トイレに出た時は既に満身創痍の状態だった。


いてぇ・・・。


たかがションベン、されどションベン。


かつて、尿意をこんなに恐れたことがあっただろうか。


かつて、こんなに痛すぎて射程が定まらないションベンがあっただろうか。


痛すぎて暴れまくりたい衝動と、便器内にちゃんと収めなくちゃならない葛藤の戦争である。



『あんた、なにしてんの!はよ包帯替えなさい。』



包帯巻き巻き君をぶら下げながら、ゲッソリと歩く息子に母は追い打ちを掛ける。


ふふ、わからんだろう。


あんたにはこの痛み、一生わからんだろうさ・・・。



リビングに入ったところで、床に座り込む。


包チンさんとニラメッコ。


ニラメッコは笑ったら負けだが、笑える要素が一個もない。


かといって、勝つ要素も一個もない。


いや、そんなことはまぁいいさ・・・。


もはや、わけのわからない悟りを開いていた。


少しめくれた包帯の端を掴み、少しずつ少しずつ剥がしていく。


剥がしていく度に、局部へと近づいていく。


それはまるで、刺さった針を一本ずつ抜いていくかのような作業だった。


何度もため息を吐きながら、小休止し、また覚悟ともにめくり始める。



『あぁ、もう!そんなゆっくりやってホンマ!!

サッとやってパッと替えたらいいやないの!!!』



あまりに焦れったすぎる行動に母が苛つき始めた。



『そんなん言うたかて、痛いもんは痛いんや。』


『あんた男やろ。我慢しなさい。』



男やからこそメッサ痛いんじゃボケ!!



もはや半泣きである。



『どうせ痛いなら一瞬の方がいいやろ。

ちょ!!あんたソレ貸してみ!!!』



ソレは一瞬の出来事だった。


一体何が起こってるのかすら、わからなかった。


母は、包帯を奪い取り、まるでベーゴマを回すようにそれをグン!!と引っ張りあげた。



ベララララァァァァ!!!



ヘリコプターのように超マッハで回るそれが見える。



ハギャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!



包帯がバッチンと取れても、まだ余韻を残すように回り続けていた。



GYABAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!




『・・・・ほれみぃ、一瞬やろ。』



一仕事終えたような顔で言い放つ母。


床には一つ、死体が転がっていた。


母の言う通り、一瞬で身動き一つできない息子が完成した。


それは空を飛ぶことはできないが、意識を飛ばす事ができるオカンの必殺技。



人間ヘリコプター・・・・。



嘘やろ・・・・。



ちょ、あんたマジか。



我が母ながら、息子の息子の荒使い加減が半端無さすぎる。


普通、もっと丁重に扱わないか?もっと、患部を大事大事にしてあげないか?


誰も見たこと無いぞ、あんな高速回転する息子。


もし、ションベンする前だったら、完全に人間スプリンクラーになっていた事だろう。



泣いた。


完全に号泣である。



『男やろ!!!泣きなさんな!!』



鬼畜。


なんという鬼畜ぶりだろう。


泣かしたのは誰だろう。


むしろ、これは男だから泣くんだよ・・・・。



初めて丸裸にされたそれが体の真ん中で横たわっていた。


あぁ、本当に皮はなくなったんだ。


痛々しいまでに、新しい血が次々と流れている。



『ほら!!!新しい包帯もつけたげるからはよ起きなさい!!!』



戦士に休息は許されない。


次の日から、ウジウジと包帯を替える度にすぐさま母が飛びかかり、

自分でやるから!!あたしがやったるわ!!!というわけのわからない攻防戦が続いた。




つづく