原田マハさんの小説、好きラブラブ

 

『本日はお日柄もよく』はスピーチライター、

『楽園のカンヴァス』は美術品キュレーターの話だが、

あまり表に出ない職種の内側が細部まで描きだされ、

実際に登場するスピーチ原稿や絵画の写実が、もうプロのそれ。
(もちろん小説家としてはプロだが、

スピーチライターやキュレーターとしてもプロの域…だと思う)

 

緻密なリサーチと言葉の職人技に、圧倒される。

 

 

『キネマの神様』は、

きらびやかな職場を追われた40才の独身女性、円山歩と

その父・郷直の物語。

 

この郷直・ゴウちゃんが、またクセモノで、

80才を目前にして、ギャンブルにはまっている。

 

座右の銘は、「宵越しの銭は持たない」!

 

家族が咎めると、逆切れしてプイと出かけ、何日も姿をくらます、とんでもないオヤジだ。

 

自分の父親だったら、とても耐えられない…。

 

そんなゴウちゃんであるが、若い頃から映画が大好き。

 

ひょんなことから、名画座におわすシネマの神様の使途として、

ブログに映画評を書くことになった。

 

ところが、ただの老人のつぶやきに見えたこのブログが、

とてつもないアクセス数を叩き出すことになる。

 

英語に翻訳されたゴウちゃんの評論に、

ローズバッドと名乗る、謎の人物からの反論が投稿されたからだ。

 

ゴウちゃんとローズバッドのブログ上での論戦は熱を帯び、

世界中の映画ファンが固唾を飲んで見守る。

 

やがて会ったこともない二人の間には、友情が芽生え…。

 

 

マハさんの他の作品同様、

ゴウちゃんとローズバッドがブログに投稿する文章が、秀逸すぎて、目が離せない。

 

最後に、関係者全員で、二人が選んだ人生最良の映画を鑑賞するのだが、

その場面のそれぞれの気持ちの優しさや温かさに、思わず涙する。

 

ほのぼのした題材ではないはずなのに、心がふわっと柔らかくなり、

ああ、生きているっていいな…と思わされる。

 

そしてこんな小説が読める幸せを、しみじみと感じるのである。