アンナ「西蛇隊長……」
蒼一郎「アンナ、よく持ちこたえたな。 ほら、これで傷口を塞げ。その間は俺が吾妻の相手をする。」
一条へ包帯を投げ渡し、西蛇は指を鳴らしながら吾妻に向き合う。突撃と同時、殴られていた吾妻は頬をわざとらしく撫でながら西蛇を見る。
千狛瑠「その傷で大した精神力ね。 それで私とやり合う気?」
蒼一郎「それはお互い様だろう。 お前の手下の五十嵐は倒した。後は……お前だけだ!」
言い放つと同時、西蛇は急加速する。西蛇に対し、吾妻はフィアーテラーズを前に出す。西蛇が振りかぶった拳とフィアーテラーズの拳がぶつかり合う。重くずっしりとした衝撃が西蛇を襲う。
蒼一郎(ロイドの鋭い拳とはまた違う威力だ……!まるで巨大なもので押し潰してくるかのようだ……! だが!)
キリングシェイドを巻きつけた腕を振り抜き、フィアーテラーズの拳を弾く。しかし腕が伸びきった瞬間、西蛇の腕にまるで電流が流れたかのような痛みが奔る。
蒼一郎(五十嵐との戦闘のダメージが出やがった!)
千狛瑠「ダメじゃない西蛇蒼一郎!伸ばした腕をそのままにしていたら!」
伸びきった右腕をフィアーテラーズが腕で挟む。吾妻の狙いに気づいた時には遅く、鈍い音と共に西蛇の右腕は逆方向に曲げられてしまった。
蒼一郎「~~~~~~~ッ!」
アンナ「西蛇隊長!!」
千狛瑠「自慢の拳が1つ潰れたわね!」
そのままフィアーテラーズが折れた腕を手に持ち替え、そのパワーで西蛇を振り上げると、思いきり地面にめがけ叩きつけようとする。しかし西蛇もただでは叩きつけられない。脚を曲げ、無理やり着地した。
蒼一郎「えげつねぇな……!」
千狛瑠「心臓がガラ空きよ西蛇蒼一郎!」
蒼一郎「!」
仰向けのような体勢になった西蛇へ吾妻はナイフを振り上げてくる。そして西蛇の心臓めがけ、ナイフが振り下ろされる。
蒼一郎「キリングシェイド!!」
西蛇の胸にキリングシェイドが巻き付くと、胸筋が隆起する。力の込められた胸筋に突き刺さったナイフは、心臓に切っ先が届く前に止まる。
蒼一郎「ぐうぅぅぅぅぅ!!」
千狛瑠「あと少しで終わりそうだったのに…… ん?」
その時、西蛇の左腕が上がった。人差し指を立てた西蛇の左腕が吾妻の鳩尾に触れる。その次の瞬間、固めた西蛇の拳が吾妻の鳩尾に突き刺さる。
蒼一郎「〔細針毒牙センチスネーク〕!」
千狛瑠「がはっ……!」
吾妻の手からナイフが離れ、吾妻が蹌踉めく。これを好機と見た西蛇が素早く立ち上がり、吾妻に追撃を仕掛ける。
蒼一郎「右腕を折られたくらいで俺が止まるか……!」
西蛇は駆け出し、飛び上がる。右脚にキリングシェイドが巻き付き、西蛇はそのまま跳び蹴りを決めようとする。しかし、その時だった。吾妻の目の前に現れたフィアーテラーズの巨大な口が開く。
蒼一郎「!?」
アンナ「まさか……!」
千狛瑠「西蛇蒼一郎、素晴らしい精神力だけど、お前は耐えられるのかしら?」
吾妻が指を鳴らすと同時、高濃度のテラースモッグが吐き出される。西蛇には一条のような精神汚染に対する耐性はない。少しでも吸えばたちまち恐怖に支配されてしまう。テラースモッグはたちまち、西蛇の体を包んでしまった。
アンナ「西蛇隊長!!」
千狛瑠「このまま恐怖に溺れなさい!お前はわざわざ私の力の糧になるためにノコノコとやって来た……」
蒼一郎「そんなモンになるために……!こんな所まで来るかぁ!!」
千狛瑠「!」
なんと目の前に西蛇の脚がテラースモッグを突き破って現れたのだ。西蛇に精神汚染攻撃は効かなかったのか、想定外の事態に吾妻が咄嗟にバックステップを踏んだ。しかし吾妻の体は、後ろにあるはずのない壁にぶつかって止まった。
蒼一郎「脚ってのは……体を支える分腕よりも筋肉があるんだよ……! 〔蛇突ビッグヴァイパー〕!!」
西蛇渾身の跳び蹴りはフィアーテラーズを突き破り、吾妻へと直撃した。西蛇の蹴りは深く突き刺さり、吾妻を弾き飛ばした。
千狛瑠「ぐはぁぁぁ!!」
蒼一郎「……ホントに凄いな、〔コレ〕。」
テラースモッグが晴れ、現れた西蛇の顔にはガスマスクが装着されていた。一条が皇城のために持ってきたものと同じものだった。西蛇の声に答えるように、歩み寄る人影があった。
???「当然だ。叶人川さんが制作したものだ。 お前が仮初めの恐怖に堕ちるなど、私が許さん。」
アンナ「……あ!」
西蛇の元に現れた人物、それは皇城だった。その目には先ほどまであった恐怖は消え、元の覚悟に満ちた目に戻っていた。
蒼一郎「それにしても、よく俺に合わせてくれたな。」
蘭世「私はお前の同期だぞ? 同期の考えることが理解できなくてどうする?」
千狛瑠「ぐ……うぅ……!」
西蛇の全力の拳と蹴りを受け、吾妻の体は痙攣を起こしていた。それでも吾妻は立ち上がり、西蛇達を睨みつける。
千狛瑠「2人とも随分仲が良いみたいね……」
蘭世「それにしても、酷いザマだな。闘い抜けるか?」
蒼一郎「それはお互い様だろ?」
アンナ「……お待たせしました!」
包帯を巻き付け、傷口を塞いだ一条も立ち上がり、西蛇達の元へ駆け寄る。この場にいる全員が満身創痍だ。それでも吾妻に対し、一条達は数的優位を取っていた。
蘭世「吾妻、貴様には降参など認めん。 貴様を完膚なきまでに叩き伏せ、我々は勝利を手にする。」
千狛瑠「誰を叩き伏せるって?自分の死を恐れるようなヤツらに私が殺せるのかしら?」
満身創痍になっても吾妻の気迫は衰えることを知らない。
千狛瑠「私は死を恐れない。死んだらそれ以上もそれ以下もない、そこで終わりだからよ。だから簡単に命を投げ出せる。 自分の命が惜しいお前らとはワケが違うのよ。 お前達が生きたいというのなら、命があるうちに徹底的に恐怖に沈めるだけ。お前達が生き残る道は無いのよ。」
蒼一郎(コイツ……!これだけボロボロだってのに……!)
闘いが更に激化することを悟り、西蛇達が警戒心を上げるなか、吾妻の論理を聞いた一条が口を開く。
アンナ「死ぬのが嫌だなんて……そんなの、当たり前じゃないですか……!」
蒼一郎「アンナ?」