悠馬「姉上、失礼する。」
悠馬が絹代のトンファーを握る。すると握った箇所から悠馬の皮膚が鋼鉄のトンファーと同じ色、同じ光沢を纏っていき、悠馬の全身が鋼鉄となる。
悠馬「外道の弾丸などもう俺には効かない。」
「クソッ……!撃て!撃て!撃ちまくれ!!」
悠馬の声に護衛達は次々と弾丸を浴びせていく。しかし、弾丸は悠馬に当たる度に甲高い音を鳴らして弾かれていく。悠馬の全身は、本物の金属と化していた。
悠馬「言ったはずだ。お前達の弾丸ではやれない。」
そのまま護衛達へ次々と拳を打ち込んでいく。強固な金属の塊が高速で放たれるのだ。骨や内臓を容易く破壊する程の相当な威力となる。
「こうなったら……!俺がペシャンコに潰してやるよ!!」
すると弾丸が悠馬に通じないと分かった護衛の1人がスレッジハンマーを持ち出してきた。スレッジハンマーを振り上げ、悠馬に突進しようとした、その時だった。
絹代「〔ルックアットミー〕。」
「!?」
突如、自分の意志に反して首が横を向き、絹代の方を向いたのだ。すぐに視線を戻そうとするも何故か体が言うことを聞かず、絹代から目を離すことができない。前を見ずにそのまま突進したことで、悠馬の攻撃に反応できない。
悠馬「姉上、サポートありがとうございます。」
絹代「ん。」
悠馬が放ったのは、強烈な崩拳だった。鋼鉄と化した拳から放たれるその一撃は、大柄な護衛を1発で破壊した。
「ががががががが……!」
悠馬「柔いな。鍛錬が足りない。」
一方別府は、護衛達の大元である小谷と向き合っていた。別府の両腕には血管が浮き上がっている。
真司「お前、デモンズが弱ってる今のうちに名を上げたいらしいな。 それでやるのが殺人ゼリーの販売なのか?」
小谷「組織を動かすのはいつだって金だろ?お前らSWORDだってそうだろ! たまたま稼ぎ方が違うだけだよ!寧ろお前らは税金で食ってる分タチが悪いんだよ!」
真司「……その金は闘えない人達が自分達を守ってもらおうと、信じてもらって託される金だ。 お前らの人の涙で稼ぐ金と比べられたくもないな。」
小谷「お喋りはここまでにして押っ始めるかぁ!〔別府真司〕!!」
真司「ッ!?」
コンデンサーマイク越しに小谷が別府の名前を告げた途端、別府の体がまるで何かに押さえつけられたかのように止まった。即座に小谷が銃を放ってくる。
小谷「もらったぁ!」
真司「チィッ!」
銃弾が鳩尾に刺さると同時、別府の体の自由が戻る。銃弾は鳩尾に当たったものの、その銃弾は別府の内臓を捕らえられず、床に転がり落ちる。
小谷「鉄板入れてんのかぁ?それかSWORDの隊服……鬱陶しいなぁ、それ。」
真司「お喋りは終わりなんだろ?早く次の手出して来いよ。」
そう言いながらも別府は既に領域を侵略していた。得物である鉈を振りかぶり、落雷の如くそれを振り下ろす。その迫力に気圧されながらも小谷はなんとか回避する。
小谷「うおぉぉぉ!!マジで人殺せるヤツじゃん!!」
真司「逃げ回ってそのマイクで喋るだけか?男なら正々堂々打ち合ってこいよ。」
小谷「ヤダね!自分の得手不得手で闘うのが戦闘なんだよ!〔別府真司〕!!」
真司「!」
再び別府の体が止まり、その隙を突いて小谷が引き金を引く。しかし今度はいち早く鉈を顔の前に翳していたため、眉間を狙った銃弾は弾かれた。すると別府がぽつりと呟いた。
真司「……今ので〔ラストチャンス〕終わったぞ。」
小谷「はぁ?ラストチャンスが終わったぁ?何言ってんだよお前!!」
別府の言葉の真意が理解できない小谷は、自身の勝利を確信していた。
小谷(俺の〔サイレントリリック〕は名前を告げた相手の動きを数秒止める!これは自分の名前を覚えている限り誰にだって効くんだよ! 鉈を振り下ろしたタイミングで名前を呼んで動きを止める!今度こそこめかみにぶち込んでやる!)
小谷の狙い通り再び別府が鉈を振り下ろしてくる。それもなんとか気合いで回避し、別府の振り終わりの体勢を狙う。
小谷「今だ!これで終わりだぁ! ……!」
サイレントリリック越しに別府の名前を告げようとした。しかし小谷の口から別府の名前が出てくることはない。小谷の口は空いたまま、がくがくと震えていた。
小谷「え……えと……」
真司「どうした?俺の名前を言ってみろよ。」
小谷「えっと……えっと……登別?」
真司「誰だそりゃ?さっきまで高らかに叫んでただろ?」
小谷「さっきまで……あれ?なんて言ってたんだっけ……?」
小谷は頭がパニックになっていた。何故か先ほどまで高らかに呼んでいた別府の名前を思い出せないのだ。目の前にいる強者の名前が分からない、名前が分からなければ能力を発動できない、そんな絶望的な状況に至った小谷はナイフを抜く。
小谷「う……うわぁぁぁぁぁ!!」
真司「それじゃあダメだ。切っ先がブレブレだ。」
向かってきた小谷の腕を、別府が容赦なく切り落とした。これで勝負は決まった。小谷が力無く崩れ落ちる。
小谷「あ、あぁぁぁ……」
真司「テメェらには全部謳ってもらう。そして罪を償わせる。」
小谷を見下ろす別府の肩には、小人が乗っていた。その小人の口は、まるでシュレッダーのような歯がびっしりと並んでいた。小人は両手で自身の体ほどの大きさもあるカードを握っていた。
???『ショリショリ……ショリショリ……』