久々の府中試験場

時の流れは早いもの。


忙しい仕事の合間・・


3年振りに書き換えた免許証には2度目のICチップが内蔵された。



武蔵野の豊かな樹木に覆われた試験場。

暇な講習中に思い出す、過去の記憶。

府中の記憶は真夏の思い出。




蝉の鳴き声・・アスファルトの陽炎・・テリツケル太陽。

一生忘れる事の無い思い出の1日。





時は1996年のお盆前。

どうしても乗りたくて、注文したマシンが免許より先にお店に入庫した。

kawasaki GPZ900R A10 国内仕様 青/シルバー 0km

俗に言うNINJA。

同い年の仲間に先を越された限定解除。

当時は本当にステイタス。

試験官の眼も鋭く、乗りこなせずに完走しただけでも簡単に落とされた。

事前審査はHONDA nighthoke750

砂の入ったガソリンタンクでの八の字と引き起こし。センスタ上げ。

当時の記憶は本当に重かった。

その後は、仕事を休みながら試験に通う事、7回。

毎回、水の泡に消える4000円弱だった。




頭が真っ白の1~3回目。外周にも出れず。

コースを覚えても、スタートの停止線で白線を1cm踏んだだけで終了の4回目。

急制動でタイヤロックの5回目。

ヤマハFZ750のギヤ抜けで落ちた、6、7回目・・。



試験回数が増す度に襲い掛かるプレッシャー。

限定解除の先輩達はみんな持ってる試験場武勇伝。

『俺は20回!』『俺は13回!』『俺の時はZ2だったぜ!』・・

数々のアドバイスや武勇伝を聞きながら、盛り上がる夜のバイク屋。



1996年の夏は、みんなで私の実家の八戸に泊まり、十和田湖へ行くtouringが企画済み。

次の8回目で合格しなければ、自分だけ400cc・・。東北道の片道650kmはシンドイ。

開き直りの8回目は、八戸touringの前日。

それまでの7回目は、印象度アップの為に・・

『白いジェットヘル』←借り物

『正統派ブーツ』にGパンをイン。←借り物

『suzukiのジャンパー』←借り物



8回目の太陽がギラギラ照らすお盆直前の試験場。

ド派手なオールペンのメットにミラーシールド・・

Gパン+Gベスト+黒のロングスリーブ+ウェスタンブーツ・・

普段着?(自分としてのバイクの正装)の自分が居た。



受験者は午前60人+午後60人。

午前の部で受験。金網の外には試験場で免許の交付を待つ人や休憩中の大ギャラリー。

いつも合格するのは、午前も午後も4~5人。

意外に早い自分の番。まだ、合格者はゼロ。

受験者もあわせた大ギャラリーが注目する中、

あきらかに危険な香りのするイデタチの自分がスタートする。




と、その瞬間の大絶叫と、どよめくギャラリーと拍手の嵐。

『やったー!!これでハーレーに乗れる!!・・』

同じ年位の若者は、そう叫び、号泣しながら、その場に泣き崩れた。

(合格か・・・いいなぁ・・俺も・・)

一瞬で変わった空気の中を、2回促されて、あわててスタートした。



乗車前の確認から、意外な程、落ち着いていた。

いつものスタイルのせいか、水を得た魚の様にスラロームと波状路。そして外周へ。

少しアクセルは開けすぎ。ポンピングも1発目に強く・・そして3回。

急制動もロック寸前の完璧。再び後方確認して・・クランク・・S字。

パイロンも無事。

そして有終の外周。

あっけない位に終了した。



合格とは、言われなかった。





こわもての試験官は、淡々と手続きを説明した。

『え?・・・』

試験を待つ、明らかなバイク乗りの恰好をした人たちから拍手と喝采が聞こえた。

『合格だよ・・』

こっちを見ずに試験官が呟いた。

みんなに小さく会釈をするのが精一杯。

金網の外の大ギャラリーも拍手してくれていた。

私は声にも出せず、心の中で叫んだ。




(これで、Ninjaに乗れる・・これで、みんなと八戸に行ける・・)












電話boxからバイク屋へ連絡。

スタッフはninjaの書類を持って、陸運局に登録へ駆け込んでくれた。

免許が交付され、急いで駆けつけたバイク屋に佇む青いninjaには、ナンバーが付いていた。

touringの前日という事もあって、店に居たtouringに行くメンバーが全員、祝福してくれた。

そのまま、納車の足で上野に行き、デビルのフルエキを買って、店に戻った。





デビルを装着した数時間後の深夜2時。

5台のbig bikeが環7を走り、鹿浜から東北道に乗った。









あれから、15年以上。

安全運転講習会で4輪コースで白バイを2台のNinjaで一身腐乱に追いかけたり。

超低速の千鳥走行での転倒や・・一本橋での耐久大会・・。

そんな事を思い出しながら、免許の交付を受ける別館へ歩く。

左手に見える金網越しの2輪コース。






今では当時の雰囲気はなく静まり返っている。

もう、あの時の盛り上がりや歓声は聞こえてこない。

役目を終えてるのか・・事前審査用の750が静かに1台佇んでいた。