルを振るう。


アンナ「離してくだ……さい!」


一条の振るったラピッドアクセルは、バッドシンキングガイを袈裟に捉える。その一撃でバッドシンキングガイは悲鳴を上げながら一条を離す。床に着地すると同時、佐古が一条を拾い上げる。


秀悟「ここは一時撤退だ!ここでアイツとやり合うのは無理がある!」


アンナ「……はい!」


そのまま2人は風島も回収する。頭の打ち所が悪く、気絶していた風島の頬を何度も叩き、佐古は無理やり起こす。


秀悟「寝てるところ悪ぃな!こっから降りるにはお前の力が必要なんだ!」


剛「ぅあ……」


アンナ「剛さん!行きますよ!!」


八戒「……よし!2人とも回収できた!」


一条達の回収を確認した猪原も駆け出す。脱出経路に選んだのは窓だ。入り口は戦闘によって崩れたトレーニング器具が積み上がり、とてもすぐに通れそうに無い。


秀悟(窓まであと少し……!突き破って外に出る!)


八戒(少しでも情報を持って帰る……!あんなヤツがまだデモンズにいたなんて……!)


4人が窓まで向かっていた、その時だった。突如猪原の前を走っていた一条達が倒れ込んだのだ。


アンナ「うぅ……ぐっ……!」


秀悟「何だ急に……!痛ぇ……!」


八戒「!?」


足を押さえている様子を見ると、先ほどの一条と同じく、走っているだけで激痛が奔ったようだった。その原因を作っているのは、やはりバッドシンキングガイだ。


猛虎「おい……人吹っ飛ばしてもう終わりか?」


八戒「……!」


剛「嘘だろ……!」


4人に迫っていたのは、器具を押し退けて出てきた柴だった。猪原に投げ飛ばされたことが余程癪に障ったようで、これまで見せなかった怒気を見せている。


猛虎「バッドシンキングガイ……!お前も根性見せぇ。 こんなやり逃げ、ボクが許すと思うか……?」


アンナ「やっぱり……!闘うしか……!」


やはり柴から逃げることなどできない。再び闘いが始まると思われた、その時だった。


八戒「そのくらいの痛みが何だい!?さっさと走って飛びな!!」


アンナ「!!」


空気が痺れるような猪原の怒号が飛んだ。猪原に怒鳴られては、飛ばないわけにはいかない。


秀悟「そうだな……!こんな痛みで走れねぇようじゃ……!猿子隊は名乗れねぇなぁ!」


激痛のなか、一条達は無理やり走り出し、窓を突き破る。バッドシンキングガイは袈裟斬りにされたダメージによってまともに動けない。一条達はそのまま、窓からの脱出を果たしたのだ。


猛虎「……で?君は逃げへんワケかぁ?」


八戒「……フン!」


しかしただ1人だけ、猪原だけがその場に残った。このまま自分も逃げれば柴は間違いなく追跡してくると思ったのだ。


八戒「まだケンカし足りないみたいだから相手になってやるよ、クソガキ。」


猛虎「抜かせアホ。君殺して他のヤツらも追ったるわ。」